第14話 閑話は平常平穏5

 で、風呂も入ったし飯も食ったし、後は歯を磨いて明日の準備をして寝るだけ。

 だったんだが。


「何の用だよ、菅池」

『せめてもしもしぐらいは言った方がいいんじゃないか?』

「俺の番号にかけてくる相手なんかいないからな」

『お前……そこ開き直るところじゃないぞ』


 何故か、最初に話をした時に念の為と交換した番号から電話がかかって来た。なんだよ。俺は装甲の調達方法だけはあれだが、無事メンテナンスが終わって満足して寝るだけだったっつーのに。

 第一、菅池はあのツリ目女子のファンガチ勢だし、当然ツリ目女子、の道場を母体としたギルド「助之道場探索部」に所属している。なおかつ俺がギルドに所属するなら敵に回ると宣言しているから、同担拒否の気もある。

 そんな菅池が俺に連絡してくるって時点で既に厄介事でしかない。何しろ自分を肉の盾だと言い切っていたからな。そんな一周回って潔いぐらいの奴が、莉緒様とやら以外の為に動く訳がない。


『ところで津和、明日暇か?』

「生憎遠出する予定がある」

『まぁまぁ。「トイ・ダンジョン」の攻略だろ?』

「トイプチと一緒には攻略出来ないぞ。ソロ専のカスタムしてるからな」

『はっはっは』

「ドローンにはバフもデバフもかからないし、トイプチはカメラ外に移動しやすいから場所をすぐ見失うし、最悪トイプチと同士討ちしかねないが?」

『……え、そこまで相性悪いのか』

「悪いから共存できてないんだろ」


 どうやらそういうつもりだったらしいから、先にどう頑張っても無理だと言う理由を出しておく。そうなんだよな。ドローンはカメラの映像を見ながら人が操作するものだ。対してトイプチはカメラこそ装備しているが、トイプチ自身が判断して行動する。

 そして「トイ・ダンジョン」の中は閉鎖空間であり、一緒に行動するとなると、ドローンと比べて小さいトイプチはどうしても見落としやすい。敵だけならうまく動いてカメラで捉え続ければいいが、味方のトイプチの動きも確認しながら、というのは、無理だ。

 ドローン同士なら、まぁ最悪ぶつかってもパーツを交換すればいい。大きいし、操作する人間同士で声を掛け合って気をつければいい。だが、トイプチとの連携は、難易度がものすごく高いんだよな。連携用にカスタムするならともかく。


『あ、でもソロ専のカスタムっつったな? じゃあ組み直せばいけるんじゃね?』

「ドローン一機がいくらすると思ってんだ」

『えーっと……げっ、10万から!?』


 違うぞ。


「それは市販品の値段で、カスタム品になったら札束の世界だぞ?」

『……、は?』

「は? じゃねぇよ。一番高いのはランニングコストだが、専用に組むとなったら材料だけで札束、技術料で倍なんてザラだ。もちろん本体だけでそれだし、プログラムの調節までするならそこから更に倍だ」

『……』

「そもそも探索用ドローンのパーツや武装は売ってるとこが少ないからな。最悪パーツの特注って事になるが……そこまでいったら比較対象が家電じゃなくて車になるからな」


 ドローンのコスパの悪さを舐めるなよ。だからトイプチが見つかって、割とすぐ探索の主流になったんじゃねーか。トイプチの食費なんて、ドローンの維持費に比べりゃ誤差にすらならねーっての。あいつら確か見た目のサイズ通りの量しか食わないんだろ?


「で? そっちの依頼でドローン組み直すか、トイプチと連携して戦う専用カスタム機を新規作成するって事は、その必要費用は全額耳揃えて出してくれんの?」

『いやっ、流石にそれは、つーか津和お前金持ちだな!?』

「俺は自炊してるし、言っちゃなんだが他に趣味も無いからな。住む所と飯と服に贅沢しなくて、電気代も半分以上ドローンのバッテリー充電だし。稼いだ分全額ドローンに突っ込めるならこんなもんだ。「トイ・ダンジョン」の探索って儲かるよなぁ」

『そうか……? 俺もこっそり中学から探索してたけど、そこまでいかないぞ……?』


 ま、そこはドローンの強みだな。トイプチは生き物だから、探索すれば当然疲れる。ドローンは致命的なダメージを受けない限り、バッテリーさえ充電するか予備バッテリーと交換すればパフォーマンスは落ちない。

 つまり操作する人間の腕前と集中力さえ持てば、連続して何回も探索できるって事だ。普段のメンテは欠かせないし維持費はかかるが、疲れを知らないっていうのは間違いなくドローンの強みだからな。言わないけど。


「で、何の用だよ」

『いやー……実は明日うちのギルドで「トイ・ダンジョン公園」を貸し切るから、お前も一緒に探索しないかと言おうと思ったんだが……』

「……。貸し切りだけなら別行動すればよくないか?」

『バカ言え。今時珍しいどころか絶滅危惧種のドローン探索派だぞ。間違いなくその辺ふわっとしてるライト層が興味持って一緒に探索しようって声かけまくる』

「じゃあダメだな」


 なるほどそういう話だったらしい。

 まぁ、ダメだな。明日は予定通り、ちょっと離れた「トイ・ダンジョン公園」で慣らし運転だ。

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