第9話

確か今日は学園の理事長から俺が学園に通うことが出来るのか聞いてくると言っていた気がする。


俺が食堂に呼ばれたのも、その結果を伝える為だろう。


俺は断られた可能性に賭けて食堂に入る。


「あ、連理さん予定通り明日からよろしくお願いしますね」


「……………。ハイ」


祈りは届かなかったらしい。開口一番そう告げられてしまった。


くそう。このお嬢様案外強かだぞ……。


初対面の時なんか俺が屋敷にいても自由にしていいとか言ってたのに。


完全に詐欺である。


嘆いていても仕方がないため学園に通うにあたっての注意事項などを聞いておく。


「俺は学園についていくだけなのか?授業は受けるつもりはないぞ」


「大丈夫ですよ。連理さんのしたいことをすればいいと思います」


ふむ。したいことをすればいい...。か


ならば最大限好き勝手させてもらおう。


「わかった。昼はとりあえず合流する感じでいいか?」


「はい。学園の食堂を利用しても良いですが、お弁当などを教室や校庭で食べるのも大丈夫ですよ」


学園の食堂か。確か翼は学園に行く際にメイドから弁当を渡されていた気がする。


翼は教室かどこかで食べているのだろうか。


「翼はいつも弁当なのか?」


「基本的にはそうですよ。学園の食堂は人が多いですから」


たしかに人混みは得意ではなさそうだ。


「じゃあ俺の弁当も頼むな。さくらの料理は美味しいからな」


学食も気にはなるが、咲良の作った料理はとてもレベルが高い。


まあ機会があれば学食も食べてみよう。


「ついでだし、いいわ。作ってあげる。感謝してよね」


咲良は料理を褒められて気分が良くなったのか上機嫌でこたえる。


「ああ。できればタンパク質が欲しい。最近はトレーニングをしていたからな。身体がタンパク質を求めているんだ」


一応リクエストしてみる。ついでと言っていたので俺のだけタンパク質豊富にするのは手間がかかるから、断られるのは想定している。その時はそん時だ。


「いやよ。面倒だもの」


ちっ。やはりダメだったらしい。


「そういえば制服はどうするんだ?」


「そうでした。すでに手配はしているので明日の朝には届いていると思います」


にしても学園か……。通ったこともないが実感が湧かねぇな。


生徒として行くわけではないので制服なんて必要か分からないが、まああるのなら着ていこう。


その後食事をしながら学園について色々聞いた。


ちなみに例の明石何某は翼と同じクラスらしい。


なにやら楽しくなってきたなワハハ。


---


食事が終わった後は読書にふけり、時間を忘れていた。


「もうこんな時間か……」


読書を初めて随分経過していたのかもう夜も遅かった。


「風呂行くか....」


流石にこのまま学園に行くのは気が引けるため風呂に行くことにする。


風呂に入ることには途轍もないメリットがあることをオレはこの屋敷にきてから実感してしまった。


やはり風呂はいい。風呂しか勝たん!


「ってこの時間はたしかメイドたちが入っているんだったか」


まあ大丈夫だろう。既にこんな時間だ。


こんな時間に居るわけがないと脱衣所に入る。


「…………………………。よお。俺は.....私は今日からここで働くメイドのアミコだ。よろしくな。」


脱衣所には既に服を脱いでいたメイド達がいた。


俺は精いっぱい友好的に解決しようとする。


「「「「「「…………。」」」」」」


全員想定外のことが起こったからか呆けた顔をしている。


これはチャンスだ!このままメイドになりきるぞ!


「私は~翼様の~学園生活のお手伝いを任されました~!」


精いっぱい女声をひねり出す。


いける.....!


しかし、徐々に状況を理解したのか顔を赤くしていくメイドたち。


「今のなし。もっとこう良い感じに喉を締めれば.....。」


俺はそんなことお構いなしという感じに一人女声を出すための努力をしていた。


「「「「「ぎゃー!!!!!!!!!!!!」」」」」


「なんだ!どうしたいきなり叫んで」


「あんた頭おかしいんじゃないの!?」


咲良がそんなことを言う。


「いや、さすがにこんな時間に人がいるとは思わなかったんだよ。マジで」


「いや、それもだけどあの一人芝居はなに!?」


みんなもそれは疑問だったのかコクコクと後ろで頷くメイド。


「一番平和的解決ができると期待していたんだ」


俺がそう言うと徐々に腹が立ってきたのか各々から物を投げつけられる。


「いった!誰だ剃刀投げたバカは!」


剃刀はあぶねぇだろ!!


