第8話

翌日の朝、俺は朝食を食べた後トレーニングに勤しんでいた。


拷問での疲労などは既になく、ほぼ万全の状態でトレーニングができるようになっていた。


やはり先日の明石とかいう男もそうだが、異能に頼ってしまっているのか身体が脆い印象を受けた。


しかし戦闘に関しては異能だけで決まる世界ではない。身体をうまく使うことも重要である。強い異能を手にしたら確かに身体に頼らなくても十分かもしれない。


しかし俺は異能が使えないという欠点があるため、それを肉体と作戦などによって補わなければいけない。


これから異能を使うやつと戦闘することもあるだろう。そうなったときに頼れるのは自分の肉体である。


「ふっ、ふっ、ふっ。」


今は片手で逆立ちをしている。やろうと思えば親指だけで出来そうな気がする。


「異能が使えないってのはやはり異常なんだろうな………」


そうつぶやく。しかし使えないものは使えないので、使える物を使うのが大事だろう。


「そろそろ庭で走るか…」


随分な時間筋トレをしていたらしい。


もう10時過ぎだった。


庭に向かう途中に綾香に遭遇した。


「またお庭でランニングですか?ほどほどにしてくださいね」


「ああ。気が済むまでやるさ」


「それはほどほどではないでしょう.......」


そうとも言うな。しかし動ける内に動いておきたい。


なぜかって?なんとなくだ!


そんな会話をした後庭につく。


「さて今日は何時間走るかな....。」


昨日は確か1時間ほどだった気がする。


不完全燃焼気味だったため今日は少し早めに走るとしよう。


それならば同じ時間でより走ることができる。


「連理君今日も走るんですか?」


晴香だ。昨日出かける前にこいつには見られていたんだったな。


「ああ。どうだお前も一緒に走るか?」


一応誘ってみる。


「じゃあ少しだ走ろうかな!」


元気が有り余ってるのだろう。仕事を放置し走るつもりらしい。


「じゃあ俺についてこい」


そういい走り出す。


「早っ!連理君早いよ!」


文句が多い奴だな全く。


晴香に合わせてペースを少し落とす。


これなら担いで走る方が早いまである。むしろ担いで走った方が筋トレも同時に行えるのでいいのでは……?


なんて考えに至ってしまった。


「なあ晴香。お前俺の背中に乗れ。」


有言実行を体現した男である俺は晴香に言う。


「え?なんでです?」


困惑した顔で言われる。そりゃそうだ。


「いや筋トレと同時に走りたい気分なんでな。」


「お姫様だっこなら考えます!」


らしい。まあお姫様抱っこでも可能だが……。


言質を取った(考えると言っているだけだが)ので晴香に手を伸ばしお姫様抱っこをする。


「はわわ......!」


晴香がかわいい声を出すが無視して走り出す。


「ちょっ!?早っ!?連理君もっとゆっくり走ってください!」


注文の多い子供だな...。


無視して俺は全力疾走で庭を駆け巡る。途中から嗚咽のようなものが聞こえてきたが今はこの気持ちよさを感じていたかったため気に留めなかった。


30分ほどたっただろうか。俺は流石に疲れたので庭に晴香をおろす。


晴香は目をぐるぐるさせなにやらつぶやいている。


「はわわ.......」


虚ろな顔をしていた。


「終わったぞ。お前にもこれやる。」


屋敷から持ってきたお茶を晴香に渡す。


「アリガトウゴザイマス」


なんか片言になってしまった。少し申し訳なく思った。


「コクコク。プハー!生き返るー!」


元気になった。


「やっぱこのお茶は良いな。俺特性のお茶だ。因みに俺の尿をブレンドしてある」


「ブー!ぺっぺっ!!何てことするんですか!?」


「冗談だ安心しろ。」


「連理君が言うと本当ぽく聞こえるんです!」


噴き出した姿がなんとも間抜けで面白かった。


「それより風呂行くぞ風呂」


「えっちなことはしませんよ!?」


「二回目だこのやり取り。いいから行くぞ」


そうして俺たちは浴場に向かった。


流石にシャワーは一人で浴びたけどな。


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昼食を食べ終えた俺は昨日読んでいた本の続きを読むことにした。


