第9話 Nマネキン工場

 Nマネキン工場では、行方不明になる従業員が必ず一年に一人居た。


 A市にあったNマネキン工場は、行方不明事件が頻発して閉鎖したといわれている。

 Nマネキン工場は、同じマネキン工場として稼働していた別の会社の設備を譲り受ける形で、昭和55年まで10年ほど稼働していた。しかし稼働している間、一年に一人程度の割合で、かならず人が失踪していた。

 失踪者は家族にも何も言わずいなくなっており、また借金やトラブルなども無く、失踪する理由は皆目わからなかった。また、工場であったため訳ありの人間も多少はいるだろうと思われていたものの、身元のわからない人物というのは少なく、やはり何故失踪したのかの理由は不明だった。

 それが毎年のことになると次第に悪評が流れだし、会社の利益にまで影響。そのためマネキン工場は老朽化を原因として稼働を中止。その後再び別の会社に譲り渡す話が持ち上がったが、そもそもの機械と施設の老朽化を理由に譲渡は難航。社長一家がちりぢりになったのを最後に廃墟化し、相続人不明の状態のまま、平成15年頃に行政によって取り壊されるまで存在した。


 ところが取り壊すにあたって調査が入ったところ、マネキンから人の骨が生えていると通報があり事態が進展。中には白骨死体がそのまま残されていたものもあり、警察の調査の結果、数十人単位の遺体やDNAが発見された。中にはNマネキン工場で勤務中、行方不明になった人物と特定された人間もいた。

 しかし、発見された人骨はみなマネキンに取り付けられる形で見つかっており、この状態であれば稼働中に発見されていたはずである。また、Nマネキン工場は廃墟という場所柄、ときどき肝試しなどで若者が入っていたが、通報や似たような心霊現象や「マネキンの腕が本物である」などの噂は無かった。(ただしこれは作り物だと思われていた可能性もある)

 加えて遺体を調査したところ、死後経過した年数と行方不明になった時期が大きくずれているものも多数あり、何者かがこの工場の従業員を誘拐または監禁などして、殺した後マネキンに取り付けたのではないかという見方もできた。当時の従業員や経営者の親族などは既に逝去または地元を離れている者も多く、いまだに犯人や詳しい事情などもわかっていない。


 ただひとつ、Nマネキン工場について詳細に調べたところ、他会社から譲り受けたのはこれが最初ではなかった。マネキン工場自体はもともと戦前から存在し、N社を含めて三、四回ほど譲渡・買収が繰り返されていた。

 見つかった遺体の数を考えても、その頃から一年に一人程度の割合で従業員が消えていた可能性は高い。譲渡された原因もそこにあるのではないか。

 また、すべての会社はマネキン工場の解体ではなく譲渡を選んでいる。

 N社も老朽化を理由に稼働を中止したあとで、工場を最終的に譲渡しようとしている。


 なにゆえ彼らはその選択をしたのだろうか。

 既に聞けなくなったいまではその理由も謎に包まれている。

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