第4話 行商人ヴォルーノ

家を出立して日の出と共に西門の広場に到着すると、西のベルロイズ辺境伯領に向かう乗合馬車や幌馬車が集まっていた。


「いっぱい馬車が居て依頼主がどれか分からないわね。サミュエル、依頼主はなんて名前なの?」


「ミャアちゃん、攫われたら大変です!私の手をしっかり繋いで下さい。はぅっ!肉球がぷにぷにですぅ。」


「ちょっと待って。今依頼書確認するから、

依頼主の名前はヴォルーノで雑貨を主な商売としていると書いてある。」


そんな話をしていると、城門が開いて5台の幌馬車が城門の外へと進んで行く。その5台のキャラバン隊が居なくなりその後に乗合馬車も出発して、残っているのは単独の幌馬車が5台程残っている。

その集まりも護衛冒険者が合流を始めると次々と出発を始めていた。

そうして、護衛冒険者のいない幌馬車が1台だけとなったので、その幌馬車に声を掛ける。


「あの〜、護衛依頼を出されたヴォルーノさんですか?」


「ん、私は、ヴォルーノだが君達が護衛を引き受けた冒険者かな?」


「はい、そうです。俺は、サミュエル。そして右にいるのがサニーで左側は、ナナシーです。」


「サミーです」「ナナシーといいます」


「それで、このシルバーウルフはクッキーといって俺の従魔です。ナナシーと手を繋いでいるのがケット・シーのミャアといいます。この3人と従魔2頭が俺のパーティーです。

宜しくお願いします。」


「サミュエルにサニー、ナナシーだね。

こちらこそ宜しくね。今回は、この街レスデアで効果が高くとても味の良いポーションが有るとの事で、辺境伯領から仕入れに来たのだけど、運良くその噂の中級ポーション10本と上級ポーション5本が購入出来てね、買ってしまった後に、他の加工品を買い込んでいた為に、護衛費用が心許なくなってしまったんだが、それでもダメ元であの金額の依頼を出してみたら引き受けてくれる冒険者がいたと聞いた時は、本当に有り難がったよ。

相場より少なく片道依頼だけど宜しく、サミュエル」


「こちらこそ、行く予定の方向と同じ護衛依頼を探していましたから問題ありません。それでは早速、出発しましょう」


「では、出発しよう」


こうして、無事行商人ヴォルーノと合流した。ヴォルーノは180cm程の身長で茶髪の優男だった。城門を抜けて、俺は馬車の左側、サニーとクッキーが右側、ナナシーとミャアが後ろに付いて西のベルロイズ辺境伯領に向かって旅立った。


20分もしないうちに、西の森の入口にやって来た。いつもならこの街道を北にれて薬草採取に向かうのだが今日は真っ直ぐ街道を進む。

更に、街道を進んでいると道が二股に別れている。左の道はダンジョンに続く道で、右が西の辺境伯領へと続く街道だった。当然馬車は右に進むとナナシーが後ろから、


「結局、ダンジョン行かなかったね」


と話して来た。俺が、


「本当なら、今日あたりダンジョンに行く予定だったんだがなぁ。ヴォルーノさん、辺境伯領にはダンジョン有りますか?」


「ダンジョンはもちろんあるけど、それより辺境伯領の西南両側にある深淵の森の方が、強い魔物や魔獣が多くて冒険者はそちらに挑戦する者達が多いかなぁ。辺境伯領には2つ管理ダンジョンがあってね、2つ共踏破した階層は30階層までで、どちらのダンジョンも、25階層から29階層にかけて鉱石が産出されるからそこで攻略は止まっている。今では鉱石の採取と若い冒険者の訓練所みたいな雰囲気になっているね」


「そうなんですね。それで、薬草などの素材は深淵の森で取れるのですか?」


「あぁ。それは豊富に取れるよ。でもね加工する技術者が多く無いから、余り良い値段が付かないんだ。それだから、どうしても若い冒険者はダンジョンの魔物を討伐して、その素材で生活しているね。」


辺境伯領の話を聞いて進んでいるとフォレストウルフが2頭現れこちらに向かって来た。

しかし、クッキーが飛び出して自分より大きなフォレストウルフを1頭は首を前足の爪で切り裂き、もう1頭の腹を食い破ってしまった。

俺達が駆け寄るともうフォレストウルフは絶命していたので、肩掛けカバン経由でアイテムボックスに収納した。

それを見ていたヴォルーノが、


「あっという間だったね。従魔のクッキーが動いて仕留めた一連の動きが見えなかったよ。クッキーが見えたと思ったらフォレストウルフが倒れていた。。本当に、凄かったね」


「まだ若いと言ってもシルバーウルフですから、それなりに強いですよ。俺達もそれなりにやれますから安心して下さい」


「今のを見ていれば心配なんかしないさ!もうすぐ日も暮れるしこの先で森も抜けるからさっさと進んで、夜営の準備をしよう」


「はい」


日が落ちる前に西の森を抜けると進む方向には一面の草原になっていた。そして街道の先に草を刈り取った広場があり、先発していた行商人の幌馬車が2台、その野営地に止まって野営の準備を始めていた。

俺達もその2台とは間隔を開けてテントを二張設置し、食事の支度を始めた。

森の入口に戻って、小枝や折れたそれなりの太さの枝を剣で小さく切り分けて運び、生活魔法のファイヤで火を着けて、串焼きとピタパンを配った。

クッキーには4本串を外して皿に置き、食事をさせた。残りの皆んなには串焼き2本とピタパン1つずつ渡して、食事を始めた。

ヴォルーノさんが馬車で野営の準備を終わらせこちらにやって来た。


「食事はこちら持ちのはずだったのに、自前を食べてしまって大丈夫かい?」


「明日から食事の支給をお願いします。それと後で馬車に結界魔法を掛けて良いですか?」


「結界魔法が使えるのかい!それは張ってくれるならこちらは大歓迎だよ!」


「では馬も近くに寄せておいて下さい半日は持つ様に掛けますので」


「分かった。食事を終わらしたら、馬を馬車の近くに寄せておこう。」


俺達は、食事を終わらせて寝る準備を始める。そして俺は、馬車の周辺に結界魔法を掛ける。


「セイクリッドサークル。これで、夜襲があっても大丈夫です。見張りはやっておきますのでゆっくり休んで下さい。」


「サミュエル、移動がこんなに楽に進むとは思わなかった。ありがとう。先に休ませて貰うよ。お休み」


「「「お休みなさい。」」」


「クッキー、ミャアは先にテントで休んでくれるか?サニーとナナシーもな。俺はなるべく頑張って見張りをするから、交代の時は残りの皆で見張りをお願い」


「分かったわ。先に休みます。サニー、クッキー、ミャア行くよ。おやすみなさい。」


「おやすみ。」〘おやすみ〙〘おやすみにゃ〙


「あぁ。おやすみ。交代になったら起こすから」


火の番をしながら、俺もうつらうつらとしていると、テントに結界魔法を張っていない事に気付き、テントに結界を張った。


「セイクリッドサークル」


そして焚き火の場所に戻って自分に反射の魔法を掛けた。


「リフレクション」


そうして、朝が来るまで見張りを続けた。


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