第21話 真面目な話ヤンデレを添えて2
「それともう一つ気になることはあるんだよな」
「なに?」
「水萌さんが『恋火ちゃん』って呼んだこと」
「……? その話をしてたんだろ?」
俺の言葉足らずだったけど、ポカンとするレンは可愛かった。
「今変なこと考えたな?」
「考えたけど言わない」
「自分の部屋に女子を連れ込んで変なこと考えるとか、本物の変態だな」
「水萌さん相手でも何もしなかった俺だぞ? レンには欲情するだけで何もしないよ」
「知ってたけどちゃんと森谷さんも部屋に連れ込んでるんだな」
レンからのジト目が刺さる。
まさか『欲情』ではなくそちらに反応するとは思わなかった。
もちろんレンをからかう為の冗談なので、レンをベッドに押し倒したりする気はない。
「連れ込んだって言うか、着替えるのに使ってもらった」
「そして覗いたと」
「否定はしない」
「……」
またもレンからとのジト目が刺さる。
今度は軽蔑の感情を乗せて。
「まあそこら辺はいいとして」
「よくないからちゃんと訂正しろ!」
話を進めようとしたらレンに怒られた。
なので一応昨日の成り行きを簡単に話す。
「部屋で着替えさせて、寝た森谷さんを眺めて、一緒に買い物行って、帰ってきたら兄妹になって、一緒に料理をしたって? 付き合ってんの?」
「なぜにそうなる?」
どこからどうみても普通の『友達』だ。
まあ普通がどうなのか知らないけど。
「本人達がそう思ってんならいいや。それより話を戻そう」
「恋火ちゃん?」
「そうだけど、それだけを言うな。嫌いなのもあるけど恥ずい!」
レンが上目遣いからのジト目を俺に向けながら俺の腕を殴る。
正確には『叩く』が正しいぐらいに可愛らしい。
「説明すると。水萌さんって俺と初対面の時に『
「オレの名字を知らなかった……わけないか。サキじゃないんだから」
そう、俺はそもそも学校のレンを知らないから名字も名前も知らなかったけど、水萌さんはレンのことを『恋火ちゃん』と呼んだ。
それはつまり、どこかしらで名前を知ったことになる。
そして名前を知れば必然的に名字も知る可能性が高く、人に緊張する水萌さんは、初対面の人のことを名字で呼ぶ。
現に俺以外のクラスメイトを呼ぶ時は全て名字で呼んでいた。
「学校でなら、名前を知ったら名字は絶対に知るよな?」
「そうだな。別にサキ以外には隠してないし」
「ジェラシー」
「気が向いたら教えるよ」
「向いた?」
「サキと結婚して名字変えようかな」
「つまり婚姻届で初めて名字を知ると」
それはそれでいいかもしれない。
多分それまでのどこかで絶対に知るのだろうけど。
「ま、サキと結婚することは有り得ないんだけど」
「なぜに?」
「秘密。もしもオレのことが好き過ぎて結婚したくなったら、逃避行の準備してな」
「……考えとく」
正直結婚願望はないけど、もしも生まれて、好きになる可能性があるのはレンと水萌さんだけだ。
それがくるのかは知らないけど、いつかレンと結婚したいと思う時がきたら、レンと一緒に『何か』から逃げることにする。
「冗談だよ」
「俺は結構マジ。今は水萌さんだけど」
レンとの楽しい夫婦生活は気が向いたら考えるとして、今は目下の水萌さんだ。
「なんか浮気された気分」
「水萌さんみたいにメンヘラするなよ?」
「……なんでそうやってすぐに他の女の子の話するの?」
レンが今にも泣きそうな表情で俺の腕にしがみつく。
「やめて、可愛すぎてベッドにダイブしたくなる」
「どうせ他の女の子とに取られるならワタシが……」
「ほんとにやめよ。とりあえず水萌さんの解決策は思い浮かんだから」
「また他の──」
「そうやって続けるなら物理的に口塞ぐよ?」
「森谷さんの解決策って?」
レンのおふざけが終わり、可愛らしくコテンと首を傾げた。
考えてみたら簡単な話だ。
「直接聞く」
「わーお、今までの会話を全て無駄にした」
「無駄じゃないだろ。レンのメンヘラマジで可愛かった」
「二度とやらん」
残念なような良かったような、複雑な感情が込み上がる。
可愛かったの事実だけど、可愛すぎて俺の理性が飛ぶ可能性がある。
だからレンの言う通り二度とやらないで欲しい。
「結論出たし、母さんに謝りに行こう」
「早く謝りたいから簡単な解決策選んだろ」
「否定はしない。肯定もしないけど」
「まあ話してもらえるかもわからないし、後はサキに任せるよ」
「任された。知られざるレンと水萌さんの関係を知ってやるよ」
それを知ったからといって二人との関係が変わるとも思わないけど、少しだけ心構えをしておく。
水萌さんの反応からポジティブな話にならなそうだし、そもそも話してくれるかもわからない。
その時はその時だけど、二人との関係が悪くなるようなら話は聞かないで今まで通りの関係を続ける。
友達だからって全てを赤裸々にする必要もないのだから。
そんなことを考えながら俺とレンは部屋を出た。
母さんに「さっきはごめん」と頭を下げると、座ったまま固まって、涙をボロボロと流していた母さんが生気を取り戻してオレに抱きついた。
母さんが泣き止むまで抱きしめ合い、落ち着いたところでレンを紹介した。
友達だと言ったら、またも涙を流して大変だったけど、しばらくして落ち着きを取り戻した。
そこからはレンがあることないこと、ないこと十割増しで話していたけど、母さんはとても嬉しそうに聞いていた。
こんなに楽しそうな母さんを見るのは久しぶりだ。それこそ父さんが死んでからは初めてかもしれない。
母さんは嬉しそうで、水萌さんとのことも解決の目処が立って安心していた。
だからこんなことは考えもしなかった。
水萌さんが日曜日も、そして休み明けの学校で昼休みに俺の元にやって来ないなんてことを。
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