第7話 戦いの後処理で

日の出が近づいているようで東の空が少し明るくなっている様だ。

村の周りは麦畑が広がり俺達が来た東側は草原から麦畑に、そして向かう先の西側は麦畑から、木々が街道沿いに生えだして先に行くと林になっている。

クッキーが退治した盗賊はその街道を外れた林の中に集めて転がっていた。

盗賊は17名おり、誰もまだ死んではいなかった。


盗賊一人一人をダークバインドで拘束して、俺は話を始める。


「さて、お前らの中で俺をアジトへご招待してくれる奴は居ないかな。ご招待してくれるなら命は助けるし、ポーションを飲まして痛みを取ってやるのもやぶさかでは無い。立候補者はいるか?」


「……。」「うぐっ……。」「隊ちょ……お頭がお前ら殺す……。」


「んっ。お頭って、もしかしてコイツじゃないよな」

俺は、木の影に入って、アイテムボックスから奴等から見えない様に死体を取り出して、上半身だけを奴等の前に持って行った。


「あっ」「隊長!」「バカ!」「っ!お頭!」


「ふ~ん。隊長ね。まぁ、そんな裏事情はどうでも良いけどそれでアジトへのご招待は?」


「……。俺達にアジトは無い。商人を装ったお頭と副長が乗っている馬車に戦利品を積んで領境の村々を襲いながら移動している。」


「なるほどね。と云う事は広場にある馬車に戦利品が積んである訳だ。〝アースホール〟」


『ギャァァァ。』


俺は、盗賊達が寝っ転がっている地面に魔法で深さ5m穴を開けると、盗賊共は叫び声を上げながら落下して行った。そこに、お頭の上半身を投げ入れ、下半身も持って行って、投げ入れておいた。

その上に知らない人が落下しない様に「セイクリッドサークル」と結界の魔法を掛けて、クッキーを連れて馬車へと戻った。


馬車に戻って、結界の魔法を「解除」すると、ミャアが、


〘盗賊はどこにゃ。ミャアの爪で微塵切りにゃ〜。〙


と言いながら馬車から飛び出して来た。

サニーとナナシーは顔だけ出して周囲を見渡している。安心させる為に俺は声を掛ける。


「全部終わったよ。17人いて盗賊は皆んな冒険者の身なりをしていたからクッキー以外は、見分けが付かなかったかも知れない。」


「そう、終わったんだね。」


ナナシーがそんな感想を呟くと、馬車からヴォルーノが降りて来て、


「このまま出立する訳には行かないね。この村役場には村長しか居ないから、この盗賊達はそちらに任せる相談に向かいます。サミュエル付いて来て貰えるかな?」


「そうですね。お付き合いしましょう。それで、盗賊達の馬車はどうしますか?盗賊の所有していたモノは討伐者の報酬になると聞いていますがあの馬車を確認してみませんか?」


「その事は私も聞いた事があります。そうですね、馬車の中身を見ても文句は言われないでしょう。覗いてみますか」


「サニーとナナシーも一緒に来て。ミャア、そいつ等を見張っていてくれる?何か動きを起こしたらやっつけて良いからね。」


〘しっかり見張るにゃ!だから朝食は鳥串焼きをお願いにゃ〙


「分かったよ」


俺、ナナシー、サニー、ヴォルーノは広場に停めてある2台の馬車に向かう。

1台目の馬車を覗くと、大きな水瓶と革袋が2つ、背負いカバンが5つ肩掛けカバンが7つ置いてあるだけだった。

もう一台の馬車を覗くと、剣、槍、弓等の武器と革鎧、小手、脛当て、鈎爪ガントレットなどの防具があった。俺は思わず、


「これは凄いな。この鈎爪ガントレットなんかサニーにピッタリじゃないか。あのカバン達もマジックバックだったりして……。」


それを聞いたヴォルーノが、


「あり得る。マジックポーチなら身に付けていても邪魔にならないが、カバンは戦闘の邪魔になるから馬車に置いたままなのかも知れない」


「ヴォルーノさん、武器や防具の馬車にこちらの荷物を移して、空にした馬車で盗賊を村役場まで運びましょう。そして、あの戦利品の入った馬車をこちらのモノとして貰える様に交渉しましょう。」


