第18話「黒のバースデイ/アビス・カオス・マギア」
「何が愛よォォーーー!! いっちょ前に気取ってんじゃねーーーーー!!!」
対戦相手——穂村カレンが何か叫んでるけど、ぶっちゃけどうでもよかった。
いや、よくはない。こんなクソ儀式のせいで私よりも歳下の子まで生きるか死ぬかの戦いに身を投じているなんて。やっぱりあまりうかうかしていられないし、こんな儀式、私が終わらせないといけない。
傲慢? 結構。そもそも傲慢なのはみんな同じ。願いを胸に抱いて札伐闘技に参加した時点で、願いの大小に関わらず、自分のエゴを押し通すと言う意味ではみんな傲慢なのだから。
だから——
悪いけど、殺す。
この儀式を、未来永劫終わらせるために。
◇
ターンプレイヤー:月峰カザネ
手札:6枚
控え:破壊状態1 残り枠3
バトルエリア:『デザイアブレイド-レイジ』
AP2000
プレイヤー:穂村カレン
手札:3枚
控え:待機状態1 残り枠3
バトルエリア:『
AP1000
◇
「バトル。私はレイジでズキュンズキンを攻撃。
——『
私の指示を受けてレイジが刀を抜き、瞬時にズキュンズキンを斬り捨てる。斬撃を受けた赤い衣のセンチネルは破壊される。
——あっけなさすぎる。妙だ。
そう思ったその時、異変は起きた。
ズキュンズキンが私の控えに破壊状態で置かれたのだ。
「……そう、そういう妨害効果ってわけね」
「クッ……クックック……ギャァーーーーーハハハ!! ブァーーッッッカ!! ズキュンズキンの特殊効果発動! ズキュンズキンは破壊された場合、相手のオオカミさんに食べられちゃうの! 今回はそのサムライがオオカミ役ね! でぇ、そのあと——具体的にはアタシのターン開始時にオオカミのお腹を内側から掻っ捌いてズキュンズキンはアンタの控えでお休みするの! 真っ赤な血で頭巾を染めてぇ! スヤスヤぐっすり寝ちゃうわけよ!!」
「……狩人とかがじゃないのね」
「このずきんちゃんは自己防衛能力を獲得したのだわ!! 自分のセンチネルが破壊されそうだってのに随分と余裕じゃないのよ!!」
——まあそこは面倒ね。まだ使いたくなかったけど、手を打つか。
「——じゃあ私は手札からスキルカード『デザイア・アクセル』を発動。この効果で『デザイアブレイド』1体の追加召喚を行うわ」
「出し惜しみしやがってたのね!! 臆病者ーー!」
「戦略だっての。でもこのままじゃバトルエリアは空かないから——ごめんねレイジ。そして、」
——いつかの夕暮れ、そして彼女の顔を思い浮かべ、私はレイジを破壊状態で控えへ送る。
「えっ。そのやり方——今回それ使ってたやつって1人だけだったわよね!?」
「力を借りるわアリカ! ——サクリファイス召喚!
来て! 『デザイアブレイド-ザンゲツ』……!」
私の宣言と共に、大振りの太刀を持った新たなサムライが出陣する。月光の如き薄い金色の鎧武者。場のセンチネル2体——あるいはデザイアブレイド1体を破壊することで場に出せる高打点アタッカーが今召喚された。
◇
『デザイアブレイド-ザンゲツ』
AP3000
【召喚条件】
自軍センチネル2体の破壊
または自軍『デザイアブレイド』1体の破壊
◇
「——ちっ! ズキュンズキンの破壊効果は不発! しかもバトル中にバトルエリアへ追加召喚ってことは……! まだ来るじゃない!」
「そういうこと。
ザンゲツでもう1体のセンチネルへ攻撃!
『残夜斬滅』——!」
容赦なく横薙ぎを行うザンゲツ。
「迎え撃ちなさい、『
控えから出現したのは平安貴族の様なやんごとない少女センチネル。
APは——500。
彼女の
「キャハハ! ヌルカグヤの特殊能力発動! ヌルカグヤは、攻撃してくる奴らに対して、『この世に存在しない物』を持ってくることを対価として提示したのよ!
