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PM 0:30 探偵事務所 如月


 予定より30分遅れて、道警の刑事が来店する。やはりこのご時世の為か、皆マスクをしている。

 当然、私とラスティアもマスクをする。別にしなくても良いが、事務所を経営させる為には致し方ない。


「すいません。どうも立て込んでいまして、予定より遅れてしまいました」


「いえ、それでしたら、致し方ありません。では、ご依頼の相談の前にこれを」


 私は、刑事たちに名刺を渡す。


「キサラギ・アルトナさん、ですか。なるほど、あなたのことでしたね。半年前、望月がお世話になった探偵というのは」


「えぇ。ですが、あの時に五十嵐さんを殉職してしまったのもありますが」


「いえいえ。こちらこそお礼を申したい限りです。それと、私は下川と申します。以前こちらでご依頼された望月とは同僚でした」


「巡査長ですか。お若いのに立派ですね」


「そうともいえませんよ。私はまだ巡査長として日が浅いものでして」


 私と下川さんは、談笑に花を咲かせる。しばらく話していると、下川さんから依頼の話を始めた。


「それはそうと、依頼の話を始めましょう」


「えぇ。では、本日はどのようなご依頼で?」


 下川さんは、部下にファイルを出すようにいう。ファイルを広げた下川さんは、淡々と話を始める。


「我々が依頼したいのは、件の自殺についてです。テレビでも知ってるように、最近、すすきので相次いで転落死した遺体が発見されています。

 それも、大半は10代。高校生や、水商売で生計を立ててる大学が大半を占めている。その全ては、深夜2時と夕方6時が死亡推定時間とされています」


「さらにタチが悪い事に、そのほとんどが女性ってわけですか。それで? なぜ私に依頼を?」


「警察としては、そのまま自殺として処理されますが、これが不審な部分が多くて、共通のことを言いますと、遺族の証言だと前日まで『その様なことを抱える事は聞いていない』そうです。

 何かに駆られ、自殺したのかすらわからないのです」


「なるほど。では、そちらでは、『何故自殺した』のかがわからないという事ですか」


 警察ですら、自殺した理由を突き止められていない様だ。それに、不可解なのは、前日まではいつも通りということだ。

 どうやら、皆が皆何かに不安を抱えて自殺を図ったわけではない。それがどうも私には、不可解を感じる他にない。


「それでですね。あなたにご依頼したいなと。資金については、そちらで提供したのに従いますので」


 私は、請求書をラスティアから受け取り、それに金額を書き留める。そして、それを下川さんに提示した。


「こちらの金額で、問題ないでしょうか?」


「90万円ですか……。では、それで手を打ちましょう」


「ありがとうございます。それと、支払い期間は設けていないので、支払える時にでもお支払いをしていただけると」


「はい。では早速ですが、この後所までご同行願いますか? 実は、今朝の遺体がこちらで保管しておりますので、それの解析を手伝っていただきたのです」


 下川さんは、私に警察署に来てもらう様にいう。私は、依頼されている身である以上、それに従う他にない。


「わかりました。では、こちらも身支度をしたいので、少々お待ちいただけますか?」


 私がそういうと、下川さんはそれを承諾し、事務所を後にする。私は、鞄を用意する。そして、魔術の触媒になるものを詰め込んだ。


「また警察署に行くの?」


「高い依頼費を支払う約束だからね。悪いけど、今日は店じまいだ」


「もう。すぐ予定が入ると、店を閉めるんだから」


 ラスティアは、呆れながら私を見送る。そして、私は事務所を後にする。しばらく歩いていると、パトカーが止まっていた。

 下川さんは、私を見るなり、手を挙げて合図する。それを見た私は、パトカーに乗る。


「すいません。身支度に時間を頂戴して」


「いえ、お気になさらずに。では、行きますか」


 下川さんは、部下に車は走らせる様にいい、出発する。ここから中央警察署までは、すすきのの通りを抜ければすぐに着く。

 ニッカの看板のあたりで信号に捕まる。私は、車窓から、あるデパートを見つめた。


「ここって、確か」


「ラフィラですね。すすきのの昼の顔のデパートでしたが、ついこの間閉店しましたよ。何やら、再開発絡みのようで。

 これから取り壊して、新しいデパートに立て変えるそうです」


「へぇ〜。なら、この街も賑やかになりそうですね」


「そうだといいですが、知っての通り、この世の中なのでなんともはいえないんですがね。

 ここいら一帯も、その影響で売り上げがかんばしくないんだとか」


「お偉いさんたちも、真っ当な考えがないんでしょうかね? そんなことしても、返って経済が良くなるわけないのに」


「ごもっともです。行政で働く私からしても、それもおかしいと思いますよ」


 どうやら、下川さんは珍しいタイプのようだ。政治家の狗としても言われて仕方ない警官にしては、政治家があまり好きではないらしい。

 まぁ、あの汚職渦巻く職の人間を好きになるのは、そうそういないが。

 そんなこんなで、中央警察署に到着する。私は、署の休憩室で待機される。

 こうして、私は用意されたコーヒーを飲みつつ、下川さん達が来るのを待つのだった。

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