第12話 私、メイドになります!

今日は朝からレイと一緒に、城へ向かう馬車に揺られていた。

三日振りのお城だ。


昨日、マリアンヌに町までついてきてもらって、通勤のほかに普段も着れるようなドレスを買いに洋服店に行った。

私は一枚でよかったのだけど、着せ替え人形状態にさせられたのち、マリアンヌがどうしてもって言って、三枚も買って頂いてしまった。


今日の初出勤には、きれいな若草色のおしとやかめなドレスを選んだ。長袖部分がふんわりとオーガンジーで少し肌が透けて見える。たっぷりめの袖が気に入ってて、着心地もとてもいい。もちろん、胸元はあいていない首までしっかりあるものを選んだ。


私の前に座るレイをこっそり見やる。

彼は朝が弱いのか、いつにもまして無口で、今も腕を組んで目を閉じている。どうやら微睡んでいるようだ。

近衛隊の隊服に身を包む彼を間近でちゃんと見るのは、今日が初めて。

詰襟で純白の制服に、胸元には階級を表す勲章がついている。

めちゃくちゃカッコイイ!!


さらさらの銀髪に白い肌。スラリとした細身だけど広い肩幅の彼にかっちりと、すごく似合ってる。

こうしてみると、睫毛、長いんだ。眉も形もよい。なんか、いつまでも見てられるかも。


目を閉じているのをいいことに、しみじみと彼の顔を観察してしまった。

彼がゲームの攻略対象じゃなくてよかった~

攻略相手に選んでたかも知れない。

なんなら課金もしちゃいそう……


なんて、わけわからないこと考えているうちに、私たちを乗せた馬車は城へ着き、私の初出勤の日が始まった。


私は、城で掃除やお茶を運んだりする使用人、つまりメイドさんのお仕事をすることとなった。


「メイドが出来るの!?」

思わずレイからその話を伝えられたとき、思わず嬉しくて喜びの声をあげてしまい、彼からかなり怪しげな目で見られてしまった。


いや、だってメイドさんでしょ?

めちゃくちゃ憧れる。

ほんとはメイドカフェとかでバイトもしてみたいけど、地味で人見知りの私には無理無理って感じで。ハードル高すぎて、バイトに応募する勇気もない。


でも、その憧れのメイドになれるうえに、制服も黒いドレスに白いエプロン。

それだけで、テンションあがっちゃうじゃない。

私に支給された制服を手にしたときは、もうめちゃくちゃ嬉しくて、自然と顔も笑顔になってたみたい。その場に一緒にいたレイにも「嬉しそうだな」なんて言われてしまった。


帰りはレイの騎士の仕事が終わるのに合わせることになったので、私もそれまでは城で過ごすこととなる。


私は可愛いメイド服に着替えて、新しい職場にいた。

新しい仕事に就くときって、緊張とわくわく感があって、なんか楽しくなる。


「ミツキ、お前はエリザと一緒に仕事をしてくれ」

そう言ったのは使用人たちを取りまとめるタリアン・ドレイクさん。

スラリと細身の長身に、黒の執事服がピタリと似合ってる。ゆるくウェーブがかった黒い髪に、紫の瞳。細い銀縁の眼鏡を掛けて少し神経質そうに見えるけど、まだ20代後半な感じで彼もなかなかイケメンだ。


誰かに似ているような気もするけど……


で、私が色々と一緒に仕事をすることとなったエリザさん、というか、ちゃんのほうがしっくりくるかな。彼女は私より4つ下の16歳。長い赤毛を三つ編みにして耳の横で輪っかにしてくくっている。

アーモンド色の瞳に化粧っ気があまりなく、まだ幼さが残っている。彼女の家には、エリザのほかにまだ幼い弟と妹、それからまだ赤ちゃんの弟がいて、彼女は四人兄弟の一番上だそうだ。

エリザ曰く、彼女もメイドとして城にきてからまだ三ヶ月ほどらしい。


「よろしくね!ミツキ」

朗らかな笑顔の似合うエリザが差し出した右手を、私は嬉しい気持ちいっぱいで握り返した。

「よろしくお願いします、エリザ!」

なんだか良いお友達になれそう。


タリアンさんはそんな私たちの挨拶が終わるのを待って、ポケットから銀の懐中時計を出し時間を確認すると、パチンと音を立てて蓋を閉めた。


「さてミツキ。お前は仕事が好きだと愚弟から聞いている」

「はい?」

タリアンさんの言葉に色々と疑問が…


「愚弟?」

「…ルーセル・オライオン・ベシエール」

不機嫌そうに言った。


えええ~っ!?

