第18話 遠出とトラブル4

 トイプチによる、虫系トイプチ大量殺害事件。ショッキングな映像が出回った分だけ、サードパーティ装備によるトイプチ死亡事故の方が知名度は高いかもしれないが、被害数は比較にならない。

 しかも残念な事に、このトイプチによる特定の特徴を持つトイプチの大量殺害っていうのは、今でも時々起こる。そう。このおっさんのような奴がいるから。だから、トイプチの犯罪は、トイプチの主のものっていう法律も出来た。

 トイプチは主を、卵から孵した人間を決して間違えないし生涯変える事は無い。そして主を裏切る事も逆らう事も無い。だからこそ、悪意のある人間に悪意のある教育をさせられて、誰かの大事な家族や相棒を殺す実行犯にさせられる。


「あ、それと。これも今回の「不思議な事故」には関係ないかもしれないが、器物損壊罪にも幇助罪、手は出してないけど手伝ったっていう犯罪は適用されるからな。例えば、「犯行現場を見たのに見て見ぬふりをした」とか」


 周りで顔色を悪くしている大人達に良く聞こえるように言ってやると、更に顔色が悪くなる。だよなぁ? 手洗いは離れたところにあるから音も聞こえなかったが、こんなに派手に壊れてるんなら、その瞬間が見えない訳がないよなぁ?

 あのおっさんが余裕ぶっこいていたのも、誰も警察に届けないし警察だって取り合わないのが分かっていたからだ。全員まとめてアウトだからな。分かり切った事だろうが。

 そこまでを話して、そして話しながら進めていた撤収準備を完了する。残骸を集めて袋に入れてキャリーケースに入れるだけだからな。欠片も残ってない。磁石を使って細かいのも集めたから。


「さて、相棒がこの状態だと探索も何も無いな。帰るか」

「なっ!? てめ、このクソガキ! 帰れると思うのか!?」

「殴っても捕まえても傷害罪と監禁罪が追加されるだけだぞ?」

「っ!?」

「ちなみに俺は懇意にしてる弁護士と警察の知り合いがいる」

「はっ、やれるもんならやってみろよ。何も知らねぇクソガキが! 俺に逆らえる奴なんていないんだよ!」


 いやー、良い宣言もらったわ。特に警察の知り合いの方は、こういう奴が絶望したり屈辱を感じる顔が大好きらしいからな。性癖としてはだいぶアウト寄りだと思うが、それを存分に生かせる職業についた分だけギリギリ理性はある。

 もちろんこれもボイスレコーダーで録音しているから、証拠になるんだよな。というか、被害写真は取ってすぐ両方に送っている。もう確認している筈だ。ギリギリの手段も使うやつらだから、たぶんこの近辺の監視カメラ、既に映像抜かれてるんじゃねぇかな。

 まぁ勝ち誇ってくれてる方が俺は安全に帰れるんだが。ただ、どうしような? 管理の人の顔色が、視界の端で見えた限りかなりヤバかったんだが。こういう顔色になる人間の方が、思った以上にトンチンカンで思い切った行動に出る事がある、と、弁護士の方が言っていた。


「(……さて、どうするかな)」


 明日は月曜日で学校だから、出来れば家に帰りたい。だがもし藻久以外のストーカーが増えても困るし、家に襲撃かけられても困る。一応俺の部屋には結界札を設置しているが、結界札自体はレア度がかなり高いからな。難易度の高い「トイ・ダンジョン」からしか出ないし。

 何より襲撃をかけられた結果、家の中にある「トイ・ダンジョン」の発生スポットを見られるのが一番困る。周りに迷惑をかけていないし結界札を使っているとはいえ、バレたら怒られるでは済まないだろうし。

 ……仕方ない。それも含めて相談するか。


「……もしもし。岩谷さん? ちょっと相談があるんですが」


 念の為、家とは反対方向のバスに乗ってから電話をかける。音声データもボイスレコーダーを止めると共に送ったからか、1コールで出てくれたのは、俺が「協力者」としている弁護士だ。

 こっちは社会的バカや狂人を法律で縛り上げたい、と本気も本気で思っている人物だ。ただし腕はものすごく立つし、こういうバカ相手の時は大変頼りになる。

 結果俺は安全確保の為に一度岩谷さんの事務所に寄らせてもらい、そこの裏口からこっそり出る事で、無事に家に帰りつくことが出来たのだった。……やれやれ、酷い休日になったもんだ。

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