第9話 領主館でのやり取り

執事に案内されて俺とヴォルーノは1階の応接室に入る。執事が退出して入れ替わりにメイドがお茶を持って来てテーブルに置いた。

俺は喉が乾いていたので、お茶をいただく。


「これは、紅茶ですか?」


メイドに尋ねると、


「はい、辺境伯領で作られた茶葉です。」


「ヴォルーノさんはご存知でしたか」


「はい、うちも取り扱っています。レスデアに持ち込んでいる商品の一つですね。」


「とても美味しい」


「是非、購入をお待ちしてます」


「あぁ。そうだ。今のうちに護衛依頼書へのサインを頂いて宜しいですか?街に到着しましたし期日は今日までですので」


俺は肩掛けカバン経由でアイテムボックスから依頼書を取り出し、ペンとインクをヴォルーノに渡す。

ヴォルーノは頷いて、護衛依頼書にサインをする。


「今回の移動にサミュエル達を雇えた事は僥倖でした。安い報酬で申し訳ない。

君は命の恩人だ、なにかあれば全面的に協力を惜しまないから何時でも訪ねてきてくれ。と言っても私がやれる事は少ないけどね」


「いえ、俺はまだ成人していませんから頼れる大人がいるのは大いに助かります」


依頼書にサインを貰い、ペンとインクを仕舞っていると、扉が開き貴族服に着替え深紅色の髪に金色の目をした190cm程の長身でボディビルダーのような筋肉を持つ辺境伯ともう一人の紺色の髪に蒼い目の執事服を着た人物が入って来た。

俺とヴォルーノはその場で立ち上がりお辞儀をして声が掛かるのを待っていると、


「良い、楽にせよ」


と言われたので、顔を上げて辺境伯の着席を確認し座っていたソファーに腰を下ろす。


「改めて。私がこの辺境伯を取り仕切っているイグナエル・フォン・ベルロイズだ。少年にはまだ名を聞いておらんな」


「はい、今回ヴォルーノさんの護衛を依頼を請け負ったD級冒険者のサミュエルと申します。」


「では話を聞こう」


辺境伯の言葉にヴォルーノが応える。


「はい、オールーズ村に到着したのは、昨日の夕方でした。ご存知かと思いますがオールーズ村には宿屋が一軒しか無く、宿泊できるのは1部屋しかありませんでした。

そこで、宿屋に宿泊したのは私のみで護衛冒険者のサミュエル達には馬車と共に村の外にある広場で野営をお願いしたのです。その後の話しは、サミュエルから」


「はい、俺は。すいません。私が…」


「いや構わん。冒険者の言葉遣いなど気にせん」


「ありがとうございます。では、俺がパーティーメンバーと従魔2頭を連れて広場で野営準備をしていると、先に広場で野営している2組の冒険者がいたのです。

その2組6名の冒険者を従魔のシルバーウルフが警戒していたので、パーティーメンバーと、従魔のケット・シーを馬車の中で待機させて、俺とシルバーウルフがテントを張って、中から見張っていると深夜にその6名が馬車を襲ってきたのです。

その6名の襲ってきた冒険者を撃退捕縛すると、その盗賊のリーダーが宿に宿泊している事を知って、ヴォルーノさんを連れて出す為に宿へ急行すると、2名の商人に身をやつした2人が剣で宿泊者の襲撃する寸前でしたのでその2名を撃退した時に1名を切り捨てました。

そして、ヴォルーノさんを連れ出し馬車のある広場に戻ると、従魔のシルバーウルフが周囲を警戒しましたので解き放つと17名の盗賊が村を襲撃するべく待機していたのです。それらをことごとく捕縛し近くの林に穴を開けて放り込んでいます」


