第17話 遠出とトラブル3
俺が、わざと声の大きさを上げて口に出した内容に、おっさんはぽかんとしていた。管理の人の顔は見えないが、周りの人間もぽかんとしているから、似たような顔をしているのだろう。
「トイプチは生き物だ。言葉を理解して学習して自分で動く。種類によってはカタコトで喋るようにもなるらしいし、こっちが理解している事を分かって、鳴き声の種類で「会話」を楽しむようにもなるらしい」
嘘じゃない。嘘ではない。何なら実例もある。調べれば本当だと、可能性自体はかなり高い事実だと分かるだろう。ちゃんと調べて、その結果を信じるのなら。
「だから「トイ・ダンジョン」の攻略を繰り返したトイプチは強くなる。倒した事のある敵への対処は早くなるし、知ってる罠は避けやすくなる」
「そ、それがどうした!? 他のトイプチとは関係ねぇだろうが!」
……今更ながら、さっきの俺の発言がヤバイ事に気付いたのか、おっさんが威嚇するように大声を上げるが、遅い。温い。ついでに、間違いだ。
「知らないのか。トイプチは、実は大きさの違いって言うのはあんまり理解してないらしいっていうのが最近分かったんだ」
「だからそれがなんだ!!」
「「トイ・ダンジョンの外で攻撃を許す」。これがアウトなんだよ。何しろ家の周りに出る虫の退治をさせられてたトイプチは、目についた虫系のトイプチを片っ端から殺すようになったんだからな」
「っ!?」
そのトイプチからすれば、敵も虫も他の見知らぬトイプチも、全部「攻撃していいやつ」だっただけだ。結構大きなニュースになったし、割と有名な話だぞ?
だから「トイ・ダンジョン」に対応して作られた探索庁から、ガイドラインが出たんじゃないか。「トイプチが「トイ・ダンジョン」の外で攻撃行動を取った場合、主は速やかに止めさせなければならない」と。ついでに「トイプチを害虫・害獣駆除に用いてはならない」ってな。
で。
「んでもって「トイ・ダンジョン」の中には、メカ系の敵がいるし、トイプチの卵からも出てくる。……なあおっさん。あんた、もしかして家電はあんまり使わないタイプか? 自動床掃除機買って見ろよ。即行で壊されると思うぜ」
「な……っ!? こ、このガキ、でたらめ言いやがって!?」
「ニュースにもなったのにでたらめとは酷いな。何なら探索庁の公式ホームページ見ればいい。ガイドラインのとこに事例として挙げられてるから」
「ぐ……っっ!」
「……運が良かったな、おっさん? 少なくともこの公園には、メカ系のトイプチがいないみたいで」
「てんめぇ……!!」
顔を真っ赤にしているおっさんだが、俺は事実しか言ってない。本当の事だ。それにたぶん、周りの反応からして常習犯だ。見ていてくれるように頼んだ管理の人が腹痛になったのは、演技半分ストレス半分ってところか?
実際、周りでこちらの様子を窺っていた人の何人かがネットで検索したらしく、顔色を悪くして近くの人に何かを見せている。本当の事しか言ってないぞ? 嘘を吐く必要はないからな。
……さて、自分が「やらかした」事を認識してもらったところで「どれほど」だったのかを認識してもらおうか。
「ちなみにこれは今回の「この近辺で時々起こる不思議な事故」には関係ないかも知れないが、俺のドローンは原価で100万を超える」
「はぁ!? 洗濯機ですら5万もしねぇのに、ふざけんな! 吹っ掛けてんだろ!」
「値段を言っただけだ。嘘だと思うなら「災害用ドローン」で検索してみればいい。あれは本体だけだし、こいつはバッテリーも増強してるしたっぷり装備も追加してる。機動性を確保するのにバランスもいじったし滑らかに動くように関節部は良いものを使ってる。原価で100万ならこの性能は破格だぞ? 何しろ俺が1から組み上げたオリジナルカスタム機体だからな」
「そ、そんな訳があるか!? 鉄くず程度にそんな値段がつく訳がない! 嘘だ! ガラクタ壊した程度でそんな馬鹿な大金払ってたまるか!?」
「俺はこいつを作るのにかかった費用を口に出しただけだ」
よし。
今、壊した、って、言ったな?
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