第8話 新しい住居と歓迎会

 俺たちが移住を決めた小さな離島――ラゴン島。

 イルデン王国西端の海に浮かぶ小さな孤島で、国内でも名を知られた権力者である貴族のハドルストン家が所有しており、現在はご令嬢のエミリー・ハドルストン様が静養のために利用されている。


 とはいえ、会った時の印象からするとそれほど重篤な病って感じがしなかった。

 自分で歩けているようだし、色白ではあるけど不健康というほどでもない。

 まあ、この辺は医療知識ほとんどない俺の見解。

 病名も聞いていないし、とにかく逼迫した状況でもなさそうなので、そちらの心配はとりあえずしなくても大丈夫そうかな。


 エミリーお嬢様との挨拶を済ませると、俺はケリスさんとともに再び港町へと戻った。

 これから暮らす住居を探すのだ。


 しかし、一から家を建てるとなると時間もお金も必要になる。

 そこで「どこかに空き家がないか尋ねてみましょう」とケリスさんから提案され、俺たちはとある人物の家に。


「オデルゴさん、今ちょっとよろしいですか」

「うん? ああ、お屋敷のメイドさんか。どうかしたのか?」


 大きな鍬を片手に農作業をしていたのはオデルゴさんという名前の島民だった。年齢は四十歳半ばほどで、褐色の肌にムキムキの肉体が特徴的。ケリスさん曰く、島に暮らす人たちのまとめ役をしているらしい。


 ケリスさんはオデルゴさんに俺がこの島での生活を希望していることを告げ、どこかに空き家はないかと尋ねた。


「この島で暮らしたいとは珍しいな。都市部の方が店も多いだろうに」

「今までそういう場所での生活が長かったんですが、この島の静かで穏やかな雰囲気がとても気に入ったんです」

「はっはっはっ! 若いモンにはそういう受け方もするのか!」


 豪快に笑い飛ばすオデルゴさん。

 そんな彼の近くにはティノとそれほど年齢が変わらない女の子が。


「娘さんですか?」

「ああ、そうだよ。サリーというんだ。ほら、サリー、こっちへ来て挨拶をしなさい」


 オデルゴさんに言われておずおずとこちらへ近づいてくるサリー。父親とは対照的に恥ずかしがり屋でちょっと内気なタイプのようだ。

 しかし、自分と年齢が近いティノがいると知った途端、彼女の顔つきが変わる。この島では子どもの数も少ないため、同年代の子と知り合う機会はほとんどないとケリスさんが教えてくれた。

 なので、ふたりはあっという間に打ち解けて話し込む。

 大人組はその光景をほっこりしながら眺めていたが、今はそれどころじゃない。


「おっと、空き家についてだったな。あいにくと人が住めそうなところはないんだが……港近くに昔漁で使う道具をしまっていた小屋があったはずだ。あれを改築すればふたりでも問題なく住めるだろう」

「そこをお借りしていいんですか?」

「借りるも何も好きに使ってくれて構わないよ。ただ、結構年季が入っているから改築に手間取りそうではある」

「それなら問題ありませんよ」

「? どういうことだ?」


 不思議そうに首を傾げるオデルゴさんに、ケリスさんが説明をする。


「こちらのジャックさんはかつて名のある商会専属の職人をやられていたそうなんです」

「なるほど。ノウハウはあるってわけか。それなら何とかなるかもしれねぇな。よし。案内するよ」


 俺たちはオデルゴさんの案内で小屋へと移動。

 ひと目見た感想は……「ボロい」だった。


「これはまた……想像以上に年季が入っていますね」

「だろう? こいつを直すのは骨が折れる。とはいえ、今空いているのはここだけなんだ」


 ケリスさんもオデルゴさんも渋い表情をしているが、俺としてはこの程度であれば問題ないという認識だった。


「大丈夫ですよ。俺の付与効果スキルなら、この程度すぐに修復できます」

「ほ、本当か?」

「えぇ。試してみますね」


 俺は手始めに傾いているドアに手をかける。

 そこからスキルを発動し、屋敷の本棚を直した時のように【修繕】と【強化】の付与効果をつけてあっという間に直してみせる。


「「おおっ!?」」


 一瞬にして元通りになったドアを見て、大人ふたりは驚きの声をあげる。一方、子どもふたりは俺のスキルに対してパチパチと拍手を送ってくれた。


「こいつは凄ぇな! 都会の職人ってヤツはみんなこんな凄い技が使えるのか!?」

「いや、付与効果スキルは珍しいみたいです」


 そのせいで十年以上も自由を奪われて強制労働させられていた――と、言いかけたが、こんな話を聞いても面白くはないだろうから黙っておくことに。


「確かにこのペースなら夜までに問題なく住めるまでにはなりそうですね」

「よっしゃ! そうと決まれば今夜は新しい島民の誕生を祝って宴会だ!」


 オデルゴさんはそう言うと張り切って港へと戻っていく。

 俺が移住することを祝って宴会、か。

 そんな風に思ってもらった記憶は前世にもないから、なんだか不思議な感じがしてくるよ。


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