第4話 1番と6番

 高校へ入学してから早一ヶ月半。肌寒さが終え、日差しが少し暑く感じる季節。

 カーディガンを脱ぐ子や半袖だけだったりと、すっかり衣替えの時期だ。

 そんなわたしは周囲の動きに合わせる為、過半数を占める長袖を着ている。

 正直暑い。それでもわたしは多少無理してでも、周りに合わせてしまうのだ。

 なんでだろうね。

 クラスを見渡しても大半は長袖。なんならまだカーディガンを着ている子だっている。

 暑いだろうに。でもわたしなんかと違って、周りに流されない意志を持っているからわたしと比べるのはおこがましいか。


 横目で五十嵐先輩を見ると半袖だ。元気な子供は冬でも半袖に半ズボン。別に珍しくもない。

 五十嵐先輩のブラウスからは健康的な肌が主張している。少し前までは冬服で隠れていた為、ここまで露出された肌を見るのは初めてだった。

 ブラウスの白色と肌色のコントラストに目を惹かれる。

 瑞々しい肌、触ったらどんな感触なのだろうか。柔らかい?弾力がある?意外と筋肉質だったり?

 気になる。


「なに真顔で人の二の腕揉んでんだ?」

「ごめん。つい」


 気になりすぎて無意識に五十嵐先輩の二の腕に手が伸びていた。

 少しひんやりしてて柔らかくて気持ちいい。

「意外と嫌がらないんですね」

 女の子はこういう事に対して敏感のはず。わたしだって恥ずかしいし、触られたくない。

 でも五十嵐先輩はそんな素振りは見せず、黙って揉ませてくれる。

「だって別に太ってねえもん」

「――!?」

 確かに先輩は太ってはいない。全身のラインからして標準かそれ以下と思える。

 でも、わたし達にとっての標準はアウト。標準以下でギリギリセーフ。標準以下の以下でセーフというのが世の理のはず。


「155センチ51キロ平均的だろ?」

 先手を打たれた。というか恥ずかしげもなく乙女の秘密を堂々と……

 性格からして嘘を言うような人ではない。

 確かな情報なら、確かに平均的だ。


「失礼します」

 五十嵐先輩の机に身を乗り出し、お腹周りに触れる。摘まむ、摘まむ。摘ま、めない……

「五十嵐先輩、嘘は良くないですよ?あえて平均を言って実は平均以下という、やってはならない罪を犯し、て――」

 わたしは綺麗な肌や夏服にだけ目がいって、大事な所を見逃していた。

 震える手でわたしはそれを優しく持ち上げた。

 ずしり、と重量感が手の平に伝わる。

 おっも……


「最近また重くなってなぁー肩凝るんだよー」

「へ、へぇー大変ですね。因みにサイズは?」

「Fとかだったかな?」

 わたしの調べによると片方約800グラム。と言う事は五十嵐先輩は約1600グラムほどサバを読んでる事になる。

 ふぅん。


「で?千秋は?」

「言いません」

「別に太ってねえだろ!言えよー!」

「あーあー!きこえなーい!」


 正面に座り直して耳をポンポン叩いて声を遮ると、突然後ろから胸を鷲掴みにされる。

 あまりにも予想外の事で、声を出す事も払いのける事も出来なかった。


「えっとぉ、千秋……ごめんな?」


 今日1日五十嵐先輩とは口を聞いてあげない。

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