第4話【幕間】業績悪化の要因

 緋色の牙【スカーレット・ファング】の連敗はとどまるところを知らず、それを問題視した王国大臣に城へと呼びだされる事態にまで発展した。


「この一ヵ月の間に発生した作戦失敗の数はもはや目に余るほどだ。いつになったら対処できるのかね?」

「た、ただいま全力で取り組んでおります」


 相手は国――緋色の牙【スカーレット・ファング】が手にする報酬の大半を占める超お得意様である。そこから見放されるというのは即ち組織の消滅を意味していた。

 アロンとしてはジャックの後釜となる付与効果スキル持ちの職人を手配するまで、何としてでもつなぎとめておきたかった。


 しかし、その職人探しが現在難航している。

 生産ノルマをこなせないジャックを追いだした時には知らなかったが、彼の持つスキルは非常に貴重なものであり、父親である先代の代表はそれを知っていたから絶対に手放さないよう細心の注意を払っていた。


 もし、アロンが商会代表の座を受け継ぐことが決まった時、業界に関する知識を学ぼうという真摯な姿勢を見せていればこうはならなかっただろう。

 だが、それを言っても後の祭り。

 今はただ耐えるしかなかった。


「そういえば、同じく作戦に参加した騎士団や魔法兵団から話を聞いたが……君たちの組織が使っている武器の質が落ちているそうだな。確か、緋色のスカーレット・ファングには世界的にも貴重な付与効果スキルを持つ職人がいると聞いているのだが、彼に何かあったのかね?」

「っ!?」

 

 もっとも突かれたくない話題を出され、アロンの顔から血の気が引く。自分の独断で貴重なスキルを持った職人を手放してしまったと大臣に知られたら、国中に緋色の牙【スカーレット・ファング】の新代表は無能という噂が広まってしまうと考えたからだ。

 ここはとにかく誤魔化そう――アロンはそう判断した。


「じ、実はここ最近の不調はそれが原因だったのです」

「何っ? どういうことだ?」

「ここのところ、その職人が病に倒れて満足に仕事ができなくなっているのです」

「それは一大事ではないか! なぜ報告しなかった!」


 声を荒げる大臣。

 予想外の反応に動揺したアロンは、さらに嘘を積み重ねていく。


「や、病といってもただの風邪です。すぐに回復しますよ」

「ならばいいが……あの優秀な人材を失うわけにいかない」


 大臣は目を細めて語る。


「君の父上もそのリスクを避けるために前の職人がいた頃から次の職人を育成するために若いうちから修行をさせていたのだ。おまけに彼は他のスキル持ちと決定的に違う優れた点があった」

「す、優れた点?」

「付与強化の種類だよ。通常なら十種類もあれば上等だが、彼は五十種類を超える付与効果をつけられると聞いた。

「ご、五十!?」

「たとえ同じ付与効果スキルを持った職人を連れてこようが、ジャック・スティアーズに肩を並べるほどの者はそうそういないだろう」

「っ!?」


 アロンは今にも気絶しそうなほどの衝撃を受けた。

 同じスキルを持つ職人を大金で雇うつもりが、そもそも前任者であるジャックは同じ職人の中でも上位の実力者であり、同じ力を持った職人を捜しだすのは困難だろうと大臣は告げたのだ。


「とにかく、ジャック・スティアーズは近いうちに復帰できるのだな?」

「そ、それはもう……」

「ならばいい。次回からの働きに期待させてもらおう」

「あ、ありがとうございます」


 大臣の執務室を出たアロンはフラフラした足取りで廊下を歩く。

 そして、城門を出た瞬間、逃げるように駆けだした。

 こうなったらもう残された手段はひとつしかない。

 

「なんとしてでも……ジャックは連れ戻す! どんな手段を使っても!」


 鬼気迫る表情で叫びながら、アロンは商会の工房を目指した。

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