「ルーセルのお兄さん!?」

言われてみれば、紫がかった黒髪と濃い紫の瞳がルーセルの紫と結びつく。

あのチャラそうな塊のルーセルとまじめそうなタリアンさん。

雰囲気は全然違うけど。


「あいつとは異母兄弟だ」

「あぁ、確かに似ていらっしゃいますね」

言ってしまってから、しまった!と思った。

愚弟って言ったのに…

うわあ、あとの祭りだ。


タリアンさんは目を剥いて言う

「はあ!?どこかだ!お前の目は飾りか!?あの口から生まれてきたような男に、この俺と少しでも同じ血が流れているとは思えないだろう。女と見ればすぐに口説いて回る、万年発情期のあいつだぞ。どこをどう見ても似てないだろう。お前、今度目の医者を紹介してやる」


……やっぱり、似てる気がする。


タリアンは綺麗な顔をしかめて、心底嫌そうな顔をしている。弟ネタは地雷、と。


タリアンさんの地雷がわかったところで、私たちは

城の掃除をするよう言われた。


そう言えば、仕事が好き…てルーセルがタリアンさんに言ってたって、違います!て訂正するの忘れた。


仕事したいって言ったのを仕事好きと思われたのだろうけど、それは居候なのにタダ飯と、聖女様召喚失敗に申し訳ないを感じてのことなので、決して私は仕事が好きなのではなくて。

どちらかと言えば、仕事ない日は家から一歩も出ず、本を読むか書くか、ごろごろゲームしていたい。

私はキャリアウーマンとは真逆の人間だと思うから、今度訂正しておこう。


城の掃除は広いので担当を分けてする。

私とエリザはまず図書室の掃除をすることになった。図書室は吹き抜けの2階建てになっていて、壁一面本棚となっている。

なんて素敵な空間なんだろう。一日中、過ごせそう。


はたきを持ってパタパタはたいていると、妖精が二匹現れて、背中の透明の羽をキラキラさせながら、はたきの周りを楽しそうに飛び始めた。


レモン色とオレンジ色のワンピースを着た女の子。

はたきに合わせて、自分もはたきを持ってパタパタはたく振りをしては、手を口に当ててクスクス笑ったり、楽しそうに戯れている。


微笑ましくて、思わずこっちも楽しくなる。

はたきで綺麗にしたところから光の粉が舞い、窓から射し込む陽射しにキラキラと反射して綺麗だった。


こっちの世界に来て、妖精が以前より見えるようになってきた。

この世界の住人は、みな当たり前のように見えているのだろうか。

魔法使いがいたり、何か能力を持ってたりするくらいだもんね。ふと訊いてみたくなった。


「ねえ、エリザ。この国の人はみんな、妖精が見えたりするの?」

「え?ミツキ見えるの!?」

エリザははたきの手を止めて、私を振り返った。

「う…、ううん?ちょっと見えたような気がしただけ」

「えー!見えるのなんて凄いよぉ!」

彼女の顔には気味悪がったり怪訝そうなものは一切なく、あるのは本当に憧れのような表情かお


「見えるのって、変じゃないの?」

おそるおそる訊いてみる。

「まさか!妖精が見えるなんて凄いことだよ!」

「そう、なんだ」


妖精のいない遠い国から来た、という私のためにエリザが教えてくれたのだけど、まず、この国には妖精は普通にいろいろな場所にいること。そして、妖精は悪戯もするけど、力になって助けてくれたりもする有りがたい存在だということ。

でも、妖精が見えるのは魔法使いだったり、何か強い力を持ってたりする人で、みんなが見えるというわけではないから、この国では、見えるということは良いことなんだということを教えてくれた。

私は別に何か力を持ってるわけではないけれど、きっと視えてしまう、という体質なんだろう。


「ミツキ見えるって凄いよ」

「あの、見えるって言っても、ごくたまに?稀に?いつも見たくて見れるわけじゃないから、ほとんど見えないし、役に立たないよ」

「そっかぁ」


エリザはちょっと残念そうに言った。子供の頃は気味悪がられたのに、世界が違うとこんなに変わるなんて不思議。

でも、私には何か力があるわけでもないし、ほとんど見えないことにしておくことにした。


今は私たちのはたきに合わせて、妖精たちは楽しそうにダンスを踊っていた。






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