第26話 先生と五十嵐
「五十嵐、なんで暴力を振るった?」
私は今生徒指導室にいる。原因も理由も私が1番分かってる。
「別に大した理由なんてないよ」
不貞腐れた態度をとってしまう。まぁ実際不貞腐れているけれど。
先生は腕を組んで、ただじっと私の事を見てくるだけだった。
それから何も言ってこない、ただ見てくるだけ。
だんだんと私の方がこの空気に耐えられなくなってきた。
「……友達を、守りたかったんだよ」
口から零れるように言葉が出てしまう。
恥ずかしいセリフを言ったみたいで少し恥ずかしくなる。
すると、やっと先生の口が開いた。
「友達を守っての事か……。教育者としてしリリーに怪我をさせたのは見逃せないな。だが、私個人の意見としては素晴らしい理由だ。偉いぞ五十嵐」
先生は私の頭を撫でてきた。すごい不器用な触り方で、普通なら手を払い除けるところだけど、そうはしなかった。今日は普通じゃないのかもしれない。
「何があった?詳しく話してくれないか?」
「言っても解決にならないだろ?どうしようもない問題なんだから」
「分からないだろ?聞いてみないと、こちらは何もしてやれない」
「分からない?聞いてみないと?聞いたところで意味がないって言ってんだ!」
私は机を思いっきり叩いた。分かってる。こんなのただの八つ当たりだって。
誰とか関係ない。誰も解決できないのに、どうしようもない問題を解決しろっていう私の我儘だ。
「いいから話してみろ」
全く微動だにせず、またじっと私を見てくる。
「……去年と同じだよ。解決できないだろ?出来たらさくらはまだこの学校にいたし、私も2年生になれてたかもしれないもんな?それとも何か解決案があるって言うのか?」
煽るように言い返してしまった。
どうしようもなくイライラして、先生に八つ当たりしまう。
「去年と同じなら、お前の言う通りだ。アレに関して私は関与出来ないし、そもそも部外者である私に解決なんて無理だ」
私はどこかで期待していたかもしれない。先生なら何か考えがあるんじゃないかと。でもそんな期待は一瞬で消え、私の心は更に荒れだす。
「部外者?先生なら生徒を守ってくれよ!?少しでも私達に手を差し伸べてくれたら……」
先生だろ?教育者だろ?なんで何もしてくれないんだよ?
よく堂々と部外者を名乗ってられるな……少しでも、期待した私がアホみたいじゃんか。
「五十嵐。私の言っている事はそっちじゃない。お前とさくら、お前と浅野の事を言っているんだ。2人の問題に対して私は関与出来ないし、ましてや仲を取り繕うなんて出来ない。繊細な問題だし、間に入れるとも思えない」
私達の事はいいんだよ。ほっといてくれ!周りの奴らをどうにかしてくれって言ってんだ……。
「誰が私達を仲直りさせろなんて言った?他にする事があるんじゃないのか!?」
「……去年は出来なかったな」
「――っ!……そうかよ!!何もしないなら説教なんてするんじゃねぇよ!!」
私の怒りは爆発した。確かに問題を起こしたのは私だ。でも、それだからって、そんな言い方はあんまりだ。
いい先生だと思ってたのに、唯一頼れる人だと思ってたのに、それなのに、結局面倒事は知らんぷりかよ。
椅子をひっくり返すほどの勢いで立ち上がり、大袈裟に踵を鳴らして生徒指導室を出て行った。
最後の最後まで私は、「待て」とか「五十嵐」とか呼び止めてくれる事を願ってた、けど何も、先生は何も言ってはくれなかった。
私は心の底で、怒りと悲しみが混ざり合うのを感じた。
「去年は、な……」
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