第17話「エゴダンス/デザイアブレイド」

 ——アタシの名前は穂村カレン16歳。の命で神崎カナタを始末しにきた札闘士フダディエイター

 元は普通に一人で謀略を巡らせてちまちま勝利を重ねてきたんだけど、社長や沖田せんせーにスカウトされ、なんやかんや今に至る。


 別にあの二人と連まなくたってアタシは勝てるんだけど、必要とあらば何でも使うのがアタシという美少女おんな

 (自分で言うのもなんだけど)童話の世界の女の子みたいな可愛さと、童話に潜む残酷さとを組み合わせて、アタシはこの戦いに勝利するの。


 まずは神崎カナタの戦意を抉り取るために、あの手を使っちゃおっと! うふふ、ちょろいものね……!


「ねぇ二人とも。アタシ、確かにこの目で見たの。沖田先生が昨日、街中を歩いているのを。

 アタシはアタシの情報網で、沖田先生が札闘士で、しかももう敗退したことを知っていたの。だから現状の異常さだって、よくわかってるつもりよ」


 身振り手振りを使いこなし、あと隙を見て屋根から降りて、アタシは二人に接近する。物理的距離でも、精神的距離でも。


「カナタ。どう思う?」

「どう思うも何もない。沖田が札闘士だと知っていなければこんな情報は出ない。だが、それはそれとして、こいつが信用に足るかどうかは宙ぶらりんだがな。カザネが聞きたいのはこっちだな?」

「そういうこと。沖田先生が消滅していない可能性はかなり高いけど、だからって——カレンちゃんだっけ? あなたの発言を無条件に信じるわけにもいかないのよね」


 ——む、中々疑り深いのよ。神崎カナタはこんなもんだと思ってたけど、月峰カザネはもうちょっと脳内お花畑だと想定していたのよ。

 めんどくさいのよ。こっちから煽ってやるのよ。


「えー、信じてくれると思ってたのにぃ。特に月峰先輩はもっと良い人だと思ってましたぁ!」

「言われてるぞカザネ」

「うわ。他人事だと思ってからに。

 私だって本当はもうちょっと……いやかなり、そう、普段は今の5億倍は優しいんだけど、状況が状況だからね。ごめんね」

「そんなぁ……」

「あとね、カレンちゃん」


 一呼吸おいて、それからアタシの目をじっと見つめて、月峰カザネは続きを言った。


「私、こんな戦い間違ってるって思ってるの。だから、だから今はできるだけ戦わず、何か解決の糸口があったら良いなって、そう思ってるの」


 口元で小さく笑みを浮かべている月峰カザネ。この人はこの状況で——何なら調べによると親友の白咲アリカを倒した経歴を持ちながら——まだ儀式の中止を模索しているみたい。

 すごい、アタシの心は一つの言葉を紡ぎ始めた。


「すごいです! なんて優しい人なんですか!?」

 ばぁぁーーーーーーーっかじゃないの!??


「先輩のその願い、ですよね? それすっごい素敵だと思いますよ! アタシだってその方が良いですもん!」

 あーアホくさ。こいつシステム側の介入ルールすっぽ抜けてんのかよ。


「アタシも先輩の意見に大賛成! です!!」

 あーコイツさっさと倒すか。 DEATH!!


 ……というわけで、ターゲットはやはり月峰カザネで決定。なんかどうも神崎カナタとこいつは付き合い始めたらしいので、やっぱこの平和ボケ女を殺せば神崎カナタは絶望に打ちひしがれて繊維を喪失するか、メンタルしっちゃかめっちゃかでクソみたいな戦いしかできなくなるだろうから、後は上手いこと誘導するのみなのだわ。


「そういうわけで先輩! 放課後お茶しませんか? アタシ、先輩の夢をもっと聞きたいんです! だめですか!?」


 アタシは心にもない言葉を口から生やしながら、無理やり目を笑わせて、可愛い作り笑いで月峰カザネに提案する。ついでに、アタシの手でこいつの手をガシッと掴む——じゃねーや包む! こんだけ可愛いか弱い健気な後輩ムーブしたら、このお花畑女はコロっと騙されるのよ!


「おい、カザネ」

「カナタ。私ちょっと、話ぐらいは一回してみるべきな気がしてきたわっ」


 アホが彼氏に顔を向けてなんかメルヘンなことを言ってる。こっちからは見えないが、神崎カナタが「お前マジか……」って感じの表情をしているので、あいつマジで呑気極まりないわねって感じなのよ! ギャハハハハハハハハハ! ちょろいもんねェ!


「じゃあ先輩! 放課後、ひとまず昇降口の下駄箱——じゃなくて、アタシ自転車通学なんで、とりあえず自転車置き場まで来てもらって良いですか!?」


 自分でも嘘でしょってぐらいの無邪気な表情を浮かべながら、アタシは月峰カザネがその「にへー」っとした笑みをこっちに浮かべてくるのを見て、勝利を確信した。


「ええ、良いわよ。カナタまだ疑ってるみたいだから、私と二人でケーキでも食べに行きましょっ!」

「はいっ!!」


 ギャハハハハハハハwwwwwwww見てなさい神崎カナタァ! アンタのバカな彼女が、絶望に打ちひしがれるその瞬間をォ!!



