第11話 閑話は平常平穏2

 まず部屋の真ん中に大きなビニールシートを広げる。俺はこの時角を洗濯ばさみで挟んで縁を作る。うっかり自分の動きで汚れを広げる、って事が減る……気がするから。

 で、ビニールシートの上にドローン本体を置いて、後から追加した武装や装甲を取り外す。予備カメラもだな。取り外しながらそれぞれのパーツの点検と手入れ。特にカメラのレンズは要注意だ。

 何せ、ドローンの部品の中だとぶっちぎりで脆くて傷つきやすい。そして素人じゃ交換できない。だっていうのに、何かで覆ったら意味がないからな。しかも破損が即致命傷だ。財布的にも、「トイ・ダンジョン」内部での戦闘的にも。


「前うっかり、メインカメラのレンズの罅を見逃して、探索中に壊されたからな……」


 俺の相棒であるドローンは、俺が操作している。それがゲームのようで楽しいんだが……想像してみて欲しい。ロボ系の1人称視点なアクションゲームで、戦闘の真っ最中に、突然画面の電源が落ちると、どうなる?

 その時は辛うじて、今取り外したこの予備カメラに切り替え、慣れない視点に苦労しながらもどうにか撤退する事が出来た。ドローンの全損はシャレにならない。トイプチほど取り返しがつかない訳じゃないとはいえ、精神的ダメージも財布的ダメージもヤバい。

 もちろん他の場所だって重要だ。整備不良が原因のトラブルは山ほどある。予備バッテリーがショートしたら? 関節が何かを噛んで動かなくなったら? もちろん基礎も基礎の錆と固着も忘れちゃいけない。


「内部は基本壊れないけど、それでも土埃にまみれるのは確かだからな……」


 ちなみにこの細かいところを掃除する時、さらに安全性を高めるならマスクとメガネをした方がいいぞ。防塵マスクとまではいかなくていいが、普通の不織布マスクと水中ゴーグルでも十分粉塵を吸い込んだり破片が目に飛んで怪我をするとかいう事故の防止になる。

 さて追加武装を取り外して綺麗に磨き上げ、塗料が剥げている場所があったらメモって、用意しておいた箱の中に入れる。ここで一回立ち上がって部屋の隅に移動してストレッチ。同じ姿勢のままでいたら血流が悪くなって、集中力が落ちるからな。

 次は本体に取り掛かる訳だが、やる事は一緒だ。全体を確認して汚れとダメージを確認、パーツ単体から見て行って全体のバランスが新品の時と同じかどうか。パーツ単体なら問題なくても、全体で見たら危険信号っていうのもあるからな。


「うおっ!? は、え? 何だこれ、溶けて……あっ!? あれか! アントの酸攻撃、避けたと思ったけど掠ってたのか……!」


 なお、こうやって俺の腕前が足りないのが理由の傷を予想外に見つけたりすると、そこそこ凹む。

 いやまぁ、閉鎖空間での回避には限界があるし、軽量化しないとバッテリーの容量がいくらあっても足りないから、完全回避は無理だっていうのは分かってるんだが……。

 いや。まぁ、気付いたのが今で良かったんだ。もしこれがあの時の探索の帰りで致命的な事になって、そのままこのアームが落ちてたら、武装が丸ごと1つ減るところだった。セーフ。たぶんセーフ。


「ん? 待てよ、ここに掠ってるって事は確かあの時こっちにも、うーわやっぱり。閉鎖空間に目一杯の有効範囲がある攻撃を気軽に連打してくんなよなぁ……」


 ちなみに何故それを忘れていたかというと、その時は虫のモチーフというか虫系統のモンスターが多い「トイ・ダンジョン」で、もっとヤベー奴に遭遇していたからだ。

 マンティス、と呼ばれるそれはまぁカマキリなのだが、お約束のようにその両腕の鎌は切れ味抜群。しかも斬撃を飛ばしてくる。流石に避けられないから、大振りで強い奴だけギリギリ避けて、後は装甲で受けてギリギリ仕留められたんだった。

 ……装甲は頑丈でなければいけないし、なおかつ軽い方が望ましい。って事で、これまた財布への攻撃力が高い。まぁいいんだ、ドローンってのは金と手間をかけた分だけ性能にそのまま反映されるから……。

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