第8話『最強種!光の民!群馬』(2/4)

 もちろん、零士が頭を穿つ者たちも同じだ。脳漿を撒き散らし、それでも普通に立っている彼らの姿は、何とも奇妙な光景だった。零士は必死に1体づつ仕留めていく。超脳化による思考の加速は、感覚時間を変え、反撃も容易に避けられる。ただのカカシ状態の肉塊を一掃する作業は、思いの外、楽なものだった。止まった的に狙いを定めるのは、これほど容易いこととは思わなかった。


 しかし、時間との戦いは厳然として存在していた。加速度的に疲労は増す一方で、終わりが見えないほどの敵が溢れていた。


 但し、零士一人では不可能と思われた討伐劇が、猫のナルによるエネルギー兵器の登場により大きく進展し、残りもわずかとなった。


 続いていく殲滅戦――。

 体感としてはさらに1時間ほど経過した頃、ようやく終わりが見えてきた。


「シャチ魔獣は殲滅完了です。零士さま、お疲れ様でした」と、ウルは脳内で静かに伝えた。


「やっとだな……。この屑肉も回収するか」と零士は大きく深呼吸をしてから、作業に取り掛かった。彼は心身ともに疲労困憊で、今にも倒れそうだった。


「エネルギー源にもなりますので、お勧めします」とウルも回収に賛同した。


 ナルが仕事を終え、足元にすり寄ってくると、脛に肉球で軽く叩きながら言った。「零士、これで終わったね!」


「ああ、ナル姉がいなかったら……相当ヤバイな、これ」と零士は周囲を見回しながら答えた。この数では本当に生きた心地がしなかった。


「あたしは範囲攻撃の方が得意だからね。適所適材よ?」ナルは自分の高い攻撃力を再確認すると、嬉しそうに言った。


「そういうことにしておくか。帰るか?」零士は微笑みながら言い、安全を確認した。


「そうね、そうしましょ」とナルも一仕事終えた後で疲れたようだ。


「ウル頼む」と彼はウルに頼み、「はい。超人化……解除!」とウルは応じた。次第に視界が灰色から元の色合いに戻り、実感としては長い戦いが終わった。


 この瞬間、まるで一斉に爆竹が弾けるかのように、シャチ魔獣たちの後頭部が爆散し、蜂の巣のように穴だらけになった魔獣たちが次々と地に倒れていった。


 零士が元の時間軸に戻ると、リーナの声が驚きとともに聞こえた。「え?」という言葉と共に彼女の動きは固まった。


 それを横目で見ていた零士は「終わったな。ちょっと回収してくる」とリーナに伝えた。


「えー! たったの数秒で何したの?」リーナは驚愕の表情を浮かべながら言った。どうやら、あの激戦の2時間超は通常時間だと、数秒程度の様子だ。


「殲滅戦だよ」と零士は軽く答えた。「え? え? 答えになっていないよー」とリーナが返す。


 彼女にとっては、始まるといった瞬間に、準備している最中にも見えない速さで動く零士の姿が信じられなかった。それは瞬く間に、爆散していく敵たちだった。これはもう、戦うというよりは圧倒的な力のもとに下された殲滅戦としか言いようがない。あまりの出来事に味方であるにも関わらず、戦慄すら覚えた。この人たちは一体何者なのかと……。

 


 リーナの声をよそに、零士たちは黙々と戦後の回収作業に取り組んでいた。エネルギー源を確保することはもちろん、売却可能な資材も少しは収入になるだろうと考えていた。


「ウル、今回の無茶ぶりで何か影響はあるか?」零士は気になりながら尋ねた。彼の眉間には軽いしわが刻まれ、目元は心配そうに細められていた。


「そうですね……。制限時間内に討伐を完了しているため、肉体的な負荷は大きくありません」とウルは静かに答え、その声には安心感が含まれていた。零士は内心ほっとしながらも、次なる問題に思いを馳せた。


「ならひとまずだな。あとは、技術の面だな……」彼は手を動かしながらも、深く考え込む様子を見せた。


「侵食率が20%に達すると、体術が自動的にスキルとして身につきます」とウルからの報告は、期待を込めたものだった。


「マジで?」零士の声は驚きと希望でいっぱいだった。その目は明るく輝き、未来への可能性を感じさせるものだった。


「はい、ですから侵食率を向上させることが、安全性を高める上で重要です」とウルは冷静に説明した。零士はその言葉に納得し、獲物の回収を一層急ぐことにした。


「今日の獲物でエネルギーは、どれくらい確保できる?」零士は期待を込めて問う。


「全て回収し終えた時に確認できるでしょう」とウルは答え、彼女の声には微かな楽しみが感じられた。


 この戦闘で零士は苦戦しながらも、ウルの支援とナルの活躍により難なく敵を倒すことができた。技術的にはまだ不十分ながら、力押しの戦い方で何とか乗り切る。特に、ナルの機敏な動きは多くの場面で彼を助けた。


 より大きな経験となった今回の戦闘。思考加速の技術は、まさにズルのような有利さをもたらすが、それを使ったら誰もが手も足も出せない。いずれ敵対するAIを持つ者が現れた場合、その脅威は計り知れない。零士にとって、これは避けられない戦いであり、対AI戦の技術習得が急務となる。


 彼は体の使い方やバランスの取り方を考えながら、未来の課題について深く思索する。どんなに身体制御を任せても、それを理解していないと思った動きと実際の動きにズレが出てしまい、効率的な力の使い方とはいえない。


 そのような課題を抱えつつ、零士はリーナの大きな勘違いに気づかないままだった。彼が難なく敵を倒し、遺体を収納する姿を見て、リーナは零士を高ランクのハンターと確信したのだった。


 零士は帰路につきながら、捕食することで空腹感が紛れる理由について疑問を抱いていた。ウルに尋ねると、彼女は栄養吸収とインスリンの作用について詳しく説明し、零士はその博識さに改めて感心したが、あの魔獣たちが栄養になるなどと考えると、結果として食っているのと同じで複雑な気持ちになる。

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