第35話来訪者

「目立つな、っていうアドバイスは無理があったわね……今日だけであなた、物凄く注目の生徒になったわよ」

「そ、そうであろうかな……。小生はごく普通に学生生活を送っているつもりなのだが……」

「何度も言うけど」




 共に並んで廊下を歩いていたエステラが、小生の前に回り、説教するような表情で小生の顔を指差した。




「あなたのそれが大八洲での『普通』なら、今頃大八洲は列強国筆頭どころか、五大列強国全部を植民地にしてるわよ。世界に剣聖が何人いたってサムライの群れの前には敵いっこないことになるじゃない。いい加減、自分が物凄く規格外な存在であることは自覚なさい」




 同年代の女子にこれほど上から目線で説教されると、これが焦る。


 思わず押し黙ってしまうと、ハァ、とエステラがため息を吐いた。




「……まぁ、私のアドバイスなんて効果がないのかもしれないけれどね。あなたは私がどんなに忠告してもホイホイ道を駆け上がっていっちゃう人なのかも」

「あ、ああもう、わかっておるわかっておる。とにかく自重しろ、ということであるな。理解しておるとも」

「理解しても実行できなきゃ意味がないじゃない。……全く、これ以上あなたに目立たれると私が隣に立っていられなくなるじゃない。今日もなんかテネシアの女子と一方的に仲良くなってたし……」

「へぁ? それはどういう意味だ? エステラ」

「……なんでもない! とにかく、この学園で他の人に目をつけられるのはあまりよくないってこと! ただでさえここは国際関係の縮図なんだから。あんまり祖国に厳しい視線を向けさせるようなことは将来のためにもならない。わかった?」




 祖国への視線。小生はその言葉の重さに戸惑った。


 そうだ、この学園の生徒は、ゆくゆくは祖国に戻ってその軍の中枢戦力になる魔剣士たちなのである。


 ここでの小生のイメージが、将来的な両国家間の揉め事の火種にならぬとも限らないのだ。




 小生が脱力して頷いた、そのときだった。




「あ、あの、クヨウ・ハチースカ君!」




 その声に小生が振り返ると、そこにいたのは栗色の髪をした小柄な女子生徒と、制服の方に二回生の徽章きしょうをつけた男子生徒であった。


 誰だっけ? と小生が考える前に、男子生徒の方が口を開いた。




「あの、僕、二回生のミカエル・アラネンって言うんだ。彼女は――」

「あの、ニーナ、ニーナ・リストライネンです。あの……」

「いいよニーナ、僕が説明する」




 男子生徒が小生の顔を見つめながら口を開いた。




「あの、悪いんだけど、この後時間あるかな? 少し君と話がしたいんだ」




 小生に話? 小生とエステラが顔を見合わせると、小柄な女子生徒の方が口を開いた。




「あ、あ、それと、あの、昼間のことはありがとうございましたッ!」




 急にそんなことを言われて、小生は小柄な女子生徒をしげしげと見つめた。


 ああ、やっと誰だったのか思い出した。


 小生が昼前の実習の時、暴走した魔導機兵から助けた、あの栗色の髪をした女子生徒だ。




「ああ、どこぞで見かけたと思えば……あのとき怪我はなかったかな? ええと、ニーナ殿」

「おかげさまで無事でした。繰り返しになりますけれどありがとうございます。本当に、危ないところだった……」




 そう言ったニーナを見て、男子生徒は不審げな表情を浮かべた。




「ところでニーナ、本当に彼がそんなことをしたのか? あのエーテル鋼製の魔導機兵オートマタを真っ二つに斬り裂いたなんて……戦艦の装甲にも使われてる鋼材だぞ?」

「私だってにわかには信じられなかった。けど本当なの、ミカエル。それだけじゃない、入学前の特別親善試合では、あのリューリカからの生徒を一方的に翻弄して……」

「リューリカの生徒って、【ストレングス】のイワンだろ? 二回生の僕でも知ってる有力な新入生だった。列強国出身ではない彼に本当にそんな事が……」

「あの、悪いんだけど疑わないでもらえますか?」




 エステラがそこで強い声でミカエルを窘めたので、小生は少し驚いた。




「今、そこのニーナさんが言ったことは全て事実です。それどころか、クヨウはあのクズを魔剣技で叩きのめして退学に追い込み、アイツに脅かされていた私を救ってくれました。クヨウはただ強くて優しいだけじゃない、ゆくゆくは【剣聖】になる男です。私が保証しますよ」




 なんだか、妙に嬉しいことを言ってくれるではないか。


 小生が、おっ、おう……と少々照れてしまうと、剣聖、と重く呟いたミカエルが、小生を見つめ直した。




「どうやら、噂は噂ではなく本当らしいな、クヨウ・ハチースカ君。改めて、そんな君と少し込み入った話がしたい。ついてきてくれるか?」

「はて……込み入った話、とは?」

「簡単だ。僕らのリーダーと少し話をしてほしいんだ。これは君にとっても利益がある話だと保証できる。……もしも許すなら、そこのリューリカ……いや、カウナシアからの君も同席してほしい」




 エステラにも? 小生とエステラはもう一度顔を見合わせた。







「面白かった」

「続きが気になる」

「いや面白いと思うよコレ」


そう思っていただけましたら、

何卒下の方の『★』でご供養ください。


よろしくお願いいたします。



【VS】

もしよければこちらの連載作品もよろしく。完結間近のラブコメです。


『俺が暴漢から助けたロシアン美少女、どうやら俺の宿敵らしいです ~俺とエレーナさんの第二次日露戦争ラブコメ~』

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