第5話 Lv1からノーチートだった勇者候補のまったり合コンライフ~放課後決戦編~

 ヤリマン高校との合コンに選ばれた勇者たち、士狼一行はその日の放課後。


 約束場所である駅前の銅像前で、ヤリマン女子たちがやって来るのを今か今かと待ちわびていた。



「ヤッベ!? 俺、緊張してきた!? 緊張してきたよぉ!?」

「一体どんな可愛い子が来るんだろうね!? ね!?」

「なぁ~に、問題あらへん。今日のお昼から300回ほど脳内でシミュレーションして300回以上ヤリまくったワイに全て任せておけばよかたい」

「流石は元気だ! 机上の空論という言葉においてコイツの右に出る者は居ないぜ!」

「うん! 流石は『絶対に乗りたくない泥船』ナンバーワンなだけあるよ!」



 ジャンケンで無事合コンへ参加する権利を獲得した田島が、士狼と共に元気を褒めちぎる。


 そんな浮かれポンチである3人の気を引き締めるように、今夜の主催者であるアマゾンが厳かに口をひらいた。



「落ち着け、お前ら。過度の期待は禁物だぞ? もしかしたら女の子じゃなくてゴブリン、いやサイクロプスが来るかもしれないんだ。目標がセンターに現れるまで、気を緩めるなよ?」

「サイクロプスの居る合コンって、なに?」

「おい元気、コイツまだ先月の合コンの件を引きずってるぞ」

「あぁ! あのゴブリン、ホブゴブリン、サイクロプスと物理攻撃最強編成でやってきた顔面も性格も最悪なクソ女たちの事やな」



 しかしアマゾンの言い分も分かる。


 基本的に合コンは1人でも可愛い子がくれば御の字。


 2~3人はブサイクが来ると考え行動した方がいい。


 なんせ場合によっては全滅もありえるのだ。


 ここはアマゾンの言う通り、気を引き締め直すとしよう。


 元気は己の顔面偏差値を棚に上げ、改めて気を引き締め直した。



「まったく、レディーに対して失礼なことを言う奴だなアマゾン? 確かに可愛いに越した事はないが、女の子と放課後一緒に遊べる、それだけでプライスレスだろ?」

「……大神、お前のそういう所は素直に賞賛するわ」

「相棒は基本的に性格と顔が悪かろうが、女の子というだけで問答無用で愛せる男やからのぅ」

「ある意味イケメンだよね、大神くんって」



 これで顔と性格が良くて、デリカシーがあれば今頃カノジョの1人や2人居ただろうに。


 天は二物を与えずとは、まさにこのこと。


 3人は残念な友人に想いを馳せながら、スマホで時間を確認した。



「そろそろ約束の時間だな」

「よし、全員集合!」



 士狼の号令と共に、4人はお互いの肩を抱き合い円陣を組む。


 公衆の面前でいきなり円陣を組み始めた男子高校生たちに、周りを歩いていた歩行者たちは奇異の視線を送ったが、士狼たちは構わずお互いを見続けた。



「いいか? 誰かが失敗したら全員でフォローしろ。今日だけは足の引っ張り合いはナシだ。俺はおまえらのために、おまえらは俺のために働け!」

「当然!」

「了解や!」

「ま、任せて!」



 グっ! と一斉に頷く3人。


 士狼はそんな頼もしい仲間たちに心の中で『愛してるぜ、おまえら』と声をかけつつ、大きく息を吸い込んだ。



「この合コン、『勝利』以外の結末はありえねぇ! いくぞ、俺達は――」

「「「最強だ!」」」



 心の中で試合開始のサイレンが鳴り響く。


 高校球児たちよりも熱い夏が、今、幕を開けようとしていた。



「あっ、いたいた。アレじゃな~い?」

「ごみ~ん☆ おまたせぇ~☆」



 軽やかで甘い、女の子の愛らしい声が戦士たちの耳朶じだを叩いた。


 来た!?


 主賓だ!



「「「「ううん!? 全然まってないよ! むしろ今来たとこ的な? ハハッ!」」」」



 4人は打つ合わせでもしていたかのように、某千葉県に存在すると言われている幻のネズミ型モンスターのごとく甲高い声と共に、顔に笑みを張り付けた。


 さぁっ! 今夜はホットでタフなパーティーの始まりだぜぇ!


 4人の期待と共に開幕ブザーが脳内で鳴り響くと、勢いよく声のした方向へと振り返った。





 ――そこには、現代に蘇ったヤマンバが居た。





 元気たちは自分の心がスッ! と冷えたのが分かった。



「槍満女子学園美人4人衆、ただいま推参ってね♪」

「ちょっとカオル~ん? ハイパープリチーが抜けてるよぉ~?」

「あっ、メンゴメンゴ☆」



 ギャハハハハッ! と 歯茎剥き出しで豪快に笑うヤマンバたちを前に、元気たちは思った。


 これはMURIだわ☆


 マッシュポテトのような顔面を、コッテコテのギャルメイクで武装した事により、もはや一種の妖怪のような風貌ふうぼうの乙女たち。


 元気は素早く仲間内でアイコンタクトを飛ばしながら、



(アマゾン……どう思う、コレ?)

(チェンジ)

(アウト3か。妥当な判断だね)



 田島が同意だとばかりに小さく首肯する。


 元気も完全に同意だった。


 こんなのもう合コンじゃない。単なる罰ゲームだ。


 3人はそれとなくこの場を逃走しようと、適当な言い訳を口にしようとして、



「ううん、全然待ってないよ~♪ 俺らも今来たとこ的なぁ~♪」

「「「ッ!?」」」



 鼻の下をデレデレ伸ばす士狼に我が目を疑った。



(しょ、正気か相棒!?)

(よく見ろ大神、相手はもはや化け物だぞ!?)

(目を覚ますんだ大神くん!? 今ならまだ引き返せる!)



 3人の必死のアイコンタクトも、我を見失っている士狼には届かない。



「それじゃカラオケにでも行こっか?」

「じゃあウチらがよく使うお店紹介するね!」



 レッツゴー♪ と、先行して歩き出すヤリマン女子たちのあとを、夢遊病者のようにフラフラとついて行く士狼。


 流石に士狼を1人には出来ないと腹をくくったのか、しぶしぶとった様子で後をついていく元気とアマゾン。


 その場に残された田島には、一体どれだけの選択肢があっただろうか?


 田島は泣く泣く、断腸の思いで――3人を見捨てる事にした。


 純粋無垢なチェリーボーイにヤマンバは荷が重すぎたのだ。


 去っていく4人の後ろ姿を眺めながら、田島は息を殺してその場から逃げ出した。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――男の友情なんて、しょせんは墨汁に浸した書道半紙よりも儚いですからね……

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