第15話 非常事態

 屋敷へと向かう途中で、俺はオデルゴさんから「ヤツ」の正体について尋ねてみた。


「ここ数年は姿を見せていないということもあって、君にはまだ説明をしていなかったな」


 豪快という言葉がピッタリ似合うオデルゴさんが神妙な面持ちでこちらに視線を送る。まだ付き合いと呼べるほど一緒にいたわけじゃないけど、きっと悪気があって黙っていたわけじゃないと思う。そのヤツとやらは本当に数年ほど姿を見せておらず、オデルゴさんもまさかこのような事態になるとはって驚いているようだった。


 ――で、肝心のヤツとは、


「モンスター……で、いいのかな?」

 

 なんとも歯切れの悪い答えだった。


「ず、随分と曖昧ですね。とりあえず、人間ではないという認識でいいんですね?」

「それは間違いない」


 人間じゃないとすると……獣人族か?

 そう思って尋ねてみるが、やはり返事はなんとも言えないふんわりとしたものだった。

 なぜそうなってしまうのかについてはきちんと理由があるらしい。


「見た目は完全に動物なのだが……我々の知る生き物ではないんだよ」

「オデルゴさんたちの知らない動物?」


 最初はどんな生き物かと少し好奇心が湧いた――が、よく考えたらこの島に生息している動物の数は大陸に比べるとかなり少ない。ほとんどが島で生まれ育った人たちという環境もあって、向こうではそう珍しくもない動物なのかもな。


 ただ、そうなると村の人たちがどうしてあそこまで騒いでいたのかが謎だ。

 さらにその情報について聞きだそうとしているうちに、屋敷へと到着。

 門番にオデルゴさんが事情を説明すると、ふたりとも「ヤツが現れたのですか!?」とめちゃくちゃ動揺していた。


 これはますます分からなくなってきたな。

 ただ、島全体がその存在を恐れているという雰囲気はヒシヒシと伝わってきた。屋敷で対策を練るようだが、俺も付与効果職人として何かできることがあれば惜しみなく協力するつもりでいる。

 

 しばらくすると、屋敷からダバラさんが出てきた。


「お話は門番から伺いました。ささ、中へ。お嬢様も待っておられます」


 ついにエミリーお嬢様まで……これはまさに島を揺るがす大事件だな。

 それにしても、この平和な島で人々をここまで警戒させる存在――一体それはなんだろう。

 モンスターなのか、それとも害獣の類?

 謎を残したまま、エミリーお嬢様も交えた作戦会議が立てられようとしていた。

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