第22話 魔物使いモナカとライムスの日常

 私が戻ってくると、リボンちゃんと伊賀さんがこちらに向かってきて、いろいろと質問を投げかけてきた。


「おい嬢ちゃん、どうだった?! この先になにがあったんだ? どんなことをされた?」

「偉い人、どんな感じだった? 男の人? 女の人? そもそも顔は見せてくれたの?」

「え、えーっとね……」


 うーん、こういう時って何から話すのが正解なんだろう?


 私が答えあぐねていると。


「はいはい二人とも落ち着いて。わざわざ彼女に訪ねなくとも、自分の目で確かめてくればいいじゃないか」


 三ノ宮さんに促される形で、次はリボンちゃんが円錐に踏み入り、そしてパッ! と消えた。


「うわぁ、本当に消えちゃったよ。私のこともあんなふうに見えてたんだね」

「逆に、消える時はどんな感じだったんだ?」

「うーんと、なんか視界がテレビの砂嵐になるみたいな? そんな感じでした」

「へえ。なんか面白そうだなっ!」


 それから1分と経たずに、リボンちゃんが戻ってきたよ。


 リボンちゃんは頬を紅潮させていて、ちょっと興奮気味。


「す、すごかった! なんか、温かくて青い光に包まれて。それに、あのお姉さんすっっごく美人だった!」

「うんうん、あのお姉さんビックリするくらい美人だったよね!」


 私とリボンちゃんが意気投合する横で、伊賀さんが露骨に嬉しそうな顔をする。


 やっぱり男の人って美人さんが好きなのかな?


 いやまぁ、私も美人さんは好きだけどさ。


「へっへっへ、二人がそこまで言うならさぞかし素晴らしいご尊顔の持ち主なんだろうな! こいつは楽しみだぜ!」

「楽しみにするのはいいが、変な気だけは起こすなよ? 命の保証はできないからな」


 山本さんがピシャリと言うと、伊賀さんは目に見えて顔を青くした。


「そんなおっかねえこと言わないでくれよぉ」

「安心しろ。黙ってさえいればおっかない目に遭うこともない」


 こうして伊賀さんも円錐の光に飲み込まれ、パッ! と消えていった。


 リボンちゃん同様、伊賀さんが戻ってくるのにも1分とかからなかったよ。


 戻ってきた伊賀さんはリボンちゃんよりも顔が赤くなっていて、あまりにも分かり易い反応をするものだから、私もリボンちゃん笑ってしまった。


「ふぅ。なんつーかアレだな。これぞまさに神秘的な体験ってヤツだな! 話には聞いてたが、まさかこんな方法でスキルが芽生えるとは思いもしなかったぜ!」

「その表現はちょっと間違いだな」


 青髪をたくし上げながら、山本さんが伊賀さんを見据える。


「ダンジョンが出現してから、人類にはレベルやらスキルやらとゲーム的な異能が与えられたわけだが、そういう異能ってのは誰もが生まれながらに持っているものだ」

「そのとーりっ! 赤ん坊だろうと小学生だろうと大人だろうと関係ない。スキルってのは初めからそこに芽生えているものなのさっ」

「とはいえ、あくまでも芽が生えているだけにすぎん。……あのお方はこの世界でも数少ない【神眼】の持ち主でな。その神眼があればこそ、スキルの芽を知覚することができるんだ。スキルの芽――つまりは魂の核となる部分に魔力を流し込み、生命エネルギーを与えることで芽を開花させる。それがあのお方の仕事だ」


 うう、ちょっと難しいね。

 でも、あのお姉さんが超重要人物って言われる理由は分かったよ。


 人に芽生えたスキルを引き起こす。

 そんなことが出来る人がいたら、そりゃあ引く手あまたに決まってるもんね。


 かくして、私たちはスキルという異能を扱えるようになった。


 これにて試練は終了だね。


 となれば、やることは一つ。


 というわけで私は、ライムスを連れて市営プールにやってきた!


「ライムス、泳ぐよっ!!」

『ぴきゅいぃっ!!』


#


 あの後、私たち三人は1階ロビーで連絡先を交換した。


 こうして出会えたのも何かの縁だし、このまま別れるのは惜しいよね。


 3人ともそう思っていたから、連絡先を交換したよ。


「近いうちに祝勝会でもしようや! いや、この場合は合格祝いのほうが正しいのか?」

「どっちでもいいけど、みんなで飲みにいくのは賛成」

「いいねいいねっ、私も大賛成だよ! せっかくゴールデンウィークなんだし、楽しまなきゃ損だよ!」


 そして私たちは連絡先を交換して、その場で解散したよ。


 あとで伊賀さんが連絡をくれるっていうから、楽しみだね。


 帰宅すると、ばひゅーんっ! とライムスが突っ込んできて、私のことを出迎えてくれた。


「ふふっ、ただいまぁ」

『ぴきゅいっ!!』


 ライムスを置いていくときは大抵仕事だから、こうやって早く帰って来てくれるのが嬉しいみたいだね。


 ライムスはフローリングや壁に跳弾して、すごい勢いで飛び跳ねている。


 これも喜びの舞だね。

 

「あははっ! ライムスったら、そんなに嬉しいの?」

『きゅぴぃーーっ!!』

「よぉーし、それじゃあもっと嬉しいお知らせをしちゃおうかな?」


 私が勿体ぶるように言うと、ライムスはその場で静止して私を見上げた。


『ぴぃ?』

「ライムスに嬉しいお知らせが二つあります! まず一つ目。今日受けてきた”魔物使いの試練”ですが、なんとなんと、無事合格することができました! やったーっ!!」

『きゅぃーーっ!!』


 ぱちぱちと手を叩くと、嬉しさが伝わったのか、ライムスはその場でぴょんぴょんと飛び跳ねていた。


 あーもう、ライムスってば、なんでこんなに可愛いんだろうね?


 可愛すぎる罪で逮捕しちゃうぞー!

 とまぁ、冗談はさて置き。


「そして嬉しいお知らせ二つ目。これからプールで遊びますっ!!」

『ぴ……ぴきぃーーーっ!!』


 プールという言葉に反応して、ライムスがぐるぐると回転した。


 凄まじい喜びの舞だねっ、ライムス!


「ふふっ、スライムは水辺が大好きだもんね?」

『ぴきぃっ!』


 とまぁこんな具合で、私はライムスを引き連れて市営プールにやってきたよ。


 もちろんこのプールはペットモンスターも遊泳オッケー。


 ここのプールなら、ライムスも思う存分に遊べるってことだね!


「ライムス、泳ぐよっ!!」

『ぴきゅいぃっ!!』


 私は手短にストレッチを済ませると、ライムスを抱えてプールに入水した。


 既に気温は20度を超えていて、ひんやりとした水がちょうどいい具合に体を冷やしてくれる。


 ライムスは、温泉のときと同じように、平べったくなりながらぷかぷかと浮いていたよ。


 そんなライムスの姿も、やっぱりかわいいね。


 


  



 

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