接続章2→3

第15話「接続章2→3/平成36年4月19日(金) PM8:45」

 平成36年4月19日(金) PM8:45

 芸都中心部

 『ツルギモリ・コーポレーション』本社ツインタワー——B屋上巨大ビアガーデン



 海より流れてくる微かな潮風を、その男は全身で浴びていた。

 オフィスカジュアルだろうか、どこか気品のある、襟付きの黒い七分丈シャツの似合う、金髪の青年だった。


 青年はグラスに入った赤ワインを片手に、眼下の夜景を眺めている。その背後の椅子に——


 体の三割ほどが黒い塵の様な状態になった、が座り込んでいた。


 それを異常事態だと捉えずに、青年は口を開く。


「此度は随分とやられたものだな。油断したか、シゲミツ?」

「いや、ただ相手がおれの導きに応えただけだ。同じ深淵の力ゆえに、復元も時間がかかる。それに——」


 シゲミツが言い終わらない内に、青年が続きを語る。


「深淵属性の攻撃を受けた以上、お前はもう不滅ではなくなったわけだな。いや残念だ。お前のは感涙ものだったんだがな」

「……戯れを。おれも人類には相違ない。ただ虚無ゆえの無欲から、このような力を付与されただけにすぎないのだから」


 シゲミツの返答に、青年は口角を少し上げ、その後指を鳴らした。


「——第二幕だ。いや、お前が進めていたな。第三幕にしておこうか。

 動けるようにしておけよ、【九相童話ナインテール】」


 青年の言——その直後、ビアガーデン設営テントの中から、赤黒いローブを纏った人物が姿を現す。

 それは星の触覚たるローブマンではなく、ただ単純に姿を隠蔽した人物にして、狐面の札闘士フダディエイター


 その人物は、面に施されたボイスチェンジャー越しに言葉を紡ぐ。


「もちろん。必要とあらば使うとも。でもさ、一つ疑問があってね」

「なんだ? 言ってみろ。傲慢発言を許可する」


 青年の言葉を受けて、狐面はこう続けた。


九相全部を使う全話走破するなんてこと、あるのかなぁ?」


 笑いまじりに、狐面は踵を返す。


「ま、やってみるよ。二、三話分は楽しめると良いんだけどね」

「シゲミツは倒された。お前はお前で、吠え面をかくことのないようにな」

「もちろんさ」


 ——夜の芸都に、札闘士が三人。


 彼らは、この闘争をコントロールすべく、暗躍していた。

 全ては——この超技術を独占せんが為に。


------------


接続章2→3、了。


次章・第3章『FREEDOM/蒼天の刃』に——


——副題、歪曲——


第3章『歪曲童話/ナインテール(ズ)・リボルバー』に続く

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