第36話同盟

 ミカエルとニーナ、そう名乗った生徒二人に従い、連れてこられたのは、学園の隅の方にある、人気の少ない区画である。


 なんだか寒々しい空気が漂っていて、どことなく採光も悪い。


 南方の密林にある古代遺跡のような廊下を歩き、通されたのは、これまた古ぼけた部屋だった。




「ささ、ここが僕らの部屋だ。入ってくれ」




 こんな場所に一体何の用が――?


 小生とエステラが不安に思いながら部屋に入ると、そこには十名程度の生徒たちがいた。


 腕につけられた徽章を見れば、この場には一回生から三回生までが揃っているのがわかる。




「会長、例の生徒をお連れしました」

「おお、彼がそうなのか。入ってくれ。遠慮はいらない」




 部屋の奥、ボロボロのソファに腰掛けて腕を組んでいた大柄の男子生徒が、意外なほど気さくな声とともに小生たちを部屋の中に誘った。


 小生がその大柄の生徒の真向かい、多少座面が剥げかけた椅子に腰掛けると、大柄の男子生徒が右手を差し出してきた。




「突然呼び出してすまない。俺はアーサソール魔剣士学園三回生のアルベルト・ベイチェクだ。君がクヨウ・ハチースカだな?」

「え、えぇ。以後お見知りおきを」

「それは必要ない。君は今、この学園内ではちょっとした有名人なんだ」

「はて? 小生が、ですか?」

「ああ、そりゃそうだ。遥か東洋の大八洲から来た生徒というのも珍しい上に、その上、あのリューリカの厄介者と剣を交え、正々堂々打ち負かして除籍処分に追い込んでくれた英雄だ」




 あの厄介者? と聞いて、あぁ、と小生は頷いた。


 あのイワンとかいう巨漢のことを言っているのだろう。もう忘れかけていた。


 そんな小生とは裏腹に、握手した手を引っ込めたアルベルト会長は、なんだか難しい表情をしていた。




「何せ、奴は【ストレングス】の異名を取った有力な新入生だった。そんな男が君に手も足も出ずに完敗を喫した上、剣を折られてこの学園を除籍処分になった。そんなニュース、我々弱小国出身の生徒にとっては大いなる福音だった――」




 組んだ手を口元に押し付けながら、アルベルト会長は真っ直ぐに小生を見た。




「まずはこの集まりについて説明しておこう。俺たちのこの集団に正式な名前はない。学内で生徒が勝手に徒党を組むことはあまり褒められた行為ではないからな。外部からはただ単に『同盟』と呼ばれている」

「同盟、ですか? 一体何のための?」

「それはもうわかっているはずだ。我々弱小国出身の生徒たちの地位向上を目指すための同盟だ」




 アルベルト会長の目が鋭くなった。




「もう察しているとは思うが、この学園はいわゆる五大列強国、アルビオン王国、テネシア合衆国、リーゼンラント帝国、ミッテラント共和国、リューリカ帝国、以上五つの国の影響力が強い学園だ。つまり、我々列強国に名を連ねていない国の生徒は、様々な面で不遇を囲うことになる」




 小生は口を挟まず、続きを待った。


 アルベルト会長は野太いため息を吐いた。




「ただでさえ、五大列強国からの生徒は強力な【エトノス】を持っている上、政治的影響力も強い。我々は力づくでも影響力でも彼らに遅れを取ることになる。教授陣も弱小国出身の生徒への差別行為や威圧行為も見て見ぬふりだ。だから我々のような互助組織が自然発生することになる」




 成る程、そういうことか。


 小生はそこで口を開いた。




「そこで小生にもその『同盟』に加わってほしいと?」

「ああ、単刀直入に言えばそういうことだ」




 アルベルト会長は野太い声で説明した。




「何しろこの学園が創設されて三百年、列強国出身、しかもネームドの生徒に、弱小国出身の生徒が力づくで勝ったなんて話は聞いたことがないのでな。君は十分に、いやそれ以上に、この同盟の中核戦力となる資格がある」

「はぁ、さてもさても面妖なる話。入るか否かは別にして、小生に一体何をしろと?」




 小生は先回りして質問した。




「まさか列強国の生徒を次々と闇討ちせよなどという話ではござるまい? 一体全体、小生がこの同盟に名を連ねて、それで何をしろと?」

「簡単な話だ」




 そこでアルベルト会長の目が光った。




「クヨウ・ハチースカ。君には一週間後の生徒会選に立候補してほしいんだ」








「面白かった」

「続きが気になる」

「いや面白いと思うよコレ」


そう思っていただけましたら、

何卒下の方の『★』でご供養ください。


よろしくお願いいたします。



【VS】

もしよければこちらの連載作品もよろしく。完結済みラブコメです。


『俺が暴漢から助けたロシアン美少女、どうやら俺の宿敵らしいです ~俺とエレーナさんの第二次日露戦争ラブコメ~』

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