第7話 病弱お嬢様への提案

「そうですか。あなたのおかげで本は予定通りにこの島へたどり着いたのですね」


 応接室へと通された俺とティノは、そこでエミリーお嬢様からお礼の言葉を贈られる。

 その後、話は謝礼の内容へと移った。


「ダバラの言うように、あなたへの感謝の気持ちを形に表して贈りたいところなのですが……御覧の通り、こちらはハドルストン家の別荘であり、あまり蓄えがありません。少しお時間をいただいても――」

「いえ、謝礼ならばひとつお願いを聞いていただきたいのですが」

「お願い、ですか?」


 それはこの島の港に着いた時からずっと思っていたことだった。しかし、実現するためには島の所有者でもあるハドルストン家ご令嬢のエミリー様から許可を得なくてはならない。俺としては、物や金でお礼をもらうよりもそっちの方がありがたかった。


 とはいえ、素性の知れぬ者からの突然のお願いは抵抗があるだろう――と、思っていたのだが、


「分かりました。なんでもおっしゃってくださいな」


 エミリーお嬢様はすんなりと受け入れてくれた。

 ……まあ、だからといってすんなり了承してくれるかというとそれはまた別の話。気を引き締めて、俺は粗相のないよう言葉遣いや態度に注意しながら続ける。


「私は……この島で暮らしたいのです。どうか、移住の許可をいただきたい」


 頭を下げながら、俺はエミリー様にそう提案する。 

 つられてティノも頭を下げていた。

 この子の場合は俺の行動の意図を理解してはいないのだろうけど、きっと必死に何かをお願いしているというニュアンスは伝わっているようで、それを助けるという意味でも一緒に頭を下げてくれたみたいだな。顔つきも真剣だし、少なくとも遊びでやっているわけじゃなさそうだ。


 そんな俺たちを見たエミリー様は少し驚いた顔をしていたが、すぐに落ち着くと優しい口調で語りかける。


「先ほどの本棚の件……とても嬉しかったです。この屋敷の前の持ち主であるおじいさまとの思い出が詰まった本棚がよみがえっただけでなく、これからも使えるようにあなたがスキルで強化してくれた、と」

「は、はい」

「ですので、わたくしとしてはあなたにこれからもこの島に住んでいただきたい――そう思っていますわ」

「っ! そ、それじゃあ!」

「これからもよろしくお願いしますね」


 移住許可は思いのほかあっさりと下りた。

 それどころか、ダバラさんは「それでは早速お家の準備に取りかかりませんと!」とヤル気満々。

 慌ただしくなってきたので、諸々の作業が始まる前に……俺は隣に座るティノへと尋ねた。


「俺はこの島で暮らしていくつもりだけど、ティノはどうする?」

「ティノもここにいたい!」


 即答だった。

 両親もいないようだし、ここまでついてきたのだから今さらかもしれないが、ともに暮らせる仲間が増えるのは喜ばしいことだ。


 さあ、これから忙しくなるぞ。

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