「そうしよう。サミュエル、あそこに居る盗賊達をこの馬車に運べるかね?」


「身体強化を使えば問題ありません。ナナシー、サニーあの荷物を武器を積んでる馬車まで移動をしてくれ、あぁ、水瓶は移動しないからそのままで良いよ」


こうして、すっかり朝日も上がって周囲も明るくなっているので作業を始める。

サニー、ナナシー、ヴォルーノが荷物の移動を担当し、俺が6人の盗賊を運んで水瓶だけになった馬車に6人を放り込んだ。そしてサニーとナナシー、従魔達に見張りの指示を出す。


「サニーとクッキーでヴォルーノさんの馬車をナナシーとミャアで武器の積まれた馬車を見張っていてくれ。俺とヴォルーノさんでこいつ等を村役場に引き渡して来る」


「分かった」「分かったわ」

〘クーはがんばって、みはる〙

〘ミャアも見張っておくにゃ〙


「頼んだぞ」


近くで繋がれている馬を1頭、馬車と接続してヴォルーノさんと御者台に乗り、村役場へと進む。


村役場は宿屋の向かいにあり革鎧を着た自警団が槍を持って役場入口に2人立っていたので、


「俺は、護衛依頼でこの村に立ち寄り盗賊の被害を受けたD級冒険者のサミュエルだ!盗賊を捕縛して連れて来たので、引き渡したい。俺の事は、宿屋の店主が知っている。村長との面会を希望する」


「分かりました。村長に伝えてきますので、このまま待っておいて下せい」


自警団の一人が役場へと入って行った。

俺の声が聞こえていたらしく、宿屋の店主が外に出て来て、こちらにやって来た。


「その後、盗賊の残党は居ましたか?あの2人は護衛に冒険者を6人引き連れてやって来ましたから残党が居るはずです。」


ヴォルーノが店主に、


「その盗賊が私の馬車を襲って、返り討ちあい、捕縛されてこの馬車の荷台で転がっていますよ」


「はぁ〜。それは良かった」


そんな会話が途切れる頃に、村長がやって来た。


「村長のエルピオといいます。残りの盗賊を捕縛したと聞きましたが、荷台におるのですかな?」


村長の質問に俺ではなく、ヴォルーノが答える。


「はい、魔法で捕縛して荷台に転がしております。」


それに続いて、俺が林の盗賊の事を話す。


「宿屋に宿泊していたリーダー格2名の護衛をしていた6名はこの馬車に、それとは別にその配下たちが村の外で17名待機していましたので、捕縛し林に放置しています。魔法で地面に穴を開けてそこに落としていますので逃げられません」


「村の外に17名もいたんですか!」


それを聞いて村長、自警団、宿屋の店主揃って青い顔しながら震えていた。以後はヴォルーノと村長がやり取りをする。


「これだけの人数を留置出来る牢は有りますか?」


それを聞いた村長は、


「いやいや、村役場にある地下牢は押し込められても、8人が精一杯です。」


それを受けてヴォルーノは


「我々は領都ヘブリーズに戻る途中の旅ですから、このまま出立してこちらの盗賊の件を伝えて来ます。この馬車は盗賊のものですからこのままそちらにお渡しします。その代わりもう一台の馬車とそれに積まれている荷物についてはこちらの盗賊討伐報酬として頂きますが宜しいですね。」


「はい、村の者達は襲撃も知りませんでしたから、なんの主張も出来ません。盗賊の所持品はどうなさる?」


「それも、村の取り分で構いません」


「では、盗賊はこちらでお預かりします」


俺とヴォルーノは御者台から降りて馬車を自警団に渡す。そして、村長に


「ではこれにて失礼」


「失礼します」


と言って村役場を後にして、広場へと徒歩で戻る。

広場に戻った俺達は、テントを仕舞って、戦利品の馬車とヴォルーノの馬車に馬を繋いで、ピタパンと鳥串焼きを出して食事を始める。

ヴォルーノの朝食の準備が出来ていないのでピタパンと串焼きをお裾分けした。

そして、皆んなの食事が済むとヴォルーノの馬車に御者はヴォルーノ、荷台にナナシーとミャア。

戦利品の御者台に俺とサニー、クッキーは並走する事になった。

ヴォルーノの馬車が先に進んで、その後ろを俺達がついて行く形で領都に向かって出立した。












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