第10話 流星群

 大事なものに最初から出逢っていたのに、すっかり忘れてまわり道して、再び出逢えた。


 あの満月の夜、楓を思い出したことは運命で必然だったのだと思う。決して大袈裟ではなく。


 楓の作った、魂の込められた沢山のメロディー達は、時を超えて優しさとか温かさとか愛を伝えてくれた。


 こんなにも大切で愛おしいという感情。

楓の生き方そのものから、ただただ全力で与えてもらっているような感覚。


 これをどう表現したら良いのだろうと考えたとき、芸術家の岡本太郎の言葉を思い出した。


 "芸術は太陽のエネルギーです。ここにはギブ・アンド・テイクは成り立たない。陽光の如く無制限に、エネルギーを放出し、怖いほど与える。"


 岡本太郎の言う『芸術』とは、私にとって『楓の音楽』だった。私は楓から怖いほどに与えてもらえている。


 ギブ・アンド・テイクではなく、ギブ・アンド・ギブでしかなくて、私は何もお返しができない。彼は今活動していないため、購買という形で支えることもできない。感謝の言葉を伝えたくともファンレターの宛先もわからない。


 楓のブログは2020年のライブを最後にしばらく休止します。というお知らせの後、更新が途絶えていた。


 楓は今どこで何をしているんだろう?


 いつかは、この楓への情熱も冷めてしまうかもしれない。これまでの人生を振り返り、様々な物に対し熱しては冷めていった自分を顧みる。明日の自分ですら、不確定要素なのだ。


 でも、忘れたくない。


 一度心から好きになった人は何度出逢っても好きなんだと思う。今回の楓との再会でそれがよくわかった。



 明日はペルセウス座流星群のピークを迎えるそうだ。流星群と聞いて私は反射的に思い出した。


「昨日の夜、流星群を絶対見たかったんです。それでずっと見上げる姿勢してて。そのお陰で、今日首がめっちゃ痛いんです」


 昨日ラジオで聴いたと錯覚するが如く、時間がねじくれたようなおかしな感覚だった。

楓の言葉が頭の中でリフレインする。


 明日は必ず流星群を見つけよう。

 もしかしたら楓も同じ空の下で夜空を見上げているかもしれない。


 首を痛めないように気をつけて下さい。


 そして、どうかどうか変わらない笑顔で。

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流星群を君と 海乃マリー @invisible-world

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