第6話 オールーズ村の襲撃

深夜、クッキーが念話を飛ばして来た。


〘にんげん、うごきだした〙


クッキーの念話を受けてテントの入口から馬車を覗くと、6人の冒険者風盗賊達が馬車の近くで何やら話し込んでいる。

俺は耳に魔力を集めて聴覚を鋭くする。少しづつ会話が分かるレベルに聞こえて来た。


「……。」「……。」


「でも、お頭達が来ちまったら俺達の取り分が減っちまうぜ」


「あの獣人は良い値段でサバけそうだしな」


「それじゃ、この馬車は俺達でやっちまうか?」


「おう、それが良い」


会話が途切れて盗賊達が剣やナイフを抜いて動き出す。

馬車の後部に6人の盗賊が回り込んた瞬間に、


「ダークバインド」「ダークバインド」

「ダークバインド」「ダークバインド」

「ダークバインド」「ダークバインド」


と6人の腕を巻き込んで、魔法を放った。

それを見届けたクッキーが、次々と盗賊の足首を前足の爪で切りつけて動けなくした。


「ギャー」「ウギャー」「足が、足が」

「痛い!足が」「なんだコイツ、ギャー」

「やめて、ウギャー」


俺は馬車の結界を「解除」してサニーとナナシーとミャアに声を掛ける。


「俺とクッキーは村に入って、ヴォルーノさんを向かえに行って来る。どうも、まだ盗賊が潜んでいる様だから馬車から離れないで待っててくれ。それとこいつ等から何か聞き出せれば聞き出しといてくれ」


「分かった」「分かったわ」〘待ってるにゃ〙


俺はクッキーを連れて俊足で駆け出し宿屋に向かった。

宿屋に到着して扉を開けようとしたが、鍵が掛かっていて開けられないので、扉をノックして見るが反応が無い。仕方ないので剣を抜いて、「ビームソード」と唱え、剣に光魔法のレーザービームを纏わせると、扉の戸先に差し込んで縦一文字に振り抜く。

鍵が壊れて扉が開いたので21号室を目指して階段を上がると、2階に上がりきった所で、横からいきなり横薙ぎの攻撃を受けた。

剣を腹で受けてしまったがリフレクションで、体には傷一つ無しなのだが切られた衝撃で階段を転げ落ちてしまった。

俺を切り付けた奴も、反射の魔法の反動で吹き飛ばされて壁に叩き付けられいた。

起き上がらろうとしたそいつにクッキーが足に噛みつき「ボキッ」と脛の骨を噛み砕く音がした。


「ギャァァァ」


「おいおい、俺の配下になにすんじゃ〜。」


その男は2m程の長身でスキンヘッドに似合わない商人の旅裝をしていながら立派なロングソードを上段に構えてクッキーに振り下ろすが、寸での所で躱したクッキーはその男に体当たりをかますが、逆に吹き飛んだ。


「クッキー!」


手摺をぶち壊して1階に落ちたクッキーだったが、怪我も無く無傷。安心して2階に駆け上ってその男に、


「ダークバインド」「ダークバインド」


と2発拘束の魔法を放った。そして直ぐに、剣をビームソードにして、男に向かって行った。しかし、胴体と脛に纏わりつく、ダークバインドを、その男は、


「フンッ」


と気合一発で跳ね返してしまった。

少し焦ったが、剣を下段に構えその男の懐に入り、屈んだ姿勢で右足首を突き刺して、直ぐに後ろへと飛び、距離を取った。


「ウグゥア〜!」


男は痛みと怒りの混ざった叫び声を上げロングソードを中段に構え突きを連打して来た。

それを体捌きで躱して袈裟懸けさがけに振って来た所で剣を合わせると、俺のビームソードで男のロングソードの剣身が切れて落ちた。その瞬間に男の後ろに廻ったので、振り向きながら横薙ぎに振り抜いた。


「グフォ」


と声がして男は上下真っ二つに泣き分かれた。

最初に切り付けてきた男を、


「ダークバインド」


魔法で拘束して、剣を収めて21号室の扉を開けるとベットの影にヴォルーノが隠れていた。


「ヴォルーノさん、サミュエルです!大丈夫ですか?」


「ふぁ~。サミュエルか〜、廊下で大騒ぎだったからもう駄目かと思っていたよ。」


「ヴォルーノさん、動けますか?馬車に移動しましょう!ここでは守りきれません」


「分かった、移動しよう。」


「では、移動の準備を」


俺は、息の根を止めた死体をアイテムボックスに収納して、捕縛している男の髪を掴んで部屋から出て来たヴォルーノさんと盗賊を引き摺りながら1階に降りるとクッキーが伏せの体勢で待っていた。おれは大声で、


「店主!店主!店主はいないか!」


と叫んでいると、階段脇にあるフロントの奥から男が出て来た。


「私がここの店主です。」


「盗賊が泊まっていた様だ。雇主を迎えに来たら襲われた。1人は殺してしまったが、もう一人はこの様に魔法で拘束している、この村に自警団はあるか?」


「自警団は村人の持ち回りでやっとりますで、専属ちゅうもんはいません。一応村役場が自警団の駐在場所で」


「でしたら、村役場に行って、人を出して貰ってくれ、まだ盗賊の残党が居るかも知れない。俺達は外で警戒する。」


「承知しました。それでは早速行って来ます」


店主は、村役場へと向かった。

俺達も宿屋を出て馬車のある夜営広場へと向かい、サニー達と合流した。そして、クッキーに、


「クッキー、まだ村の周囲にいろんな匂いを放っている人間が居ないか探って来てくれ。見付けたら動けなく出来れば動けなくして欲しい。駄目なら念話で俺を呼べ。」


〘わかった、さぐってくる〙


そう言ってクッキーは飛び出して行った。

ヴォルーノさんを馬車に乗せ、サニー、ナナシー、ミャアも馬車の中で待機してもらった。そうして、クッキーが帰ってくるのを待つ間、探索の魔法が使えないか魔力を音波に変換する実験をした。ソナーをイメージして、


「サーチ」


音波を波紋のように飛ばしてみる。

すると、微量でも一定の魔力を持つ物体を感じ取れるようになる。高速で動いている魔力の塊。これがクッキーだと思う。クッキーの進む先には魔力の塊を感じる。

俺はそれに向かって移動を始める為に、馬車の中に声を掛ける。


「どうもクッキーが盗賊の残党を見つけたみたいだから、応援に行ってくる。結界を張るから馬車から出ないで待ってて〝セイクリッドサークル〟」


と告げて馬車に結界の魔法を掛けクッキーの応援に向かった。

再度、「サーチ」を飛ばすとクッキーと思われる魔法の塊は移動してはいなかったので、その方向に向かう。

クッキーを見つけると、そこには、足や手が曲ってはいけない方向に曲がっている盗賊と思われる男達が無数に転がっていた。

クッキーは俺を見つけると、


〘ここにいる、にんげんで、ぜんぶやっつけた〙


という念話が届いた。

俺はクッキーの頭を撫でながら、


「クッキー、頑張ったね。偉いぞ〜」


大袈裟に褒めってやった。

すると尻尾が千切れんばかりに振り切れていた。こうして盗賊退治は終了した。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る