「なるほど、それでは死亡したのは1名のみで残りの盗賊は全て捕縛していると云う事だな。分かった。

サミュエル明日オールーズ村へ同道せよ。なに、冒険者ギルドに今から依頼させる故、安心せよ。それでは明日の日の出に東門で待っておる。今日はご苦労だった」


と言って辺境伯は応接室を出て行ったが、執事服の人物が、


「私は、辺境伯家の家宰を勤めております。ラウゴットと申します。サミュエルさんは私と一緒に冒険者ギルドへ同道をお願いします。先程の件を依頼いたしますので」


「分かりました。ヴォルーノさん早速ですが、パーティーメンバーと従魔達をお願い出来ますか?」


「問題無い。私の店は冒険者ギルドの近くだから馬車とパーティーメンバーはうちで預かる。」


「ありがとうございます。それでは、ラウゴットさん行きましょう。」


「では、ついて来て下さい」


家宰のラウゴットの後ろについて応接室から玄関へと出る。ロータリーには鷹のシルエットに剣がクロスした文様の入った箱馬車が横付けされていた。ラウゴットは、


「この馬車で冒険者ギルドまでお連れしますので、お乗り下さい」


俺はヴォルーノと分かれて辺境伯家の馬車に乗り込み領主館を後にした。

領主館の門を出て街の中央から西に向かうと西側の城壁が見えてくる。後ろにはしっかりとヴォルーノの馬車とナナシーが操作する馬車が見えた。

そして正面左手に石造り3階建ての建物が見えて来た。看板には盾のシルエットに剣と杖をクラスさせた文様が記されていた。その建物の正面に馬車が止まる。

ヴォルーノの馬車は更に西へと進み。6軒先の商店前に止まった。

あれがヴォルーノの商店だろう。

取り敢えず集合場所は分かったのでラウゴット共に冒険者ギルドへと入る。


ギルドは依頼を達成した冒険者達でごった返していたが右端にある依頼受付と書かれたカウンターは誰もいなかった。

ラウゴットは依頼受付カウンターに備え付けられている呼び出しベルを押す。


「チン、チリン」


それを聞き届けた奥に座っている男性スタッフがこちらにやってくる。


「これはラウゴット様、ご依頼ですか?」


「はい、ご領主様からこちらのD級冒険者のサミュエルさんに案内の指名依頼です」


「そうですか。それではこちらでは騒々しいので応接室でお話をお聞き致します。こちらへどうぞ」


男性スタッフがカウンターの右横にあるスイングドアを開けて俺達を呼び込む。

ラウゴットはその扉から奥にある応接室へと進むので俺もその後に続く。

男性スタッフにより応接室の扉が開かれて応接室に入るとラウゴットと並んでソファーに座る。

男性スタッフ羽応接室に備え付けられている棚から書類取り出し、ラウゴットの前へ書類を差し出す。ラウゴットはテーブルにあるペンで依頼内容を書き始めた。その間に男性スタッフは、


「サミュエルさん、依頼の手続きをしますので、冒険者ギルドカードの提出をお願い出来ますか?」


「はい」


とギルドカードをテーブルに置く。

暫くして、ラウゴットが書類を書き終える。


「これでお願いします。報酬金額は小金貨1枚です。」


「畏まりました。それでは、依頼手数料10%と報酬金額を合わせて小金貨1枚と銀貨1枚のお支払いをお願い致します。」


「それではこれで」


ラウゴットはい腰に付けているポシェットから代金の小金貨1枚と銀貨1枚を取り出して書類の上に置く。


「確かに受領いたしました。それでは手続きをしてきますのでしばらくお待ち下さい。」


「あっ。ちょっと待ってください。こちらには護衛依頼でこの街にやってきました。その依頼書がこれです。これの終了手続きもお願いします」


「分かりました。この処理も行います。お待ち下さい」


と言って、男性スタッフは応接室から俺のギルドカードと書類を持って出て行った。


暫くして、依頼書とトレイを持って男性スタッフが戻って来た。


「それでは、先ずはギルドカードをお返しします。それと、護衛依頼の達成報酬小金貨2枚と銀貨5枚になります。そしてこの依頼書が明日の依頼内容となります。受諾されるのであればこちらにサインをして下さい。」


俺は依頼内容を確認して依頼書にサインをする。そしてその依頼書を受け取り報酬も受け取った。


「これで手続きは終了となります。お疲れ様でした」


こうして手続きを終わらせたラウゴットと俺は直ぐ様、冒険者ギルドを出た。

馬車はその場に待機しており、ラウゴットが、

「それでは明日、東門にて日の出と共に出発となります。宜しくお願い致します」


「はい、日の出と共に東門へ行きます」


ラウゴットは頷き、馬車に乗り込む。俺は、6軒先のヴォルーノ商店へと向かった。












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