第7話『AIの導き』(4/4)

 そこで、少女は無邪気な声で訴えた。「えー! だって、この人噂より弱いよ? 私闘にすら――」その言葉が途中で遮られると、彼女の頭上で再び扇子が振り下ろされた。その様子は、なんとも滑稽であった。


 その時、厳格な声で、「もう一度言うわ。私闘は認められないわ」と冷たい声で告げた。その声には、石をも通すような鋭さが込められていた。


 少女はその言葉を受け入れたのか、「ご……ごめん、なさい」と肩を落とし、頭を垂れた。彼女の姿勢は完全に屈服の様相を呈していた。


「わかればいいの。さあ謝って、あの方にも」と女性が指示すると、少女はおずおずと彼女の方へと歩み始めた。彼女の前で立ち止まり、「ごめんなさい。強いと聞いていたからつい」と、誠実な謝罪を述べた。


 彼女の前で先ほどまでの勇ましい姿とは異なり、背を丸め、頭を項垂れた少女は、怒られた子犬のようにしょぼくれていた。彼女は内心、その様子を不気味と捉えつつも、表面上は感情を抑えていた。


「謝罪は受け入れるわ。ただ、私有地に許可なく入るのは良くないわね」と、彼女は侵入の事実にのみ言及し、その声には少しの怒りも感じられた。


「はい、ごめんなさい」と少女は素直に応じた。その様子に心を動かされ、「1つだけ教えて、なんで私なの?」と尋ねた。


「強いと聞いていたから……」少女の答えは素朴で直接的だった。「どんな印象?」彼女がさらに問うと、「んー。話にならなかったというか……」少女の率直な回答に少し驚いたが、「そ、そう……。精進するわ」と返答した。


 そのやり取りを見ていたもう一人の女性が怒りを爆発させた。「こら! 人様の家へ勝手に入っただけでなく、その言い草は何?」黒装束の女性の目は、まるで火を吹くかのように少女を睨みつけた。


 少女は慌てて彼女に向かって、「は、はい! ごめんなさい……」と何度も謝罪を繰り返した。


 その後、女性は深くため息をついて彼女に向き直り、「私の配下の者が非常識なことをしでかして申し訳ございません。私は黒蝶に所属する者です。こちらが証拠たるバッジです。こちらをお預けしますので後日お詫びの品と引き換えにお返しをお願いできますでしょうか。日を改めて伺いますゆえ」と言って、彼女の手に黒蝶のバッジを渡した。そのバッジからは影で作られた黒蝶が舞う仕掛けがあり、その緻密な作りにただただ驚嘆した。


 彼女はそのバッジを手にし、その重みを感じながら、この預かり物がどれほどの価値を持つのかを知った。そして、彼女はその場を収めることに同意した。「分かりました。そちらの配下の不注意ということでしたら、組織の方でしっかりと管理と教育をお願いします。願わくば、二度と起きないようにお願いします」と彼女は言い、その声には堅実な決意がこもっていた。


「ありがとうございます。その品は私にとっても大事な物であるゆえ、急ぎ手配させていただきます」と女性は言い、これで一件落着となった。




「分かりました」とは静かに言葉を返すと、一時の沈黙の後、「それではまた後ほど……」と続け、突如現れた空間の扉へと足を踏み入れた。その動きは確かで、決意を秘めていた。


 扉が静かに閉じると、彼女はその場に残された。彼女は黒装束の者たちの後ろ姿を、茫然とした表情で見つめていた。結局のところ、彼女は黒蝶の末席にただ遊ばれてしまったのである。ただし、その者は力加減がまだわからず、圧倒的な力を発揮していた。


 あのまま続けば間違いなく負傷していただろう。その力を持つ者に対し、彼女はただ守るることしかできなかったのだが、その抵抗も黒装束の少女にしてみたら、幼子がおもちゃを捻じるようなものだった。


「話にならない、か……」彼女は訓練用の広場でぽつりと呟いた。その言葉は重く、訓練場に響いた。彼女の心は複雑で、魔法に対する自信と、自身の未熟さが交錯していた。師からは才能があると太鼓判を押され、自分自身もそれを信じて疑わなかった。しかし、その自信も、今は揺らいでいた。


 そうして、彼女はますます努力を重ね、ダンジョンでのソロ討伐に身を投じた。それは無謀にも見えたが、彼女にとっては必要な挑戦だった。真の強さを求める道は、実戦にこそあると彼女は信じて疑わなかった。


 長い時間、家に帰らずに野宿を続け、戦いに身を投じていた彼女は、ある日、零士と偶然にも出会う。彼女は零士に全てを説明した。


「なるほどな……」零士は静かに一言だけ返した。彼の反応は冷静で、どこまでも現実的だった。彼は彼女の事情をただ聞くだけで、何も感情を揺さぶられなかった。


 それが彼女にとっては新鮮で、心地よかった。零士は彼女の背景に興味を持たず、ただの事実として受け止めた。彼の目には、彼女がただの戦士であり、その能力だけが問われる存在だった。


 彼女は零士の反応に少しだけ救いを感じ、同時に新たな決意も固まりつつあった。零士はその場を離れることを急いでいたが、彼女にとってはそれがまた適切な距離感だった。


 零士は内心で思った。「あ〜あ、風呂入りてーなー」と。彼は美少女についての興味はほとんど持っておらず、むしろ公衆浴場でリラックスすることに心を向けていた。


 やがて二人と一匹は、何事もなかったかのように基本的な話を終え、それぞれの道を歩み始めた。しかし、出口付近で予期せぬものに出くわす。それは通常の魔獣とは全く異なる存在だった。

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