二人の挑戦

夕食後、早速絶対音幹の練習を開始した。しずくは人に教えるのは初めてだから探り探りになるかもしれないと言っていたが、そんなことはなく的確な「授業」をしてくれた。彼女の教え方は至ってシンプル。自分の演奏動画を見せて「今の音の真意は?」「今の音は喜怒哀楽で言うと、どの音だと思う?」と質問したり、とある歌手が「あの番組出演時、実はこういう心境だった」と名言している時の音楽番組の演奏を見ながらCD音源と比較して解説してくれたり。それが授業料が発生してもいいくらいの教えっぷりだったので、私はしずくに言った。


「絶対音幹教室でもやろうよ」

「いいね、それ」

「私の子供も受けさせるから」

「何年後の話なの?」

「わかんない。笑」


そんな会話もつかの間、彼女は少し咳き込む。変に心配な声をかけないようにしている私。背中を擦ることが精一杯な私。なんで彼女は儚く短い命を今にも燃やし尽くそうとしているのか。無力さと無念さが同時にこみ上げてきて、私の涙のダムがいっぱいになって決壊してしまった。


「ありがとう、小音。そんなになってくれる人、この世の中できっとあなただけ。もっと早く会いたかった」


私も全くそうだ。

神様は時に凄く残酷なんだ。

初めてそう思った。


時刻が24:00を過ぎる頃。私達は彼女の寝室ではなく、来客用のベッドが2つ並ぶ別の部屋で一緒に寝ることにした。その夜は過去の出来事や学生の頃の恋愛話、将来の旦那さんの理想像、子供につけたい名前…。二人が早く出会えなかった事を取り返すかのように沢山話し、距離を縮めた。


そして、レッスンを続けること2週間。どうやら私には素養があった。しずくが確実に満足できるかは少し不安だが、彼女に教わった事を少なからずアウトプットできる程にはなってきた。


そのレベルになって、やっぱり私は「オリジナル曲」を二人で発表したい、という思いが強くなる。そしてしずくにそれを伝えると以前とは違い割とあっさり承諾を得た。彼女は「今の小音となら一緒に挑戦してみたい」と言ってくれた。


ここからは曲作りという、もっと未知との戦いだ。

でも今の二人なら大丈夫。そう思えた。

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