12.予約済み

 ――パク。もぐもぐ。


 パク。もぐもぐ――。


「……その、言い難いんだけど、千恵ちゃんに一つだけ言っておきたいことがあるよ……」


 千恵ちゃんが大好きな菓子パンを食べながら、わたしの方に視線を向ける。


「何?」

「あのさ……」


 千恵ちゃんの好きな物にケチをつけたくない。

 しかし、わたしは思い切って、〝それ〟を口にする。


「……菓子パンの食べ過ぎ。気付けば一日三食クリームパンじゃない?」

「そんなことない。たまにアンパンも食べてるじゃん」

「そういうことじゃないよ……」


 偏食は身体に悪い。

 下手をしたら、若くして死ぬよと言った。


「そういう鶴だって主食はエナジードリンクじゃない」

「あ、あれはいいの! 頭も体も元気になれるし!」


 エナジードリンクは悪じゃないと、わたしはきっぱりと否定する。


「そんなことより鶴もクリームパン食べる?」


 『あたしのを半分こになっちゃうけど』と、千恵ちゃんは口寂しそうに言った。


「……そんなに食べたいなら、一人で食べていいよ」


 わたしがそう言うと、千恵ちゃんは嬉しそうに笑った。


「人間、食べたい物を食べるのが一番幸せなことなんだから、鶴も細かいことは気にしない方がいいと思う」


 ――それはそうなんだけど。


「……でも」

「?」

「あたし以外の女の子を食べたら、絶対に許さないから」


 クリームパンを食べながら、千恵ちゃんはわたしを睨みつけた。


「た、食べないよ! それだけは神に誓ってもいいよ!」

「なら、よろしい」


 〝あたしの初めては、鶴が予約済みなんだからね〟


 上目遣いで千恵ちゃんが薄く笑う。

 わたしは『本気にしてもいい?』と言った。

 すると、


「そろそろ通報が恋しくなった?」


 と返され、いつもの如くわたしは、軽蔑の眼差しを向けられるのであった。

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