第16話 遠出とトラブル2

 顔が分かる写真は撮った。実行犯だろうトイプチのゴーレムが入った写真も撮った。被害状況が分かる写真も撮った。ボイスレコーダーもその流れで起動した。あとは、このおっさんの自白を引き出すだけだ。

 まぁ状況証拠的に真っ黒だし、そもそもこの場所は監視カメラでガッツリ撮影されている。何せ入口の近くだからな。不審者の出入りがあったらいけないから。

 もうそろそろ詰められそうだからと頑張っているだろう「協力者」には悪いが、追加の仕事を頼もう。大丈夫だ。ちゃんと依頼料は出すし、そもそも相手が悪いのなら報酬は向こうに出させる事が出来る。とりっぱぐれさえなければ働いてくれるタイプだからな。


「どうしました~? って、うわ!? 何ですかこれ!?」


 で、そこにさっきと違うが、「トイ・ダンジョン公園」の管理をしている公務員の制服を着た人がやって来た。そして俺と、俺の足元で無惨に壊された俺の相棒を見て驚いている。

 へらへら笑っているおっさんは、途端に笑いを引っ込めてすっとぼけた顔になった。遅いんだよ。あのへらへら笑いの顔で写真撮ってんだからな。


「前の担当の人はどうしたんですか?」

「あぁそれが、お腹痛くなっちゃったみたいで交代です。え? あの、これは君の?」

「はい。俺は手洗いにいくのに、通行の邪魔になったり持ち去られたりしないように、見ていてくれるようにお願いしていました」

「え、えー……あー……」


 管理の人は俺を見て、俺の相棒であるドローンの残骸を見て、それからすっとぼけた顔のおっさんを見て、その足元にいるトイプチのゴーレムを見て。


「あっあー……その、残念な事故、だったね……? 何か上から降って来たのかな……?」


 露骨に目を泳がせながら、あり得ない可能性を口にした。

 ……へえ……?


「俺は他の場所でも探索してますけど、初めてですね。ここではよくある事なんですか?」

「あっあっえっと、よくは無いけど、時々あるんだよねー……ふ、不思議だねー……」


 はーん?


「……公務員がそれでいいんですか? 例えばそこの子とかだと、骨も残らずミンチですよ?」

「やっ! そのっ! 人に対してこれが起こった事は無いから!」

「へえ。じゃあ原因は分かってるんですか?」

「げっ、原因は~…………分からない、かな~……」


 なお、原因は、と、分からない、の間で、ちらっと視線がおっさんの方を向いた。

 なるほどな。つまりあのおっさん、この近辺だと暴君ムーブをしても許されるぐらいの権力と財力がある訳だ。

 ふーん。


「と、とりあえずこれ片付けるね」

「触らないで下さい。警察呼びますから」

「それは止めた方がいい!!」


 さっきまでの誤魔化しとは打って変わり、全力で止めてくる。

 なるほど? つまり、警察関係でなんかパイプがあるって事だな? ポンコツ警察かぁ~。


「……。そうですか。でも自分で片付けます。上手く修理したら直せるパーツもありますから」

「え、いやでも、その」

「いいです。触らないで下さい」


 今は引き下がるしかないな。やるならポンコツ警察ごと根こそぎいかないと。ま、その時にはあのおっさんを止められなかったって事で、この人も巻き添えになるだろうが。俺の知った事じゃない。止めなかったのは確かだし、公務員がそれはダメだからな。


「ははっ。大変だなぁ坊主。手伝ってやろうか?」


 俺が引き下がる、と判断してそう行動し始めた事で、おっさんは勝利を確信したらしい。へらへらとした笑い顔に戻って、思っても無い事を口にした。

 俺はその言葉に振り返りつつ、その周りを見る。……ふむ。おっさんに同調する奴はいないが、好まれてもいない。まぁそれはそうか。暴君だもんな。近寄りたくないよな。


「――その内、勝手にトイプチを殺すようになるぞ、そのゴーレム」


 だったら近寄らなくていいようにしてやるよ。嘘は抜きでな。

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