第15話 遠出とトラブル1

「…………は?」


 席を外していた俺が戻って来た時、俺の相棒は地面に散らばっていた。

 え……?

 い、いや、落ち着け。何か俺がやらかしていたのかもしれん。まずはここに来るまでの経緯を思い出せ。



 今日はメンテナンスの翌日であり日曜日。追加武装を外して折り畳み、緩衝材をしっかり使って梱包した相棒をキャリーケースで運んで、バス停で6つ先の停留所で降りていい感じに人がいなさそうな「トイ・ダンジョン公園」を探した。

 ただ日曜日だからどこもそこそこ人がいて、結局それなりに広さがある場所ならまだマシだろうと探索資格証を出して中に入る。そして端っこの人気の無い所にあった、ゴツゴツした地面の土色の岩を盛ってぽっかり穴を開けたような、いかにもな洞窟。ただし穴の内径は20㎝程度という「トイ・ダンジョン」を見つけ、これを攻略する事に決める。

 相棒であるドローンを取り出し、追加武装を取り付けて軽く動かし、問題が無い事を確認して攻略開始。「トイ・ダンジョン」の難易度は入口の大きさによって変わり、その最大内径は50㎝。つまり内径20㎝の「トイ・ダンジョン」は比較的難易度が低い方に入る。



 実際特に問題が起こる事も無く攻略は完了。最奥にあったのは宝石で、鮮やかな緑色の宝石だった。それを回収して、ドローンを脱出させた。道中の敵は全部倒したし、罠は避けて、無事脱出も成功。

 内部からお宝と探索者がいなくなった「トイ・ダンジョン」は、泡がしぼむように消えていく。それを見送り、俺は一旦ドローンの電源を落として追加武装を外し、入口近くまで戻って探索や話し合いの邪魔にならない場所に移動させた。

 で、ドローンとキャリーケースに「触らないで下さい」と張り紙をして、「トイ・ダンジョン公園」を管理している大人に見ていてくれるように頼み、貴重品はしっかり持って手洗いに行った。


「……、あれ? 管理の人は?」


 で、戻ってきたらこの状況だし、近くで「トイ・ダンジョン公園」の中の様子を見ていた管理の人がいなくなっているのに遅れて気が付いたが、何だ? 何が起こったんだ?

 しかし、バラバラだ。見る影もない。というかよく見たら地面までへこんでいるから、これは、デカいハンマーか何かで、上から叩き潰された……?

 そして相棒のあまりの惨状に気を取られていたが、慌ててキャリーケースを確認する。……うん? こっちは無事だな? 予備バッテリーとか予備パーツとか入ってるのに。


「ドローンなんか使う奴がまだいんのかよ」


 何故……? とまだ呆然としながらもう一度無惨な姿になった相棒を見ていると、笑い交じりの声が掛けられた。

 振り返ったら、そこにはへらへら笑っている男がいる。ガタイが良いし、その足元にいるのはトイプチの中でも特に大きいとされる、高さ20㎝か30㎝のゴーレムだ。金属で出来ているような見た目だな。

 ……いや待て。あのゴーレムの大きさと、この地面のへこみ。ほぼ大きさが同じ?


「――――器物損壊罪って知ってるか、おっさん」

「は?」


 ようやく頭が回るようになったから、まずは素早く大惨事になった相棒の状態を、地面の状態も分かるように角度を変えて写真を撮る。その流れで角度を変えて、ゴーレムの姿入りのおっさんの写真も撮った。


「他人の物を壊しちゃいけません。小学生でも分かる事だ。だが懲役か罰金とその罰は重いぞ。もちろん、壊したものの弁償もしてもらう」

「あぁ!? トイプチを殺す機械を壊して何が悪いってんだ!?」

「俺はトイプチに攻撃した事は無い。そもそもここに運んだ時点で電源は切っていたし、スイッチが入らないように安全装置はかけていた。危険な場所にはカバーをつけていたし、第一「触らないで下さい」と張り紙をしておいた筈だ。張り紙を無視したな?」

「はっ! あんな紙切れが何だってんだ!」


 ちなみにその張り紙は、無残な姿になった相棒の破片でビリビリに破けつつも辛うじて読める状態で残っていた。張り紙の上から叩き潰したって事だな。もちろん写真は撮ってある。

 ……子供だからって舐めてかかるんなら、相応の対応をしてやろうじゃねぇか、ドローンを嫌うまでは良いが、勝手に壊すような馬鹿野郎が。

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