アリス

当たり前だが作詞作曲なんてしたことはない。ひとまず私が作詞でしずくが作曲と、担当を分けることにした。最初に考えたのはなぜか秋の曲を作ること。だが季節のイメージから作詞作曲をしたとして「秋の曲」が一番難しい気がする。春なら桜、夏なら海、冬なら雪…じゃあ秋の主たるテーマって…何!!となり、早くも私の頭はループにハマってしまった。そのいつもの柔軟性のなさを救ってくれるのは毎回しずくである。


「そんなのじゃなくってさ。私達の事をテーマにしようよ」

「あー、まただ。いつもありがとう」

「なにもしてないよ」


そうか。この二人の感じを歌詞にしよう。

そう思ってからは割とスムーズだった。

不思議な雰囲気の女性と、いつかは巡り会う運命だった、後に親友になる一人の女性。ただそのタイミングは残酷で、やっと繋がった矢先に離れ離れになってしまう。感謝と理不尽を描いた楽曲。

曲名は「アリス」に決めた。

ここまで決まってもうすでに8月の終わりだった。


本当のタイムリミットまでの時間ってこんなにも「あっという間」で「冷酷な世界線」なの?

私は何も知らずに人生を無駄に過ごす事に慣れていたみたい。そんな時間の価値を変えてくれた人がいる。その人と過ごした時間、それはアリス。不思議で可愛い偽物の世界。


数日ほどで私が書き上げた「アリス」のサビの部分である。大分メルヘンっぽくなった気がする。

この歌詞をしずくに見てもらったところ、彼女はとても喜んでくれた。そしてそのあと、彼女は自らのピアノが際立つようにするというより、二人の絶対音幹を引き出せるような音楽作りをしていく。


そして9月の半ば頃、アリスは完成した。

が、それと同時にしずくの体調も悪化していた。

でも大丈夫。彼女は最期の曲を出すまでは絶対に死なない。彼女の今していることはきっと、そんな生半可な覚悟でできる事ではないと思えるから。


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