第6話 Lv1からノーチートだった勇者候補のまったり合コンライフ~完結編~

 田島が勇気ある撤退をしてから、5分後の路地裏にて。


 人気の居ない所へ誘導されているとも知らないで、士狼たちはヤリマン女子(ヤマンバ)たちのあとをウッキウキ♪ で付いて行っていた。



「けっこう入り組んだ場所にあるんだね、行きつけのカラオケ屋?」

「……なぁ猿野? これって……」

「シッ」



 それ以上は何も言うな、とアマゾンの台詞を遮る元気。


 2人とも考えている事は一緒だった。


 ……なんだか嫌な予感がする。



「俺、最初ナニを歌おうかなぁ? あっ、一緒にデュエットでもする?」



 1人だけ危機感の欠片もない士狼が、勇敢ゆうかんにヤマンバに声をかける。


 アイツはこの状況を何も不審に思わないのか?


 ちょっとだけ士狼の能天気さが羨ましいアマゾンであった。



「カオリ~?」

「あっ、トモく~ん♥」

「……へっ?」



 野太い声と共に制服を着込んだ4人組の男が目の前に現れたかと思えば、士狼たちを置いて野郎共の方へと駆け寄るヤリマン女子たち。


 きゃる~ん♪ と媚び媚びの声をあげながら、男たちとイチャイチャし始めるヤリマン高校の女の子たちを前に、元気とアマゾンは揃って額に手をやった。


 やっぱり、ハメられた……。


「最悪だ……」と小さく呟くアマゾンを横目に、いまだ状況が読み込めていない士狼が「えっ? えっ?」と見ていて可哀そうなくらいオロオロし始めた。



「あの……どちら様でしょうか? ――あっ!?」



 ようやく何かに気づいたらしい士狼が、慌てた様子で元気たちにアイコンタクトを飛ばした。



(た、大変だ! 大変だぞ、お前ら!?)

(ようやく気付いたか、相棒)

(お前のお察しの通り、どうやらオレらは美人局つつもたせにハメられ――)

(あの制服の紋章、間違いない! アイツら『帝学ていがく』だ! 帝学の奴らだよ!)



 士狼は怒りに身体を震わせた。


 帝学――それは県内有数のボンボンが通う私立帝王学院ていおうがくいん大学付属高校の略称である。


 イケメンとヤリチンが多いことで有名で、AV界に多くの汁男優を輩出してきたエリートどすけべ高校なのだ。


 さらに恐るべきことに、非童貞率が……驚異の90%越えの選ばれしドスケベでもある。


 ちなみに士狼たちが通う森実高校の非童貞率は……3%以下。


 それゆえにちまたの高校からは『童貞の森』と小バカにされていた。



(ゆ・る・せ・ん! コイツら、俺たちの合コンを邪魔しようって腹だな!?)

(いや相棒、多分もう合コンはないで?)

(あぁ、猿野の言う通りだ。状況的におそらく、オレたちはこのあと、コイツらにカツアゲされるぞ?)



