第3話 『母親の話』
波留ちゃんと会うのは何年ぶりだろう。
波留ちゃんはあの事故の後から精神病を患っていると聞いていた。
波奈ちゃんがなくなった現実を受け止められていないのだ。
本人に自覚はないそうだ。自覚がないということが深刻なのだろう。
事故の発見が遅れ、事故を起こした犯人もまだ見つかっていないため仕方のないことなのかもしれない。
追突した車は2年経った今も見つかっていないのだ。
今日、美陽の葬儀に来ている子で私が知っているのは、綺麗な顔立ちで大学生とは思えない雰囲気を醸し出している桜ちゃんとその彼氏で、美陽の中学高時代からの友人でもある俊平君、白玉を連想させるような白く、ふっくらした顔が印象的な美幸ちゃん、色黒でがたいの良い弘樹君だ。
彼らは美陽を含めた仲良し5人グループだった。
4人ともこれでもかというくらいに涙を流し、暗い顔をしている。
嘘つき。
少なくとも桜ちゃんと俊平くんは。
私は全部知っている。
私は美陽から聞いていた。桜ちゃんと美陽の間に起きていたことを。
大学2年生の時だ。美陽は大学生にしては珍しいタイプで、頻繁に電話をかけてくれる子だった。
「私ね、、、彼氏ができたの」
美陽は浮ついた声でそう言っていた。電話越しでもにやける美陽の顔が浮かんだ。
「俊平って言うんだけど、、」
「あ、あのいつもの?中学校が同じだった?」
「そうそう、中学の時も仲が良かったんだけど、久々に大学で再会してからね。」
俊平くんは話を聞く限り好印象で、弘樹くんよりは良いなと思っていたので、素直に私も嬉しかった。
その電話から3か月ほど経った頃だろうか、美陽が泣きながら電話をかけてきたことがあった。
「俊平、浮気してた、、、。いや私が浮気相手だったのかも。昨日、桜から話があるって言われて、会ったの。」
美陽の話はこうだった。俊平と桜は1年ほど交際をしており、俊平の家を訪れた際にソファの下から美陽がいつも使っているリップグロスが出てきたのだという。
俊平を問い詰めたところ、終電を逃した美陽が泊まらせて欲しいと言い寄り、襲われたと。
桜の言い分は、5人でいるときも俊平と私の距離は近かったし、付き合っていることは知らないとしても好きであることは分かったはずだということだ。
5人の中でも信頼していた美陽に裏切られたことがショックだと言われたそうだ。
私からすると信じられないのは桜ちゃんと俊平君の方だ。
信頼している美陽に付き合っていることを伝えないこともそうだが、自分を守るために全てを美陽のせいにする俊平君も信じられなかった。
その出来事を境に、美陽から桜ちゃんと俊平君の話を聞くことはなくなった。
ここからは美陽に何か聞いていたわけではないが、ずっと嫌がらせを受けているのではないかと心配していた矢先の死であった。
だから私は今も、2人は美陽が死んでしまってラッキーだと思っているのではないか、実は裏では2人で笑っているのではないかと思っている。
美陽は純粋で友達想いの凄くいい子だったことは間違いない。
そんな美陽が不憫で仕方がない。
波留ちゃんが、美陽を信じてくれていることが唯一の支えなのだ。
今日は波留ちゃんに会えて本当に良かった。
波留ちゃんが美陽の死について、美陽についてここまで知ろうとしてくれているのだ。
『親友』 @Minto-chan
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