11 年下の女の子にバブみを感じてオギャる男は良い(ただし二次元に限る)

 本日は定休日。この世界に来てから初めての休日だ。

 折角自由に使える時間がたっぷりあるのだからと、私はヘーゼルを連れて散歩へと出向くことにした。


 散歩に出ることにした目的は二つ。

 一つは地理の把握。ゲームマップを見ているので全体図くらいはわかるが、実際に歩いてみないと土地勘なんて培われない。これからこの地でしばらく暮らしていくのだから、近所のことくらいは知っておきたかったのだ。

 二つ目は、人気の無い場所を探すこと。現状の私の身体能力やスキルを一度確認する必要があると思っていたのだ。だから、近所の探索ついでに、どこか丁度良さそうな空き地でも無いか探していた。


 その辺をぶらつきながら、人目が無い事を確認しつつ、肩に乗ったヘーゼルに小さな声でお小言を言ってやる。


「そういえばヘーゼルお前、私に常識インストールするの忘れてやがったな?」


 先日の着せ替え人形化の時にした常識の摺り合わせで、この世界の常識で細かい部分を知らなかったのだ。

 正確には、原作設定以上の知識が無かったと言うべきか。


「忘れていたんじゃなくて、必要が無かったからやらなかっただけだね。悪く言えば、ここはよくあるファンタジー世界だからね」

「大雑把過ぎんだよなぁ!」


 どうやら彼の判断では、私が元々持ち合わせている知識で充分だったらしい。判定ガバすぎんよ!


「ところで雀の獣人、ルイと言ったかな。いやあ、彼女の撫で方は非常に良い。この化身の本能を満たす素晴らしい愛撫だったよ」

「愛撫言うなR18的な連想するやろがい」

「愛撫という単語は好意や愛情を示すボディランゲージの一種として使われる言葉で、必ずしも性的行為のペッティングのみを指すものではないよ」

「ウーン正論! 私の心が汚れすぎてましたね!」


 一瞬脳内にルイ×ヘーゼルルイヘーという単語が浮かんだが、地雷に抵触しそうなので頭を振ってその単語を頭の外に追いやった。


 いや、別にルイちゃんが攻めでも私は美味しくいただけるのだ。

 私の最推しカプの双璧を成すラガルイの攻めたるラガルティハは、私の中でBLなら基本受け(攻めも可)判定で、何ならルイちゃんより受け受けしい。故にルイラガの年下のお姉さん×成人済み概念ショタの疑似おねショタで大変興奮する。

 ルイヘーが地雷に抵触しているのは、単にヘーゼルが半地雷になりつつあるからだ。


 というか、そもそもルイラガが成立するのは、そもそもラガルティハの受け力が強いからである。

 黒髪金眼で火と闇のスペルを扱う事が最も尊ばれる竜人貴族の一族に産まれながら、その外見はアルビノで、扱えるスペルも土属性。故に一族の恥として幽閉されて育ち、生みの母親には唯一愛されていたものの、彼が若い頃に病死したため、長い間蔑まれて生きてきた。

 常識もほぼ知らず、情緒も子供のまま育っていない。外見にコンプレックスを持っているし、教育を受けられなかったが故に学力にもコンプレックスがある。コンプレックスの塊と言って良い彼は、他者に心を開けないのだ。


 可哀想は可愛いという先達の名言があるが、まさにそういうタイプのキャラなのだ。

 可哀想であればあるほど可愛い。

 可哀想は受け。

 可哀想な目に合って欲しいから、えっちで可哀想な目に合ってほしい。


 だが解釈的な問題で、私はラガルのカップリングはモブ以外だと、ルイちゃん相手の物しか見れない。相手固定というやつだ。

 ARK TALEに出てくるキャラクターの中で、彼が心を開ける唯一の相手がルイちゃんであると解釈しているからだ。


 ラガルの覇権カップリングは、同時期に実装されたからという理由だけでカップリング相手になっている犬獣人のヴィクトル、もしくは同じく同時期実装のスペル研究家のルーカスとのBLカプ。男女カプだと、盲目のシスターキャラであるヘレンとのカップリングが有名だ。後者に関しては盲目だから見た目は気にしないだろうという解釈からだろうし、私もその解釈はわからんでもない。


 だが、彼は非常にこじれた性格をしている。見た目にコンプレックスを持っているが、見えていたら当然「見世物みたいにジロジロ見やがって……!」と被害妄想を広げるし、見えなかったら見えなかったで「でも、もし見えていたら、どうせこいつも僕を馬鹿にするんだ……!」と考えるだろう。

