第8話『最強種!光の民!群馬』(1/4)

 ダンジョンの薄暗い回廊を進んでいる零士の前に、予期せぬ光景が広がる。何処からともなく現れた異形の生物群が、空間を満たすかのようにひしめき合っていた。


 その生物は、筋骨隆々の身体にシャチの頭を持ち、黒光りする湿った表皮が、不気味に輝いている。全体がナスのような色合いで、ダンジョンの地面がまるで見えないほどだ。零士は心中で思う。「これは一体何なんだ……」と。


「あたしは行くよ!」と、勇敢にも小さな体で敵に立ち向かうナル。その小さな姿が、巨大な敵に果敢に挑む姿は、まるで歴戦の猛者のようだ。


「ナル姉、左! 任せた! お前は、俺たちの後ろに」と、美少女に指示を出す零士。彼の声には、冷静さと決断力が込められている。


「私も援護するわ! それとリーナよ! あなたは!」美少女の声が零士の耳に響く。彼女の声には、計算された冷静さが感じられる。リーナは、迅速に魔法陣を展開している。その動きは、慣れたものだ。


「零士だ!」と叫び、戦闘態勢に入るリーナ。その声は、意気揚々としており、戦いへの準備ができていることを物語っている。


「そう。レイジ! 援護期待して!」とリーナ。彼女の声には自信がみなぎっている。


「わかった!」と短く返し、零士は超筋を使い、敵を次々と撃破していく。リーナは、零士に向けて自信満々の笑顔を見せる。一方で、彼女が描く大きな魔法陣は、ゆっくりと空中に現れ、完成するまでには時間がかかるようだ。


 零士は以前リーナが戦う姿を見ていたので、彼女の能力を信じて疑わない。しかし、今回の状況は数と環境が異なり、より厳しいものとなっている。


 まるで鮭が川を必死に上るかのように、ここでは川の水ではなく地面が唸りを上げて敵が密集しながら迫ってきた。


 ウルは、この未確認魔獣を「シャチ」と名付け、真正面からの攻撃を提案する。零士とウルの連携は、彼の脳内で密かに進行しており、そのやり取りには他の誰も気づくことはない。


 状況は一対多の絶望的な戦いに見えるが、ウルはさらなる提案を持ちかける。「零士さま、一段階上まで行けます。必要なエネルギーは亜空間倉庫に保存してある獲物から吸収します」と。


「わかった! 頼む」と短く答える零士。ウルは「特殊な環境での限界時間は2時間です」と時間制限を設ける。


「カウントダウンは任せた。頼む!」と零士は言い、ウルはすぐに「超人化! 発動!」と行動を開始する。


 戦場の景色は、灰色に滲んでいくように変わり、零士の見える世界は、すべてが微妙な変化と緩やかに動く超絶スローモーションとなる。この色彩が欠けた灰色の世界で、零士は超筋を駆使して、相手を殲滅する戦略を展開する。超脳と超筋の両方を同時に使う、それこそが超人化の姿だ。


「滑る?」と思わず口にする零士。ウルは「体表にある油のような物が物理的な打撃をずらしています」と説明する。打撃で挑むことが悪手であることを理解し、零士は舌打ちする。


「チッ! 俺たちには相性が悪いか」と零士。しかし、ウルは諦めず、「今は、この思考が加速した中で打撃を当てていくしかないです」とウルが伝える。


「他に何か力はあるか?」と零士が確認すると、「さらに上に行けば、雷電というエネルギー兵器があります。今はまだ無理です」とウルは未来の武装について伝える。


 零士は「マジか! わかった! 口をこじ開けて、ぶちかますぜ!」と、未来への希望に期待を抱き、現在の困難を乗り越える決意を固める。



 体表への直接的な打撃が効かないことが明らかになると、零士は一匹のシャチに飛びかかり、力強くその口を両腕でこじ開けた。通常の時間では単に口を開けるだけだが、この加速された思考時間では、零士以外は通常の時間軸に留まっているため、口が閉じることなく反応する暇を与えない。


 口を大きく開かせた状態で、零士は衝撃波を放ち、直接脳髄を狙い撃つ。多くの敵を相手にするこの戦いは、零士にとっても、彼の脳内に存在するAI、ウルにとっても一苦労だ。


「零士さま、今です!」ウルの声が脳内で響く。彼女の音声はいつもより緊急を帯びており、零士はその合図に「わかった!」と即座に応じる。


 全力で打ち込んだ衝撃波はシャチの後頭部を破裂させ、脳漿が散らばる。こうして一匹一匹、時間との戦いを続けながら地面を埋め尽くす敵を減らしていくしかなかった。タイムリミットは2時間。その間にどれだけの敵を倒せるかが、生死を分ける分岐点だ。


 しかし、ウルは既に一つの事実を把握していた。どんなにスムーズに敵を倒しても、2時間ではとても処理しきれない量だ。


 その間、零士は黙々と行動を続ける。まるで機械的に、次々とシャチの口を開き、衝撃波で脳髄を破壊し続ける。それは紛れもなく繰り返しの作業だった。


 しかし、そんな中、忘れてはならない存在がいた。ナルだ。彼女も時間差で現れ、「零士、やっぱりしてたのね」と軽妙な口調で言う。


「ナル姉もできたんか。というより、できて当たり前か……」零士は一筋の光明を見出し、ナルの登場に心から安堵する。


「そうね。私も参戦するわ。零士だけだときついでしょ?」ナルの言葉は心強い。彼女の声は戦いの中での一縷の希望となる。


「ああ、頼む。結構マジでしんどかった」と零士は吐露する。彼の表情は疲労を帯びつつも、ナルの加勢で新たな活気を帯びていた。


「任せて。エネルギー兵器がシャチの弱点でしょ?」ナルはさらりと問いかける。彼女の動作はすばやく、すでに戦いの準備が整っていた。


「よくわかったな……。というか、ナル姉のAIも同じ答えを出したのか?」零士が尋ねると、ナルはひらりとウインクをする。「ええ、そうよ。だからこうしているのよ」と彼女は答え、足に擦り寄りながら零士の脛に肉球を何度もポンポンと当てる。


 零士はその愛らしい仕草に心のどこかで安堵し、二人は目線を合わせて同時に頷く。「いっちょ、やりますか!」零士は意気込み、「そうね。踏ん張りどころよ?」とナルは彼を鼓舞する。その応答に、零士は力強く「おう!」と声を上げた。


 戦いの最前線で、ナルの威力は凄まじいものだった。「にゃー!」と叫びながら飛び上がるナル。空中で素早く猫パンチの動作をすると、エネルギー弾丸が雨霰のように降り注ぐ。その光景は、戦場を一瞬で変える力を持っていた。


「零士さま、あれは侵食状態が40%に到達した時に使えるナイトバレットです」とウルが解説を入れる。その言葉に、零士は納得する。「あれがそうなのか。ナル姉だとキャットバレットだな」と彼は返す。


 このような強力な武器を持つ彼らだからこそ、敵は途端に蜂の巣と化し、その数を減らしていく。しかしながら、相手の時間軸とは異なるため、全身が穴だらけであってもまだ倒れない状態だ。この異なる時間軸の戦いは、まさに時間との戦いそのものだった。

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