第25話 心の声

「さて、その思念を封じ込めた水晶の対応費用だけど・・・」

「は、はい・・・?」

あ、あれ? うららさんがどうして妖精のことを知っているのかという話、スルーされようとしてる・・・?


「この前伝えた通り、霊的な原因が疑われる出来事が起きた時に、調査に協力してほしいの。あなたと私の感知の仕方は違うでしょうから、別の視点が欲しい時に助かるのよ。

 ひとまず二回分無償でやってもらって、それ以降お願いする場合には、こちらから報酬を支払うわ。」

「は、はい・・・」

最初はお金で支払うものかと思っていたけれど、そんな風に私とルルの力が役に立つのなら、良いとは思う。うららさんと一緒なら、恐い思いをするのはともかく、危険はそれほど無いような気もするし・・・って! 話の流れに負けてるよ、私!


「そ、それは問題ないんですけど・・・どうして私と一緒にいるのが、妖精だって分かったんですか?」

「あら、私に手の内を晒せというの?」


「ひいっ!!」

私が尋ねた途端、うららさんがにっこりと笑いかけてくる。とてもとても恐い。このお仕事の話にしても、幽霊なんかより恐い人が目の前にいる気がする・・・あれ? もしかして私、早まってしまったのかな?


『シオリ・・・またこの人間にからかわれてるわよ。そこまで恐れるほどの敵意は感じないわ。』

『ふえっ!?』

ルルが私の中から語りかけてくる。あれ? もしかして力を使って・・・ああ、バレてるのが分かったから隠すこともないのか。


「ふふっ、あなた達の会話、面白いわね。」

「え・・・!?」

『は・・・?』

待って待って。今の言い方って、私とルルが心の中でしている会話が分かるってことだよね? 昨日までそんな素振りは無かったのに、実は最初から聞こえてたの・・・?


『・・・・・・分かったわ、シオリ。あなたが受け取った宝石が原因よ。思念を封じるというのも本当でしょうけど、これを持っている限り、私達の会話はこの人間に筒抜けになるわよ。』

『な、なんだってえ!?』


『そう、こんな風にね。』

『ぎゃああああ、喋ったあああ・・・・!!』


『シオリ。私達の会話が聞こえるほどに干渉されている時点で、話しかけられてもおかしくはないわ。それとも、これが何かに憑かれているという状態なの?』

『はっ・・・! い、今のは、情報の海に晒されすぎたことによる、感染症みたいなものだよ。』


『・・・ええ、私に理解できないし、無理をして考えるほどのものでないことは分かったわ。』

『うええええん・・・!』


『・・・詩織さん、なかなか出来るのね。』

『あ、ありがとうございます・・・?』

私は一体、うららさんに何を認められたのかな・・・?



「さて、話を戻すと、妖精さんが指摘してくれた通り、詩織さんに今渡したものは、私達の間で念話を可能にする力も持っているわ。

 私に聞かれたくなければ、その水晶を遠ざけるか、あなた自身の思念がそこに向かないようにすれば良いわ。」

「うっ・・・思念さんのほうを放り出すのは心配だし、地味にハードルが高い。」


「まあ、本来の用途は、さっき言った調査での連絡手段よ。何かあって近くにいられない状況も考えられるからね。

 私の友人達も協力してくれて、作り上げたものよ。あなたも既に会っているはずだけど。」

「えっ・・・? あっ! もしかして、あの時声をかけてくれた人!」


「ええ。妖精さんの存在に気付いたのは、彼女達なの。妖精自体は見たことがあるけれど、溶け合うように人の力を借りているなんて、珍しいと驚いていたわよ。」

『・・・一目で全部見抜かれてるじゃない。やっぱり一人ではなかったようだけど、何者なの・・・?』


「まあ、私からしてもよく驚かされるわよ。そして、そんな話を聞いた矢先に、遭遇場所近くの学校でお祓いの依頼よ。こちらも授業はあったけれど、休んででも直接見に行くしかないじゃない。」

「あっ・・・平日なのに同世代の人が来たなあと思ったら、そういうことだったんですか。」


「まあ、結果的にはあなたが原因ではなかったようだけど、こうして調査の助けになる人を得られたのは、良かったわね。」

「が、頑張ります・・・」


「じゃあ、さっきの質問に答えたから、無償での協力も一回追加かしら。」

「情報料請求されたあ・・・!?」


『シオリ、いい加減に気付きなさいな。この人間に遊ばれていると。』

「ううう・・・だんだん分かってきたよう・・・」


「ふふ、今のは冗談だけど、一つ教えてあげるわ。人間は振り回されることが多すぎると、たまには人を振り回したくもなるのよ。」

「それ、多分さっきから話に出てる、お友達の人ですよね・・・!?」

私に笑いかけるうららさんの瞳は、少し曇って見えた。



「まあ、今言ったことも本当だけど、詩織さんを見ていると心配になるのも確かよ。さっきまでのやり取りの相手が、悪意を持って近付いてきたような人だったら、どうなると思う?」

『ええ。こればかりはこの人間の言う通りよ、シオリ。妖精から見ても危ういのだから、本当に気を付けなさいな。』

「うぐう・・・わ、分かりました・・・・・・あれ?」

うららさんとルルに軽くお説教をされ、うなだれていると、私の手に小刻みに響いてきた、軽い痛み。


「思念さん・・・・・・もしかして、悪意なら自分が判別できるって、伝えてくれてるの?」

それにうなずくように、今度は一度だけ、私の手に刺激が届いた。


『シオリ、いつの間にそんな力が使えるようになったの?』

「これは興味深いわね。」

「あはは、私もちょっとびっくりですけど・・・ルルが最初に力をくれて、思念さんと出会えて、うららさんもこうして触れられるようにしてくれたから、みんなのおかげです。」

うん、私はまだ危なっかしいことばかりだけど、出会いには恵まれているのかな。思念さんがいる宝石をぎゅっと握ったら、少し温かさを感じた気がした。

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