飛鳥家などに関する情報はこの本には載っていなかったがなかなか有意義な読書だったことは間違いないだろう。


しかし叢雲家という単語が気になった。そういえば俺がいた病院も叢雲だったしな。なんならこの町は叢雲市らしい。翼が通う学園も叢雲学園という名前である。


叢雲家に関して少し調べてみるのもいいかもしれないな....。


思い立ったが吉日という事でまた書斎に向かうことにする。おっさんの部屋を探すのもいいかと思ったが、今は叢雲家に関する情報が欲しかった。


「どこにあるか.....。確かこの辺に情勢に詳しく書いている本があったような....。」


ビンゴだった。叢雲市の歴史という本があった。これならば情報を得ることができそうだ。


難しい漢字などは辞書を使って調べるとしよう。


そのため辞書も借りていく事にする。教育を受けていない俺にとっては非常に大切なアイテムだろう。


「......。あれも拝借していくか」


あれとは以前はらぺこ蛞蝓だかなんだかの絵本に挟まっていた写真である。


少し罪悪感が湧くが少し気になったのだ。決してナニに使うとかじゃないぞ!ほんとだぞ!


改めてみるがやはり母親だろうか、翼を大人にしたような女だった。やはり胸は母親に似たか翼よ....。胸は控えめだった。


部屋に戻り俺は拝借した本を読むことにする。


「なるほど....。実質的な日本の長みたいなものか?」


この日本において叢雲家は最高位に存在する家系らしい。叢雲市の成り立ちに深く関わっているだとか、叢雲家の偉業などが書かれていた。日本を裏で牛耳っていると言われているほどらしい。


そして叢雲学園の理事長や叢雲病院の管理を行っているのも叢雲家の人間だという事が書かれていた。


なるほど、だから病院で叢雲病院は知ってて当然みたいな雰囲気だったのか....。あれは話を合わせて正解だったらしい。


翼は今日学園に俺が明日から通うこと理事長に伝えると言っていた。


それはつまり叢雲家の人間に伝えているという事だろう。特に俺と叢雲家とやらは確執はないので問題ないだろうが。


流石にここまで大きい家に喧嘩を売る度胸はない。


「実に興味深かったな。まあ叢雲家に関することは十分だろう。」


次は何に関する本を読もうか…。


にしても太陽の光を浴びたくなってきた。


俺は窓から飛び出し壁を上る。


そうして屋根に上り日向ぼっこをする。


「やっぱセロトニンしか勝たん」


太陽の光が俺を浄化していく。


持ってきた本を開く。太陽の真下で読む本もなんとも粋なものようのう。ほほほ


なんてじじい臭いことを思っている下から声が聞こえる。


「連理君ー!どうやってそんなとこ上ったのー!」


晴香だった。俺がどうやって屋根に上ったのか気になるのだろう。


「普通に壁をよじ登った」


多分聞こえていないだろう。バカでかい屋敷であるため声を張り上げないと伝わらない。


が、俺は大声を出すのが苦手なんだ。風呂場で叫んでいたって?知らないな


俺は下に降りる。


晴香をわきに抱えながら壁を上っていく。


「ええええええええ!?」


晴香が吃驚しているが構わず駆け上る。


「人間ってこんなことができるんだ.....」


何やら驚いているがこれは鍛えれば誰だってできるだろう。知らんけど。


「どうだ。太陽が気持ちいいだろ?」


「た、確かにそうですけど...」


いったい何がいけないのだろうか。


「俺はここで読書をするからもう行って良い」


伝えることは伝えたから行って良いぞと告げる。


「一人じゃ降りれませんよ!!!!!!」


なにやら喚いているようだ。


「仕方ねぇなぁ。特別だぞ特別」


そういい俺は晴香をまた抱えて飛び降りる。


「うぎゃああああああ!!!!!」


晴香が叫び散らす。


なんか面白そうだったから晴香を空中で投げてみる。


「これが重力かぁ」


晴香が重力と俺の投げた力にもまれ空中で一瞬静止する。


「なにするんですか!!!!!!!死んじゃいます!!!」


俺は先に地面に着地しているため晴香を受け止める。


ぽす、という音と共に俺の腕の中に納まる。


「危うく死ぬところだったじゃないですか!!!!!」


「死んでないから問題ないだろ」


あっけからんと言い切る。


「連理君って思ったよりアグレッシブだよね….」


何か観念したようにつぶやく


「アブノーマル?俺は性癖は普通だぞ」


「アグレッシブですよ!!アグレッシブ!!」


ぷんすかと怒る晴香。


膨らんだ頬をオレは握る。


「にゃにすふんでふか~」


小動物みたいで可愛かった。


晴香と戯れていると翼が帰ってきたため食堂に集まる。

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