 元気とアマゾンが小声でツッコムも『ヤリチンは殺せ!』をキャッチフレーズにしている士狼の耳には届いていなかった。



「大丈夫だったか、カオリ? 怖くなかったか? 乱暴されなかったか?」

「うん♥ 何があってもトモくんが守ってくれるから、怖くないよ♪」

「まったく、可愛いヤツめ。……さてっと」



 ヤマンバとイチャイチャしていた帝学の金髪ピアスが、改めて士狼たちに向き直った。


 その瞳は邪悪を煮詰めたかのようにネットリと濁っていて、口元には下卑げびた笑みさえ浮かんでいる始末だ。


 県立の、しかも進学校に通う士狼たちを下に見ているのだろう。


『いいカモが捕まった♪』とばかりに、金髪ピアスを中心に、帝学の4人が士狼たちを取り囲み威圧的に笑った。



「よくも人の女に手ぇ出してくれたなぁ?」

「オレらを敵に回すとどうなるか……その身体に分からせてやろうか?」

「ケガしたくなけりゃ、財布の中身を全部オレらに渡しな」

「おい? なんか言えや? おぉ!? ビビッて声も出ねぇのか!?」



「そんな虐めちゃ可哀そうだよぉ~」と、ニタニタ♪ と意地の悪い笑みを男たちの背後で浮かべるヤリマン女子たち。


 そんな彼女たちを前に、士狼はオドオドッ!? ビクビク!? した様子で口をひらいた。



「あ、あの……そんなにお金を持ってなくて……。か、金物かなものでもいいですか?」

「あぁ? しょうがねぇな。ナニくれんの? 時計? ネックレス?」



 そう言って、金髪ピアスが士狼に向かって手を差し出した。




 瞬間――士郎の右アッパーが金髪ピアスの顎をカチ割った。




「ぶべらぁっ!?」

「「「……はっ?」」」

「なるほど。金物だけに鉄拳パンチか」



 おぉ~っ! と感心した声をあげるアマゾンを横目に、士狼の右上段回し蹴りがすぐ傍でほうけた顔を浮かべる帝学の男子生徒の顔面を捉えた。


 目にも止まらぬスピードで繰り出された右の回し蹴りに、成す術なく吹き飛ばされる男子学生。


 そのまま返す勢いで残りの2人の首に足刀を叩きこんだ。


 途端に白目を剥いて勢いよく後ろに倒れる帝学の男たち。


 全ては刹那。


 金髪ピアスが士狼のアッパーでよろけた数秒の間に決着がついていた。



「ちょっ!? な、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁっ!?」



 舌でも噛んだのか、口の端からダラダラと血を流しながら、気を失っている帝学の3人を見やる。


 全員白目を剥いていて、起き上がる気配すらない。



「まったく、俺に拳を握らせやがってからに。俺の手は拳を握るためにあるんじゃねぇ。レディーを抱きしめるためにあるんだよ」



 相変わらず意味不明な供述きょうじゅつをする士狼。


 そんな士狼の姿に何かピンッ! とくるモノでもあったのか、金髪ピアスは奥歯をガタガタ震わせながら、



「その狂った言動に、クソダセェ髪型……デタラメな強さと消える右足……っ!? お、おまえ!? け、けけ、けけけっ!?」



「けけ?」と首を捻る士狼。


 そんな士狼を前に、金髪ピアスを確信していた。




『間違いない、コイツは……この人は喧嘩けんかおおかみだ!?』と。




 喧嘩狼――それは腕に覚えのある人間なら、絶対に知っている名前。


 去年、西日本最大派閥の喧嘩屋集団【出雲いずも愚連隊ぐれんたい】に中学生の身でありながら単身で乗り込んだ挙句、当時『西日本最強の男』とうたわれた総長をタイマンでくだして、出雲愚連隊を壊滅させた生きる伝説の男。


 中坊にして西日本の不良界で喧嘩最強の頂点に立ってしまったイカレリーゼント。


 その名も――



「大神、士狼……っ!?」

「いきなり呼び捨てとは失礼な奴だな」



 眉根をしかめる士狼を前に、反射的に金髪ピアスの身体が動いた。


 それはもう理性とか建前とか、全てをかなぐり捨てた本能の行動だった。

 



 ――死にたくない!?




 気がつくと金髪ピアスは気を失っている仲間を置いて、その場から逃げ出していた。



「あっ、おい!? ちょっと待て! こいつらを連れて帰れ!」


 遠ざかる金髪ピアスの背中に声をかける士狼。


 しかし金髪ピアスは構わず1人で人気の居ない路地へと消えて行った。


「おいおい? どうすんだ、こいつら……?」と途方に暮れる士狼。


 そんな士狼を前に、アマゾンは思い出したかのように口をひらいた。



「……普段の言動で忘れがちだけど、コイツあの【喧嘩狼】なんだよなぁ」

「まぁ相棒は相棒やから」



 西日本最強の男【喧嘩狼】。


 そんな男がなんで進学校に通っているのかは、永遠の謎だった。


 まぁどうせ『家から近かった』とか『女の子の制服が可愛かった』とか、そんなロクでもない理由だろう。


 アマゾンは深く考えるのを辞めた。


 元気はそんなアマゾンをその場に置いて、士狼の隣へと歩いて行った。



「珍しいのぅ、相棒? いつもならその無駄に高いコミュ力で喧嘩を回避する方向に動くのに。今日は中々、好戦的やないか?」

「どうしてもヤリチンが許せなくて。それよりも……コイツらどうしよう元気?」

「放っとけ、放っとけ。勝手に目が覚めて勝手に帰るやろう」

「ん~? まぁそれもそうか」



 そ・ん・な・こ・と・よ・り・もぉ~♪ と、士狼は上機嫌でヤリマン高校のヤマンバ達の方へと振り返った。



「お待たせ、みんな! ちょっと邪魔が入ったけど、カラオケに――あれ?」



 満面の笑みでヤリマン女子たちと合コンの続きをするべく、彼女たちに声をかけようとした士狼の表情がピシリッ!? と固まる。


 士狼の視線の先、そこには……誰も居なかった。



「へっ? あの……ヤリマン高校の皆様は?」

「帰った。というか、お前にビビッて逃げて行ったぞ?」



 ガッデム!? と、その場で膝が折れる士狼。



「あぁぁぁ~っ!? すまねぇ2人共!? 俺のせいで、せっかくのヤリマン高校との合コンがぁ~~~っ!?」

「いや、今回ばかりは助かったわ。色んな意味で」



 いまだ美人局だったと気づいていない士狼の肩をポンッ! と叩く、アマゾン。


 その横で元気は、マジ泣きしている士狼を無理やり立たせつつ、引きずるように歩き出した。



「とりあえず、気晴らしに何か食べに行かんか? ワイ、お腹へっちったわ」

「なら駅地下のラーメン屋にでも行くか? おい大神、いつまで泣いてんだ? さっさと歩け!」

「うぅ……つめたい……」



 ザメザメと泣く士狼のケツに蹴りを入れるアマゾン。


 3人の春はまだまだ先らしい。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――こんな感じで、士狼たちの合コンはいつも失敗します。


それでもめげすにレディーの尻を追いかけるのが、男子高校生なのです。


さて! 書きたいことも書き終えたので、この物語は完結です!


ここまでお付き合いありがとうございました!


あぁ~、楽しかった!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

涼宮ハルヒにはなれない僕ら けるたん @kerutan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