5.髪

 日頃の疲れから、小説を書く気にもなれず、部屋で横になって転がっていると、千恵ちゃんが髪のお手入れをし始めた。

 千恵ちゃんの髪の毛は、茶髪のロングヘアで普段はストレートアイロンで内巻きにされている。

 小学生らしからぬその大人びたきれいな髪は、わたしよりもずっとお洒落でなんかもう可愛いとしか言いようがない。

 今すぐに抱き締めたい衝動に駆られるが、『わたしは大人。そして、それは犯罪』と自分を戒める。


「鶴も少しは髪型を整えたら?」


 わたしのボサボサの髪を見て、千恵ちゃんが苦言を漏らす。


「……わたしじゃ出来ないから、千恵ちゃんが整えて」


 上目づかいで千恵ちゃんに甘えてみる。


「もう仕方ないなぁ」


 わたしの髪型はショートヘアで、適当に千円カットで切って貰っている。

 正直、今までお洒落になんて興味がなかった。

 でも、千恵ちゃんと一緒にいたら、わたしもちょっと変わりたいと思えたんだ。


「柄にもないこと言うかもだけど、鶴は元が良いんだから、もっと見た目に気を遣っても良いと思う」

「陰キャにそれは難しい」

「別に陰キャとか関係ないと思うけどな」


 千恵ちゃんに『ほら』と言われ、鏡を見ると、短めのツインテールのわたしが映った。


「うん! いいね! 全然印象変わったじゃん」

「そ、そう?」

「じゃあ」

「?」

「ん!」

「な、何?」

「……もう! なんで分からないかなぁ。頭を撫でてって言ってるの!」


 『あたし頑張ったじゃん』と言い、千恵ちゃんは頭を差し出してきた。


「良きに計らえ」


 わたしは千恵ちゃんの頭を優しく撫でる。


「んむ。んむ。いいぞ」


 ――もしも、千恵ちゃんが大人になったら、わたしみたいな芋女のことなんか忘れちゃうだろうな。

 でも、それで良いんだ。

 わたしは大人。千恵ちゃんの幸せを一番に願わなくちゃ行けないから――。


「……鶴。あんたが今考えていることは、あたしにとっては余計なお世話だからね」

「えっ!?」

「あたしは大人になったって鶴とずっと一緒だよ。だって――」


 〝あたしたち友達でしょ〟


 わたしはきょとんとしたあとに大きく笑い、千恵ちゃんをぎゅっと抱き締めた。


「……次やったら、通報するから」

「え?」


 決して良い話では終わらない。それがわたしたちの日常だ――。

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