第8話 領都ヘブリーズ

ちょっと遅めの出立となったが、馬車での移動なのでジョギング程のスピードで馬車は進む。

林を抜けて草原に出ると進む先が丘になっている。その丘を登り切った頂きで少し休憩をする。丘の麓から森と草原の狭間に街道が続いている。丘の北側に顔を向けると遠くに山並みが見える。南側は森になっていた。


休憩を終えて、馬車に乗ろうとした時に、ナナシーが、


「サミュエル、サニーと御者の練習をしたいので交代してもらえませんか?」


と言って来たので、交代しヴォルーノの馬車の御者台に乗る。

出発しナナシーの操作する馬車が続いているのを確認する。そのまま街道を進んでいると遠い先に街道に沿って森に向かって防壁が見えてきた。

石積みの城壁は俺の身長の2倍強の高さが有り、厚みも防壁の上を人が歩ける幅が有るので2mは有ると思われる。

防壁の先には街を囲う様に防壁よりも高い城壁が見えて来た。俺はヴォルーノに尋ねる。


「ヴォルーノさんこの壁は?」


「これは、深淵の森にこれ以上侵食されないように防ぐのと後は、魔物の侵入を防ぐ防壁だね。ここから領都のへフリーズの南側城壁とに繋がって西側の城壁から北に向かってかなり先まで続いているよ。途中にあるあの監視塔がいくつもあって森を監視しているんだ」


「凄いですね。深淵の森の先はどうなっているのですか?」


「一応隣国のヴァッレシア帝国が有るけど深淵の森はかなり深くて強い魔物もいるから、我が国ビルロッテリア王国とは国交が無いので良くは知らない。北で接しているルトブルク王国は長く敵対している国だね。

私が思うにあの盗賊はルトブルク王国の者たちではないかと思っている」


「北はきな臭いって事ですか?」


「うん、北西に鉱山と鉱物の取れるダンジョンがあってね。それの領有を巡って毎年小競り合いをしているよ。大戦にならないのは、平地が無く山間で兵の大規模展開が出来ないからって事だけだから。」


「どっちも、引くに引けないと?」


「鉱山もダンジョンの入口も我が国側に有るからこちらは、それを防衛しているって感じだね」


「成る程、帝国の評判はどうなんですか?」


「あまり聞こえて来ないのだけど、南側のシャトロワ公国の商人経由に聞いた話では、今の皇帝はとても優秀で平民からも人材登用を行っているそうだ。なかなかの人物と噂していたよ。」


「帝国行って見たいですね」


「行くとすれば南側から迂回して行く事になるから、2ヶ月は掛かるだろうね。

直線で行く道があれば1週間から10日らしいけれどね。誰も行った事が無いから眉唾だけれども。」


それを聞いて、ここで力を付けて深淵の森を突っ切る事を考えた。


そして、東の城門に到着した時は夕方となっていたので、平民通用門は検問待ちの行列が出来ていた。俺達はは行列の後尾に並んだが、


「ヴォルーノさん、先に貴族門にいる門番にオールーズ村の盗賊襲撃の話を俺だけでしてきます。ナナシー達をお願い出来ますか?」


「それなら私も話に立ち合おう。君だけだと追い返される可能性が有るからね。」


「分かりました。それじゃナナシーにこちらの御者を任せてましょう。」


俺は御者台から降りて、後ろの馬車に向かった。馬車の御者台にいるナナシーに、


「俺とヴォルーノさんはオールーズ村の襲撃の話をしてくるから、ヴォルーノさんの馬車をお願い出来るか?」


「分かりました。サニーこっちの馬車の操縦お願い」


「分かった」


「クッキーヴォルーノさんの馬車の中でミャアと一緒に待っててくれ。」


〘わかった〙


こうして、御者を交代してヴォルーノと俺は貴族門にいる門番の所に急いだ。

門番に話をしようと声をかける。


「あのぅ。」


「何だお前たち、もうすぐここにご領主様が通られる。早く行列に戻れ!」


それを聞いたヴォルーノが、


「オールーズ村で盗賊の襲撃があったので、村長から報告に向かってくれと言われましてお伝えをしに伺いました。私は領都でざっかや営んでいるヴォルーノと云います。

レスデアで仕入れをした帰りにオールーズ村で襲撃事件に遭遇した次第です」


ヴォルーノがそう話し、商業ギルドカードを提示する。


「俺は、護衛のサミュエルです」


と自己紹介をして、冒険者ギルドカードを提示した。それを確認した門番は、


「そうか!それで村は大丈夫か?盗賊はどうなった。今、領内で盗賊の襲撃が北側であってな。それの追討にご領主様が向かわれて、こちらにもうすぐ……。来られた!お前達、そちらで伏せていろ!」


後ろを振り返ると騎馬隊の一団がこちらに向かって来ている。近付くに連れて行列に並んでいる者達は頭を下げて、騎馬隊の通過を待った。

騎馬隊の先頭にいる騎士が、


「ご領主様の帰還である!開門!」


と叫ぶと、大きな鉄の貴族門の門扉がズズッと開かれた。全身鎧の騎士達が通り過ぎるなか、一際立派な鎧を纏った騎士姿の人物に門番が、


「ご領主様!オールーズ村が、盗賊の襲撃を受けたそうです。この商人がからたった今報告を受けました。」


「何!それで、村はどうなった!」


「それを確認する途中でした」


「そうか!商人、直答を許す。申せ」


「ははっ、先に結果をお伝えします。

盗賊は25名、村を襲撃する前に発見し、捕縛しております。ですので村の被害はありません」


「なんと!それ程の盗賊集団を捕縛して被害無しとは天晴れな。お主名は?」


「はっ、西町で雑貨屋を営んでおります。ヴォルーノと申します」


「そうか!領都の住人であったか!詳しく聞きたい館まで同道せよ」


「畏まりましたが、共の者と馬車を待たしております。そちらも同道をお願い申し上げあげます」


「そうか!同道を許す。馬車と共を連れて付いて参れ」


「ははっ」


と頭を下げて俺とヴォルーノは馬車の元に戻り騎馬隊の後に付いて貴族門をくぐった。

そのまま、領主館に向かうと石積の塀に囲まれ縦格子の門の先には石造りで緑の屋根が素晴らしい立派な城?洋館?が見えた。

門から領主館までは石畳の道が有り、その脇はイングリッシュガーデンの様に。木を植えて綺麗に剪定して揃え花壇には色とりどりの花が咲き誇っていた。

玄関までにはロータリーが有りそれを右回りで玄関前に行く。騎馬隊の殆どは左側にある宿舎と厩のある方へ向かって行った。我々の馬車もそちらへ向かって、宿舎前の広場に馬車を止め、サニーとナナシーは、ここで従魔達と待機してもらい、玄関前には俺とヴォルーノで向かった。

玄関では執事風の2人が領主の到着を待っていたようで領主と言葉を交わしていた。

領主がこちらを指差し執事風の一人に指示を出した様で、こちらに向かって歩いて来た。


「私は、ベルロイズ辺境伯家で執事を勤めておりますアルファンと申します。ご領主様から応接室に案内を承りましたので、ご案内致します。着いてきて下さい」


こうして、言われるがままに、後ろをついて歩き領主館へと入って行くのだった。



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