 ——で、放課後。アタシが駐輪場に着くと。


「で、やるんでしょカレンちゃん。——札伐闘技フダディエイト


 凍りつくような眼差しと共に、月峰カザネが先にデッキを構えて待っていた。


「はぇ……?」

「何呆けてんの。もしかしてほんとにケーキ食べに行きたかった? それならそれで良いけど、奢んないわよ」

「急にケチね! ……じゃなくて! 月峰カザネ、あんたアタシを騙してたの!?」


 かなり抗議したい気持ちだったので、アタシは歯を剥き出しにしながら渾身のツッコミをかましたのだわ!


「悪かったわね。アンタが怪しすぎるピュアな後輩ムーブしてきそうだったから私もその路線で行っただけよ?」

「おまえー! おまえそれー! 彼氏が見たら幻滅するぞー!」

「あいつ『お前マジか……』って表情一回したんだけど、あんた気づいてた?」

「は……? いや、確かにそんな顔してたけど、それがなんだー!」

「あれ、私が真顔で愉快なこと言ってたからなのよ。あんたにはそん時の顔、見せなかったけど」


 ——こいつ、全然お花畑じゃなかったのよ。

 ——こいつ、最初っからアタシを嵌める気でいたのよ。


「あ、なんか嵌められたって顔してるけど、アンタが仕掛けてきたから乗ってやっただけだからね。

 ——こんな戦い今すぐぶっ壊してやりたい、この思いだけはマジなんだから」


 ——今、空気が変わったのを感じた。どうやらアタシも、いつまでもおちゃらけている場合ではなさそうなのだわ。


「へぇ。お花畑なのは、外してなかったみたいねェ」

 アタシはデッキを構え、戦闘体勢に入る。


 ——瞬間。周囲の位相がズレ始め、付近の札闘士——つまりアタシと月峰カザネ——だけを儀礼結界へと誘う。


 これは勝者しか脱出を許されない、強者のみを許容する決戦場。


 ——ま! アタシは沖田せんせーから深淵由来のカード——『浸蝕結界』のカードを借りてきたから死なないんだけどねェェーーーーー!!


 あれがアタシのデッキに入ったことでどう変質したかは使ってみるまでわかんないけど、どっちにしろアタシはアンタとの戦いでは死なないのよ! それも深淵カードを持ってないアンタじゃアタシの命のストックを削ることすらできないのよってねェ!!!!!!!!!!



「行くわよ先輩ィ!」

「はぁ、テンション高すぎだって」


 そして次の瞬間、


「「札伐闘技フダディエイト……!!」」


 決戦の火蓋が切って落とされた!


 先攻を取ったのは、このアタシ! 幸先良いわねェ!


「アタシの先攻〜〜! アタシは手札から『九相童話ナインテールズ 血色のズキュンズキン』を召喚! さらに控えにセンチネルを一体待機させてターンエンドよ!」


 『九相童話ナインテールズ 血色のズキュンズキン』

  AP1500


 アタシの場には、可愛い可愛い赤ずきんちゃん!

 つってもその頭巾が赤いのは色々あって血濡れだからなんだけどね。ぶっちゃけクソオオカミをハメて殺してきた帰りってワケ!

 ギャハハハハハハハ! 月峰カザネぇ! 今度はアンタがオオカミになる番よォォーーーーー!!


「……私のターンね。ドロー」


 ドローしたカードと手札を見て、何やら神妙に頷く月峰カザネ。なぁーにが来ても同じなのよ! アタシは社長やせんせーとの繋がりであんたのデッキも把握してんのよ! 早く出しなさいよ、なんとかの刃うんたらをさァ!


「私は『デザイアブレイド-レイジ』を召喚」

「————は?」


 『デザイアブレイド-レイジ』

 AP1500


 カザネの盤面には、全然知らないセンチネルの姿がある。黒い甲冑に赤い陣羽織を纏い、顔には尖ったバイザーを装備したサムライだった。


「レイジの召喚時効果で、私はカードを2枚ドローして、1枚を捨て札に置くわ」


 呆気に取られているうちに、捨て札に行ったはずのカードがカザネの控えに破壊状態で配置された。

 何がどうなってんのよ!?


「手札から捨てられた2枚目のレイジは、その効果によって、破壊状態で控えに召喚されるわ。そして、控えに破壊状態の『デザイアブレイド』センチネルがいる時、レイジのAPは500アップし——あんたのセンチネルに500のダメージを与えるわ」


 ◇


『デザイアブレイド-レイジ』

 AP1500 → 2000

九相童話ナインテールズ 血色のズキュンズキン』

 AP1500 → 1000


 ◇


 気づけば500ダメージ分の斬撃が飛んできて、アタシのズキュンズキンのAPが500下がっていたの。

 ——え、ちょっとちょっと、何なのこれは?!


「あんたそんなカード使ってなかったでしょーが! 何がどうなってこうなったのよォ!」


 かなり真剣な困惑の抗議をぶつけたのだけど、月峰カザネから返ってきた答えは意味わかんないものだった。


「何って——愛を知った、ただそれだけよ」


------------

次回、『黒のバースデイ/アビス・カオス・マギア』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る