第5話 いざ離島へ

 人助けをしたら思わぬ誘いを受け、俺とティノは公爵家のご令嬢が暮らしているという離島へと向かうことになった。


 イルデンの王都から出た後は、ダバラさんの護衛役も担った。

 ちなみに、彼が島から王都を訪れた理由はご令嬢のエミリー様が大好きだという本を買うためだという。


「本来はエミリー様ご自身で選ばれた方がよいのですが、お体の調子が……」

「ご病気でしたか……」


 どうやらエミリーお嬢様が離島で暮らしているのは療養という意味合いもあるらしい。しかし、療養ならわざわざ離島へなんか行かなくても屋敷でできそうなものだが――と、思ったところで、なんとなく彼女の生い立ちが想像できた。


「失礼を承知でお聞きしますが、エミリーお嬢様はもしかして――」

「…………」


 ふとダバラさんの顔を見ると、なんとも言えない複雑な表情を浮かべていた。答えたくても答えられない。そんな葛藤が透けて見える。まあ、すべてを語ってくれなくても、その表情で大体察しがついたし、これ以上の詮索はよそう。


 その後、イルデンの西端にあるモーレスという港町から船で離島を目指す。

 島自体はモーレスの町からも見えるくらいの距離だったため、それほど時間はかからないだろうと踏んでいたが……結構かかるんだな。船に乗った経験がほとんどないからちょっと驚いた。

 乗船の経験といえば、ティノも同じくないらしい。


「潮風が気持ちいいな、ティノ」

「あい!」


 嬉しそうに笑顔を見せるティノ。

 そもそも海というものを始めて見るらしく、最初はとてつもなく巨大な湖って認識だったのだが、塩水をなめるとピーンと硬直して「しょっぱい……」とひと言。


 その後、海に対する警戒心が高まったのか、俺の服にしがみつくようになってしまった。ただ、関心自体はあるっぽいので、慣れさせるためにも一度浅瀬で泳がせてみようかな。


 それからしばらく島の港に到着。

 モーレスの町に比べたら小さいが、それは仕方ないかな。

 船が近づくと、島民たちが集まってきた。


「ダバラさん、お帰りなさい」

「そちらの方は?」

「道中で少々トラブルがありましてな。彼はその時に私も助けてくださった恩人です」

「いや、恩人だなんてそんな……」

「はっはっはっ! 謙遜するな、兄ちゃん!」

「お屋敷の執事であるダバラさんを助けてくれたのならきちんとお礼をしなくちゃな!」

「そちらのお嬢さんはあなたの娘さん?」

「いえ、この子は旅の仲間でティノと言います」

「あいあーい!」


 島の人たちは気さくで明るい性格の人が多く、漁業や農業で生計を立てているらしい。あとはお喋り好きが多いって印象かな。島民の数は全員で百人ほどらしく、大半がこの港周辺で暮らしているとのこと。定期的にモーレスの町から商船がやってきて、生活に必要な物はそこで農作物や海産物と交換するのがここのスタイル――と、屋敷へ移動する道中でダバラさんが教えてくれた。

港で馬車の手配をし、エミリーお嬢様がご所望された大量の本とともに俺たちはハドルストン家のお屋敷を目指す。


 さっきまでまさに海の町って感じだったが、一歩踏み込んでみるとすぐに木々が生い茂る森に入る。まさに自然の宝庫と呼べる島だな。


「いいところですね、ここは」

「そう言っていただけますと、住民としてとても嬉しいです。あっ、まもなくお屋敷が見えてきますよ」


 ダバラさんが指さす先には、確かにお屋敷があった。

 あそこに件のお嬢様が住んでいるのか。

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