#26 シエル part 3.1 ~制御のコツを聞きに~

「ははひ、はほふほほっほひひんほほんほほーふへひふほふひはひはひんへふほへ」


「……は?」


 私とひかりが友達になった翌日の朝食中のことだった。


「へふはは、ははひ」


「食べてから喋ろう? ちょっと何言ってるか分からないから」


 一心不乱に朝ごはんのカレーをかっこんでいたひかりは、口に含んでいたものを飲み込むと、


「わたし、魔法をもっときちんとコントロールできるようになりたいんですよね。無駄に高威力な魔法が勝手に発動しちゃったり、魔法を一回使う度に動けなくなったりしているようじゃ、これからどうしたって足手まといになってしまいますし……いったいどうすればいいんでしょう?」


 言いながら、私の皿の中に残っているカレーにチラチラと視線を送る。


「……魔法のコントロールね……私はあまりうまく説明できないんだよね。感覚でやってるから……」


 自分の皿をひかりに差し出しながら、私は少し考えてみる。


「そうだ。それなら魔法の扱いがうまい人に話を聞いてみようか」


「そんな方がいるんですか? わたしなんかに教えてくれるでしょうか……」


「大丈夫でしょ。ひかりも知っている人なんだから」


「わたしも知っている人?」


「そう。サラさんに話を聞きに行ってみよう」


 ということで、私たちはサラさんに助言を求めるべく、魔道具屋へ向かった。


「いらっしゃい」


 そう私たちを出迎えたのは、サラさんでもアレッタさんでもなく――。


「……メグさん? ……なんであなたがここに?」


 メグさんだった。


「えーっと……」


 私の顔と隣にいたひかりを交互に見て、メグさんが何かに気付く。


「あ、もしかして、シエル⁉ 仮面がなかったから、一瞬、わかんなかったよ」


 しまった、と私は視線を彷徨わせる。メグさんには素面を晒していない。

 なじみの魔道具屋だから、仮面をつけてこなかったのは失敗だった。


「なんか、仮面なしだと雰囲気違うね」


「まあ……いろいろ事情があってね。私が『仮面のシエル』ってことは、周りには秘密にしておいてもらえると助かるんだけど」


「わかった。訳アリみたいだし、シエルの素顔は隠してしておくよ」


「ありがとう。恩に着るよ」


 と、そこへ店の奥からアレッタさんが出てきた。


「ああ、いらっしゃいませ。シエルおねーさん、ひかりおねーさん」


「アレッタちゃん!」


 ひかりがアレッタさんをギュッと抱きしめる。


「わわっ! ひかりおねーさん、きゅうにどうしたのですか?」


「やっぱり、アレッタちゃん、かわいいなって。実は前に会った時から、もふもふしてみたかったんです」


「そうですか。アレッタのけは、あるじさまがおていれしてくれているじまんのけなのです。ひかりおねーさんになら、さわらせてあげてもいいです」


「本当ですか⁉ ありがとうございます。アレッタちゃん!」


 アレッタさんの猫耳と髪の毛をわしゃわしゃとしながら、ひかりが尋ねる。


「わたし達、サラさんに聞きたいことがあって。サラさんはいますか?」


「いえ、あるじさまはとてもたいせつなようじができたらしく、きのうからかえってきていないのです」


 耳をペタンとしながら、アレッタさんが答えた。


「それが、私がここにいる理由にもつながるんだけどさ……」


 メグさんの補足によると――。


 今日の朝、下宿先に領主様の使いがやって来て、魔道具屋の主人が不在中、アレッタさんの面倒を見るようにとの命令を告げられたのだという。


 そのため、メグさんとグズマさんはサラさんがいない間、アレッタさんを世話することになったのだとか。


 ちなみに、先日のグズマさんのカツアゲ未遂の罪滅ぼしも兼ねているらしい。


「なるほどね。あれ? でも、グズマさんは?」


「兄貴は買い物に行ってるところ。まあ、とにかくそんなわけだから、ここの主人は今いないんだ。悪いね」


 サラさんが不在となると、他に話を聞けそうなのは……。


 と、心当たりを探してみるものの、誰も浮かばなかった。これまで他人と必要以上に近づいてこなかった。


 だから、こういう時に頼れる人がサラさん以外にいないのだ。


「わたし、魔法の制御がまったくできなくて……それをどうにかしたいと思って、サラさんにアドバイスをもらいたかったんですよ」


 ひかりの言葉に、メグさんは少し考えてから答えた。


「魔法制御ね……。簡単な魔法の制御なら、私もわかるけど、ひかりが使うレベルのものは……」


「そうだ! メグちゃん! メグちゃんも魔法使いじゃないですか!」 


 と、メグさんの手を取り、ひかりが頭を下げる。


「メグちゃんがわたしに魔法の制御を伝授してくれませんか?」


「いや、でも、本当に基礎中の基礎だよ? あのデビルプラントを一撃で倒せるような人に役に立つかわからないよ? それに、今はアレッタの面倒を見ていないとだし……」


 ひかりに圧されながら、歯切れ悪く返事するメグさん。


「アレッタならだいじょうぶです」


 胸を張ってアレッタさんが口を開く。

「おみせはなんどかひとりでまかされたこともありますし、もうすぐグズマおじさんもかえってくるとおもうので。メグおねーさんは、ひかりおねーさんのおねがいをきいてあげてほしいです」


 そうメグさんに口添えをするアレッタさんの髪を撫でつつ。


「メグさんが良ければ、私からもお願い」


 私もメグさんに頼んだ。


 メグさんは、はぁっと息を吐き出す。


「アレッタと命の恩人二人にそう言われたら……まあ、やるけどさ。本当に初歩的なことしか教えられないからね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る