絶対音幹への興味と見解

「絶対音幹ピアニスト電撃復帰」というネットニュースは瞬く間に広がった。これは私達が意図した広報活動の結果である。動画投稿チャンネルにその旨を伝える内容を投稿し、SNSも新たに開設。その流れで色々な媒体がアクションを起こし、様々な憶測を唱える事で一種のムーブが起きる。それがファンや外野も含め、とにかくオーディエンスを確保することに繋がる。勿論「コケること」が出来ないプレッシャーが襲ってくるのは承知の上だ。ただ手札を出しきれずに「やりきらないで迎える本当の最期」よりも、それは今の私達には全く問題ではなかった。


SNSを再開し、DMを開放していると様々なメッセージが届く。応援のメッセージや肯定的な意見に加え、誹謗中傷や活動の妨害をほのめかす内容などもあった。私の想像以上に色々な内容のメッセージを目にすることになり、少し正気ではなくなりかける自分もいた。そんな中一通のメッセージに目が止まった。


「はじめまして。私は精神科医をしている高橋と申します。絶対音幹という概念について、造語ではあると認識しつつも、以前の活動中から興味深く拝見、拝聴させて頂いていました。また、興味に加え「絶対音幹というものが科学的に存在し、またそれを人間の脳のメカニズムの研究等と照らし合わせ、明確に証明できるのではないか?」と私自身、考察している次第でございます。心理学や脳科学などの観点から絶対音幹というものを解き明かし、研究したいと考える中で、「絶対音幹」ピアニストである矢野しずく様と直接コンタクトを取らないことには、何も始められないという考えのもと、DMを送らせて頂いている所存でございます。もし宜しければご返答頂けると幸いです。


高橋メンタルクリニック院長 高橋望」



SNSの管理はマネージャーである私がすることになっており、しずくは見ることができない様になっている。だが、この高橋さんからのメッセージについては私も興味があり、しずくにも共有した。そして一先ずコンタクトを取ってみることになった。


以前言っていた「存在していた証」を残したい、というしずくの願いにも合致していた。私達は曲の録音、動画制作等で活動に向けて多忙になる中、時間を作り海辺の街にあるという「高橋メンタルクリニック」に脚を運ぶことになった。

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