第3章 最中とレイドクエスト編

第21話 神託の儀

#


「では、我々はしばし準備に当たりますので、お三方は1階ロビーにてお待ちください」


 グラサンのお兄さんにそう言われて、私たちはロビーの椅子に腰かけて待機することになった。


 周囲を見渡すと、同じようにソファに座っている探索者の姿が見える。


 時間も時間だし、だいぶ賑わってきているね。


「いやはや、嬢ちゃんには助けられちまったな。絶対に不合格だと思ったのに、まさかあんな方法を思いつくなんてよ」

「うん、ビックリした。お姉さんがいなかったら、私もおじさんも失格だったよ。だから、ありがとう」

「俺からも礼を言わせてくれ。合格できたのは嬢ちゃんのお陰だ。ありがとうなっ!」

「えへへへ、なんだか照れちゃいますね。でも、私一人の力じゃ絶対に合格なんて出来なかったですよ。伊賀さんとリボンちゃん、私が呼んだとき、二人はすぐに私の意図を察してくれたじゃないですか。それがなかったら絶対に合格なんて無理でした。だから私の方こそ、ありがとうございます」

「おう! そんじゃ、お互いにありがとうってことだな!」


 そんなふうに話していると、やがて一人のお姉さんがこちらへ向かってきた。


「伊賀智則様、藤宮莉音様、天海最中様ですね?」

「はい、そうですが」


 私たちはお姉さんに視線を向ける。

 するとお姉さんはにこっと微笑んで、エレベーターのほうを指し示した。


「三ノ宮様より、準備が整ったとのご報告がありました。これよりお三方を儀式会場へご案内いたしますが、よろしいですね?」


 儀式会場……あまり聞かない言葉だね。


 儀式というからには何らかの儀式が行われるんだろうけど……。


「俺は準備オッケーだぜ!」

「私も。お姉さんは?」

「あっ、うん。私も大丈夫だよ!」

「では、ご案内させていただきますね」




 私たちはお姉さんと一緒にエレベーターに乗り込んだ。

 エレベーターはぐんぐんと昇っていって、39階で停止した。


 このビルは40階建てだから、ほとんど屋上ってことになるね。

 なんか高いところって特別って感じがしてワクワクしちゃうよ。


 エレベーターの扉が開くと、その先には大きな吹き抜けのホールが広がっていた。


 全体的に真っ白で、左右両端には螺旋階段が見えるよ。

 

 真正面にはステンドグラスが見えるね。

 それから、最奥部までの道にはレッドカーペットが敷かれていて、なんだか披露宴会場みたい。


「うおぉ、スッゲーなここ!」

「うん。なんだか、豪邸みたい」

「うわぁ。本当に豪邸って感じがするねぇ」


 そうやって見惚れていると、右の螺旋階段から三宮さんが、左の螺旋階段から山本さんが降りてきた。


「やぁやぁ。ようこそ『神託の間』へ!」

「お前たちがこれから会うのは、探索者協会を影から支える超重要人物だ! いいか、くれぐれも粗相の無いようにな。さ、ついてこい」


 そう言うと、二人はてくてくと奥のほうに歩いていった。

 そして最奥部に到達すると、そこでピタリと立ち止まる。


 そこには、円錐の光があった。


 大理石の床には円形に楔が突き刺さっていて、その中心から青白い光が1mほど伸びている。


 ちょっと幻想的だね。

 SF映画で見るホログラフィックに似てるかも? 


「これは【瞬間転送装置】と呼ばれていてな。楔ってのは地点Aと地点Bとを結ぶ効果のある代物なワケだが、それを改造したのがコイツってわけだな。口で言っても分からんだろうが、これはかなり高度なテクノロジーで運用されてるんだぜ?」

「そしてこの【瞬間転送装置】の先に、超偉いお方がいるってワケさ。ちなみに一人ずつしか転送できないから、順番は話し合いで決めるようにねっ」




「それじゃ、誰からにしようか?」

 

 儀式っていうのが何なのかは分からないけれど、この先には偉い人がいるみたいだし、なにか凄いことをするんだと思う。


 もしくはさせられるのかな?


 とにもかくにも、一番最初に行く人は慎重に選ばないとね。


「私は、最後でいい」

「俺も後からでいいぜ。ていうか話し合いなんてするまでもなくねーか? 普通に活躍した順でいいだろ。MVPの最中さんが1番、次にスライムを捕まえたリボンちゃんが2番。一番活躍できなかった俺は最後でいいぜ」

「いやいや、そういうわけにはいきませんよ! そもそも私がMVPだなんて、そんなこと――」

「いや、お姉さんはMVPだよ。これは譲れない」


 とまぁこんな感じで。

 

 私が、第一陣を切ることになったよ。


 なんか体良く言い包められた感が拭えないんだけど、たぶん気のせいだよね? うん。気のせいってことにしておこう。


 円柱の光に踏み込むと、ほわあ~と暖かい空気が包んでくれる。


 そして少しずつ、まるで、テレビの砂嵐に徐々に侵食されるかのように、目の前の光景が変化していった。


#


「よく来たな、天海最中」


 そして気が付くと、目の前にすっっっごく美人なお姉さんがいたよ。


 腰まで伸びる黒髪、反対に、ワンピースから伸びる素肌は幽霊のように真っ白。


 そして、蒼空を思わせる相貌が私のことをまっすぐに見据えていた。


 まるで、御伽噺の中に出てきそうな……。

 まるで女神さまのような。


 目の前のお姉さんは、それほどまでの美貌を放っていて。


 私はつい、うっとりと見惚れてしまう。


「天海最中。そこを動くなよ」

「あっ、ハイ!」


 お姉さんの華奢で綺麗な指先がこちらに伸びてきて、そして、私の頬をさっと撫でた――次の瞬間。


 私の全身から青白い光が溢れ出して、止まらなくなった。


「ふむ。お前のスキルは【万物寵愛】か。魔物の支配者を目指すのなら、これほどまでに適したスキルは無いだろう。――修行を怠るなよ。お前の才能なら……そうだな。ひょっとしたら、纏のヤツに届き得るかもしれん」


 そう言うと、お姉さんは右手をさっと振り払う。

 

 そして一瞬の瞬きの後。


 私は、さっきの吹き抜けのホールに戻って来ていた。


 

 

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