その名も『
これによりアンタの攻撃は無効! しかもこれは5回使えるのよ! その間にじっくりこってり盤面を整えさせてもらうわよ!!」
「悠長——って言っても既にまあまあ追い詰めてきてるわね。仕方ないからターンエンド。やれるもんならやってみなさい」
◇
〈ターンチェンジ〉
ターンプレイヤー:穂村カレン
手札:3→4枚
控え:0 残り枠4
バトルエリア:『
AP500
プレイヤー:月峰カザネ
手札:4枚
控え:破壊状態3 残り枠1
バトルエリア:『デザイアブレイド-ザンゲツ』
AP3000
◇
地味に私はもう1体しか控えにセンチネルを召喚できない状況に陥っていた。あのカレンって子、メチャクチャ激情家で冷静さの欠片もなさそうだけど、その実かなり用意周到なやり手ね。口ぶりからしてここまで戦わずにやり過ごしてきたわけではないだろうし——
——ああ、嫌になる。
こんな儀式になんて参加しなくても、きっと才能が花開いただろうに。
——アリカの面影と重なる——
アリカ。あなたと再会した時、酷い悪人みたいな顔になってたらごめんね。
きっと、私が今やってることはそういうことだから——。
「アタシのたぁーん、ドロー!」
センチになる私と裏腹に、カレンはまたしてもめちゃくちゃ悪そうな笑みを浮かべていた。
「ギャアーーーーーーーハハハ!! ボロッカスにしてやんよ! アタシは『
効果発動宣言と共にカレンのデッキが宙を舞い、アッシュク・デレラの上へ積もっていく。そして——キラリと光る、カードが1枚現れる。元ネタ的には魔女か靴か、はたまた王子か。
「やったぁぁーーーーー!! 王子枠来たわ! 別に王子じゃないけど、なんかそういう枠のやつきたわ!! 私が引いたのは『
AP4000でも充分脅威だけど、あの感じは、既にそれ以上を呼ぶカードが揃っている言い方……!
「このゲームにはぁ、深淵に通じる激強カードがあってぇ、私も初めて使うんだけどさぁ、さっき手札にきたそれのテキスト読んだら激ヤバでぇ」
「長いわね。早くしなさい」
「——チッ、せっかちな奴ね先輩はさァ! それでアタシのペースを見出せるとでも思ったのォ!? 甘すぎるわよ! むしろ乱されるのは先輩の方! 見せてあげるわ深淵の力を!
——EXスキルカード展開!
『浸蝕結界/
「これは——カナタが言ってた……」
儀礼結界そのものが別の何かに呑み込まれる。異なる理によって塗りつぶされ、ゲームのルールが改竄される。
それが、浸蝕結界……!
儀礼結界は駐輪場からその姿を激変させ、周囲はドロドロの闇? のような泥が溢れ出る暗闇の劇場だった。童話モチーフカードとのシナジー方面で推理すると、おそらくは童話原作の舞台演劇——の様なルールが追加されたんだと思うんだけど、さて——どう来る。
「ゲヒャヒャ、声も出ないようね
『アビス・カオス・マギア』のフィールド効果! それは——童話センチネル同士の
「わかるように説明しなさい。全然結びつかないのよその説明じゃ」
「うっせぇわねぇ! じゃあ今から見せてあげる! フィールド効果、起動!」
そしてカレンは、ヌルカグヤを控えに移動させつつ、手札のセンチネルカード3枚を重ねて場に出した。
「これは、進化?」
「違うのよそれがァァーーーーー!!
これはぁ、吸収! センチネル複数体を取り込んで、この劇場で新たな演目が始まるの!
アタシは手札にあった『
アブソーブ召喚……!!!」
瞬間、3人のタロウを巨大な泥の手が掴み取り、握り込み——そして、昏い光が劇場全体を照らし出し——
「開演の時よ!
『
昏いスポットライトに照らされたそれは、最早タロウではなかった。
それは、3頭を持つ、漆黒の魔犬——のように見える、正体不明のモヤめいたセンチネルだった。
『
AP3333
「可愛い童話はこれにておしまい! さぁ新章突入よ先輩! 記念カラーページの準備はよろしいかしらァァーーーーーーーーーー!!?」
「全然よろしくないわよクソッタレ! でも来るなら来い! なんとでもしてやるわ!」
尋常ではない状況、だとしても私は負けられない。喰らいつくのは私なんだよ——……!!
心の中で中指立てて、私は
------------
次回、『FREEDOM/アサルトタキオン』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます