14.甘えたい日
「ねぇねぇねぇ、鶴ってば~!」
千恵ちゃんが甘い声を出しながら、わたしの頬に自分の頬をスリスリしてくる。
――来た。
今日は千恵ちゃんの甘えたい日だ。
あまり表に出さないが、千恵ちゃんは寂しがり屋である。
普段は何かと強がっている思春期の女の子だが、時たま……本当に時たまだが、こうして素の自分になってわたしに甘えてくる日がある。
「鶴、大好き~!」
わたしの膝の上でゴロゴロと転がるその様は、まるで小さな子猫のようでとても可愛い。
もし犯罪にならなければ、今すぐにでもチューをしたいくらいだ。
千恵ちゃんのお母さんはシングルマザーで、その一日のほとんどを会社で過ごしている。
毎日、夜遅くまで働いている千恵ちゃんのお母さんを見て、わたしは一人の人間として尊敬の念を禁じ得なかった。
(……わたしとあまり年齢は変わらないのに何であんなに頑張れるんだろう)
よく母は強いというが、あれは本当の話だった。
しかし、千恵ちゃんのお母さんはもうずっと疲れ切っている。
前にわたしが挨拶をした時は、声と顔にまるで元気がなかった。
千恵ちゃんのことを常に心配しているようだが、正直に言ってわたしはお母さんのことも心配だ。
「ぶ~! 考えごとなんかしてないで、こっちを見なさいよ~!」
千恵ちゃんはお母さんにあまり構って貰えない為か、人一倍愛情に飢えているところがある。
わたしが千恵ちゃんのお母さん代わりになってあげないと。
普段は友達として接しているが、わたしの中ではそんな気持ちもある。
「……わたし、千恵ちゃんの良き理解者になるからね」
そう言って、膝の上で転がる千恵ちゃんの頭を優しく撫でる。
「ふにゃあ」
しばらくすると、千恵ちゃんは寝息を立てて、スヤスヤと寝てしまった。
もしも、許されるなら、わたしは千恵ちゃんにとっての大事な人になりたい。
――その為には、
「なるべく変なことは言わないようにしないと……」
一応、自分でも自覚はあった。
〝いつもごめんね〟
わたしはにこやかに微笑むと、千恵ちゃんの頬を指でそっと撫でる。
「今はゆっくりとおやすみなさい」
またね。
わたしの大好きな千恵ちゃん。
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