第2話 『過去』

美陽の母と直接話すのは何年ぶりだろう。

少しそわそわした。


「波留ちゃん、今日はありがとう、美陽のために」


と言って微笑んでくれてはいるが、その目は笑っていないように見えた。


「お久しぶりです…。」


聞きたいことは山ほどあったが、やっとでてきた言葉はそれだけだった。


「波留ちゃん、元気そうでよかった」


「その、、気持ちの方は落ち着いたの?」


「気持ち」というのも美陽のことでは無いと分かっていた。

私には双子の姉と2つ年上の兄がいた。

双子の姉である波奈も、現在東京の大学に通っており、幼い頃から私と美陽と3人で姉妹のような関係だった。

波奈は兄の死から立ち直ることができず、高校を卒業してから1度も兵庫に戻ってきていない。

葬儀があるとメールを送ったところ、兵庫に帰ると事故を思い出しそうで怖い、との返信が来た。

私は、強気で外交的な波奈を1番頼りにしており、大好きだった。

そんな波奈が姿を見せないほどショックを受けている、という事実がさらに私の心も痛めつけた。

上京前の春休みの出来事だった。

地元の大学に通っていた兄が波奈と私をドライブに連れて行ってくれた。

その帰り道、兄の運転する車両に居眠り運転の車両が追突したのだ。

私は1か月ほど意識を失っていたが、なんとか一命をとりとめた。

波奈は軽症で私が目覚めたときにはもう大学に通っていると本人からメールがあった。

しかし、兄は即死だったそうだ。

そのショックで私は両親に精神科病院に通うよう、促されているのだ。

私は正直な所、どうして通院しなければならないのかがわからない。

きっと両親の方が私より精神にダメージを受けており、意識が中々戻らなかった私に対して、神経質になりすぎているのだ。


「はい、私は大丈夫です、通院はしてますけど。」


「そう、よかったわ…。」


30秒ほど沈黙が流れた。


「あの、私、美陽のこともっと知りたいんです。どうしても、美陽が事故で死ぬなんて思えないんです。」


「警察はでも事故だと言ってるのよ。」


「それは分かっています。」


「美陽のことについてなら、、、そうね、お話するわ。」


美陽の母はぽつりぽつりと話し始めた。

私の手はひんやりとした汗で湿っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る