 ヘレンに至っては、彼女から「外見の違いなんて気にしなくて良いのですよ」なんて言われた暁には、「見えないくせに分かったようなことを言うな!」とキレ散らかすことは容易に想像出来る。


 故に、彼の姿を見て嫌な顔一つせず、哀れむ素振りを見せず、その上で褒めも貶しもせず、ありのままの彼に対して普通の人を相手にするように、且つ優しく接することが彼の心を開く前提条件だと思っている。


 そして、ルイちゃんは作品内で、唯一そういうことが出来る子だという実例がある。


 今はルイちゃんの父親が飛べない鳥人だったこともあり、彼が幼い頃のルイちゃんに「人を見た目や能力だけで判断してはいけないよ」と常々言っていたことが影響しており、身に染みついているようなのだ。

 実際、この世界では非常に珍しいハーフエルフのオネエキャラに「初見でも自然体でアタシと話してくれるのは主人公とルイくらいよ」と言わしめている。


 そういう解釈のかみ合いによって、私はラガルのカプに関してはモブ以外だとルイちゃん固定になってしまったのだった。

 ラガルティハ、永遠にルイちゃん良い子良い子よしよしされて甘やかしてもらえ。二十歳にもなっていない年下の女の子にバブみを感じてオギャっていてくれ。


「それで、どこに向かっているんだい?」

「人気の無さ気な所。私がどんな能力を持っているのか確認したい」

「それなら丁度良さげな場所があったな。ついておいで」


 ヘーゼルは心当たりがあったのか、ぴょんと跳ねて地面に着地すると、跳ねるように走って道案内を始めた。

 意外に早く走る彼は、ちょくちょく止まってこちらが追いつくのを待って、追いついたらまた跳ねるように走る。足が短いから、普通に歩くと余裕で私が追い抜かしてしまうから、先導するにはこうするしかないのだろう。


 彼の案内通りに歩いて行くと、どんどん街の中心部から離れていく。

 そして、郊外一歩手前といった所で、幽霊屋敷に見紛う程に荒れ果てた空き家に辿り着いた。


「ここなら人もあまり来ないよ」

「本当に? お前この都市の地理に詳しいの?」

「いいや? 朝に散歩した時に、犬や猫に聞いたんだ」

「犬猫が情報源ねぇ……いや、野良ならむしろ人気の無い場所という情報では信憑性があるか」


 不法侵入になりそうだな、と思いつつも、先導するヘーゼルに着いて庭へと入る。

 確かにここなら誰も来なさそうだ。


「確認したいんだけど、私にも魔法……スペルが使えるんだよね?」

「そうだよ。属性までは知らないけどね」

「スペルって、どうやったら使えるの」

「使いたいと思えば使えるよ」

「こーの何でもそつなくこなす天才みたいな説明の仕方しやがって! せめて魔力を流れを体感させるとか、そういうのやってくれませんかね!?」


 ふう、とヘーゼルは呆れたようなため息をつく。見た目は可愛いのに一々動作がムカつくなこいつ。


「そんなこと言われても、魔力だなんて知らないよ。君達が言うところの『スペル』というものは、体内及び体外に存在するモルド体との思考共有による空想の現実化だからね」

「もっと分かりやすく説明してくれません?」

「要するに、君が『炎を出したい』と想像すれば、体内のモルド体がそれを体外に存在するモルド体に伝えて、体外モルド体が炎に変化するんだ」

「……モルド体って一体どういう生物なんだよ」


 純粋な疑問に、ヘーゼルは律儀に答える。


「手塚治虫の『火の鳥』は知っているかな」

「知ってるよ。有名な作品だしね」

「性質的には、あれに登場する、ムーピーという生物に似ているかな。相手の意志を読んで、望む物に変化するんだよ」

「はぁーん、なるほどね。そういうことか。ふんわりざっくりとは分かったよ」


 微粒子サイズで、無機物や現象にも変化できるムーピーと考えると、何となくイメージがついた。

 目には見えないが、その辺をふわふわ漂っていたり、私の体の中にうようよ流れてたりしているのだろう。

 考えててちょっと気持ち悪くなったが、現代でも普通に菌類やウイルスが体内に入り込んだり、空気中を漂っているのだから、それに似たようなものだと考えて割り切った。

 菌だと考えるからいけないのだ。もやすもんのようなゆるキャラっぽい見た目だと考えておこう。

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