第8話 浅川黒魔術事件

 1974年3月27日、浅川村の河川敷にある小屋で焼死体が見つかった事件。

 この事件は女子中学生が、チョークで書かれた魔法陣の上で寝転がった焼死体で見つかったものである。しかし小屋の中にあったものの周囲への延焼はみられず、床に焦げ跡さえなかった。

 そのため警察は「超常的な力で人間だけ燃やされたというのでなければ、どこかで燃やした後に運び込まれたと考えた方が自然である」と結論付けた。しかしどこから運び込まれたのか、そもそもどこで燃やされたのかがまったくわかっておらず、現在でも未解決事件として残っている。


 詳細を以下に記す。


 某県の浅川村という小さな村で、早朝に何かが焼けるような臭いがしたことから森林管理組合の男性が周辺を捜索したところ、川沿いにある古い小屋の中で真っ黒になった焼死体が見つかった。死体はその時点で既に黒焦げになっており、性別すらわからない状態になっていた。一説では、発見時点ではまだ燃えていたという報告もある。


 この古い小屋は既に管理者のわからなくなった小屋で、周辺住民が掃除用具などを入れるのに使っていた。住宅に近いところにはあるが、普段はあまり人の目も無かった。

 しかし奇妙なことに燃えていたのは人間の死体だけで、周囲には一切引火していた形跡がなかった。小屋自体も木造とトタン作りであるため調査されたが、床にさえ焦げ跡が無かった。

 そのため、警察はどこか別の場所で死体を焼いた後にこの場所に運び込んだ可能性を考え、周辺の調査を行った。だが近隣にそれらしい焼け跡などは見つからず捜査は難航した。


 不審な点として、この小屋で死体が転がっていた場所には奇妙な魔法陣が描かれていた。

 この場合の魔法陣とは魔法円とも呼ばれるもので、一般的に西洋儀式魔術で用いられる床に描く円のことである。そのため、後々「悪魔に焼き殺された」「悪魔を呼び出そうとした」という噂が一人歩きすることになる。

 (※そもそも「魔法陣」という言葉は、日本においては水木しげるの「悪魔くん」から広まったもので、魔法陣という名前や、魔法陣から悪魔が出てくるなどの設定も、元々の伝統的魔術における魔法円から改変がなされたものである。事件当時の年代や被害者の性別を考えても、魔法陣というものが一般に知られていたかどうかは定かではない)

 魔法陣はチョークで描かれ、円の中に五芒星や四角などの記号が書かれており、五芒星の頂点にあたる部分には溶けた蝋燭が置いてあった。しかし蝋燭は固まっており、火元となった原因ではないと判断されている。


 その後、浅川村に住む女子中学生が行方不明になっているとの通報が入り、本人ではないかと推測された。ただ死体の性別や顔もわからなかったため、個人の特定には少々時間がかかった。

 件の女子中学生は前日の午後十一時までは自宅にいることが確認されていることと、家は朝まで鍵が掛かっていたことが証明されたが、魔法陣が出てくるようなマンガや本などの存在は確認できなかった。


 また、「悪魔を呼び出そうとした」などの噂の出所も女子中学生の通う中学校であり捜査も行われたが、警察は集団パニックだったと結論付けている。

 ただし取材によると、被害者の女子中学生は当時いじめを受けており、その復讐のために悪魔を呼び出そうとして失敗したのだという嘲笑にも近いものだった。一方で自分を生贄にして加害者たちを呪ったのだという噂も出ていた。当時の新聞記事では最初こそセンセーショナルに報じられてはいたものの、どういうわけかこの後の記事などは無く、この時の同級生がどうなったのかも不明である。

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