6.膝枕

 わたしは煙草を吸わない。酒も呑まない。

 何故なら少しでも長く生きて、一つでも多く作品を残したいからだ。


「……随分と殊勝な心掛けじゃん」

「わたしはわたしの生きた証を残したいんだよ」

「それなら……」

「?」

「エナジードリンクばっかり飲んでないでもっと睡眠を取りなさいよ」


 千恵ちゃんが呆れた顔つきで、『はあ』とため息をついた。

 目の前の丸テーブルの上には、大量のエナジードリンクが置かれている。

 わたしの創作意欲に隙はない。


「……そんなんじゃ、いつか死んじゃうよ?」


 千恵ちゃんはか細い声でそう言うと、わたしの背中にもたれかかってくる。

 えーとですね。

 既にわたしはきゅん死しそうなんですが……。


「ちょっと、どうせまたろくでもないこと考えてるでしょ」

「ソ、ソンナコトナイデスヨー」

「……片言になってるじゃん」


 千恵ちゃんはわたしに軽蔑の視線を送ると、そのあとに『あはは』と大きく笑った。


「ほら、ここで少しでも寝なよ」


 千恵ちゃんは膝枕の姿勢を取ると、強引にわたしの頭を太ももに乗せた。


「鶴には長く生きて貰わないとね」


 その言葉を聞いて、わたしは軽く涙ぐむ。


「わたしのこと、そんな風に思ってくれて嬉しいよ」


 鼻水でズビズビと鼻を鳴らしていると、千恵ちゃんがどこかうしろめたい目で言った。


「……だって、鶴がいなくなったら、からかえる相手がいなくなっちゃうし」


 『てへっ』と舌を出して笑う千恵ちゃんに、『どうせそんなことだろうと思いました』と心の底から深くゲンナリした。


「でも……」

「?」

「――なのは〝本当〟だけどね」

「もう一度言って」

「うるさいっ! なんでもないからっ!」


 わたしが聞き間違えてなければ、千恵ちゃんは確かに『〝大好き〟なのは〝本当〟だけどね』と言ってくれた。

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