「バカはあんたよ!!!」


ぐうの音も出ない。


しかしこのメイドたちは何でこんな時間に風呂に入ってんだよ。


「まあこの景色は暫く見られそうにないからな、目に焼き付けておこう」


そういい視姦する。


「…………。ふぅん」


メイドはうまく隠しているつもりだろうが、メイド達の体には個人差はあれど目立つ傷が見える。


この類の傷は消えない。拷問でもない....虐待か?


翼はそんなことしないだろうから、メイドたちがここに来る前につけられた傷だろう。


「なによ......。早くでてってよ」


咲良は怪訝そうな顔をしながら言う。


まあ俺には関係の無いことだが……。こいつらも詮索してほしくないだろう。


「悪かった。また後で入るわ」


「そうして」


「あの……連理さん。多分連理さんは気づいたかも知れませんが、翼様には伝えないでくれませんか?」


綾香が言ってくる。


「あ?俺は何も気づいてないぞ。悪かったよじゃあな」


そう言って部屋から出ていく。


綾香は俺の言ったことを理解しただろう。


しかし....いろいろ訳アリなんだろうな。あのメイド達も。


ー-------------------------------------


「綾香ちゃん~連理さんに見られちゃったね~」


優菜が私にそんなことを言う。


「優菜……私たちの秘密が知られたかも知れないのよ?」


「でもでも連理さんなら~私たちのこと軽蔑しないと思うよ~」


はぁ。この子はやはり少し抜けているところがある。そんなとこも可愛いんだけど……。


私たちは下層区域の孤児院にいた。


そのため傷なんか幼いころに一杯ついた。もう昔の話だが、傷は治ってくれない。


それはみんなも同じだった。


みんな同じ孤児院で過ごした。


下層区域にあっても比較的安全な所にあったからマシな方ではあったけど.....。


「連理君なら私たちのこと話してもいいんじゃないのかな?」


晴香は既に連理に懐いているのか、そんなことを言いだす。


私たちが下層区域出身だという事は翼様は知っている。しかし、詳しく知っているわけではないため、知られたくなかった。


「駄目よ晴香。私たちの秘密はお墓まで持っていきなさい」


咲良はやはり反対した。それもそうだろう。得体のしれない男に知られていい秘密ではない。


秘密を出汁に下賤なことを要求してくるかも知れないのだから。


連理の反応を見る限り、私たちの傷は見られただろう。しかし、去り際に言った言葉から、詮索はしてこないだろう。


「連理はもしかしたら私たちを助けてくれるかも」


舞も晴香みたいなことを言う。この子は人に懐くタイプではないので意外だった。連理さんは少しミステリアスな所があるから、そこに惹かれたのかしら。


「見ず知らずの私たちを助けてくれる訳ないわ。それに、私たちに助けなんていらないんだから」


咲良はいつだって私たちのためを思って行動する。言葉使いはあれだけど、とても心優しい。


「そうよ。晴香も舞も、他人に期待しすぎよ。私たちはここに居るべきではないのだから」


あそこの人間はこの上層区域では人間扱いされない。


それを理解しているのは咲良と私と美穂だけだろう。まだこの子たちもはそれを良く知らない。舞がモデルをできているのは翼様のおかげだ。


「連理は助けてけれる。約束したから」


舞が言う。約束したとはどういう事だろうか。私たちの知らない所で何かあったのだろうか。


一体どういう事が起こればそんな約束をすることになるのか……。


「そんな口約束なんて守られるわけ無いでしょ。そもそもなんでそんな約束してんのよ」


咲良の言う通りだ。


「舞ちゃん羨ましい~」


確かに護ってくれると言われるのは羨ましくもある。しかし私たちは特殊だ。安易に信じる訳には行かない。


あの男も初めはそんな事を言っていたのだから……。


あいつの場合は口約束じゃ無かったが。


「彼は信用できないわ。何かあってからじゃ遅いんだから」


「最悪、翼様にも迷惑をかける可能性もあるのよ。今でさえ私たちは十分迷惑なのに……」


咲良と私がそう言うと流石にみんな黙る。そこからは誰も喋ることはなかった。


私たちは翼様に返しきれないくらいの恩がある。それは私たちの孤児院への寄付だけじゃ無い。


過去に私たちを貶めようとして来た奴らから私たちを護ってくれている。


しかし、翼様の父親が捕まったことにより、今抑止力として働くかわからない。


飛鳥の当主が捕まったことは今は表沙汰にはなって居ない。しかし、それも時間の問題だろう。


それに翼様のお母さまは今は行方不明だ。翼様は表情に出さないが、相当精神的に苦しいと思う。精神的に不安定だからこそ、彼を屋敷に招いたのだろう。


”彼”の存在が翼様にとっていい影響を与えてくれたらと願ってやまない。

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